厚生労働省は9月30日、社会保障審議会介護給付費分科会に、2027年度の介護報酬改定に向けた「基本的な視点(案)」を示した。柱は、物価・賃金への対応、人口減少に応じたサービス提供体制、地域包括ケアの深化、職場環境と生産性の向上、制度の持続可能性の5つ。介護事業者の経営と職員の処遇を支えながら、地域によって異なる介護需要にどう対応するかを議論するための案だ。個別サービスの報酬額や改定率が決まったわけではない。
■ 物価高と賃上げを報酬にどう反映するか
第1の視点は、物価・賃金の上昇への対応と職員の処遇改善だ。厚労省は資料で、2025年度の介護事業経営概況調査における赤字事業者の割合が、全サービスで約4割だったと説明している。
介護サービスの価格は公定価格で、事業者が物価高によるコスト増を自由に料金へ転嫁することは難しい。厚労省案は、経営状況や賃上げの実態を把握したうえで、物価・賃金の上昇を介護報酬に適切に反映し、他職種と遜色のない処遇改善や人材の定着につなげる必要があるとした。ただし、賃上げ額や報酬の引き上げ幅は示していない。
■ 人口減少地域のサービスをどう守るか
第2の視点では、地域によって介護需要が増える一方、すでに減少に向かう地域もあることを踏まえ、提供体制を地域の実情に合わせて考える。特に中山間・人口減少地域では、利用者や働き手が減っても必要なサービスを維持できる仕組みが課題となる。
資料は、2026年6月に成立した社会福祉法等の改正法で創設された「特定地域サービス」に言及。その仕組みが機能するよう、サービスの提供方法、人員配置基準、報酬を検討するとしている。中山間地域の加算の見直しや、地域の事業者・人材による協働、業務の分担も挙げた。これらは今後検討する事項であり、新たな人員基準や報酬が今回決まったわけではない。
■ 医療との連携から、地域での暮らしまで
第3の視点は、地域包括ケアシステムの深化だ。医療と介護の双方を必要とする高齢者や、認知症の人、一人暮らしの高齢者の増加を見据え、医療ニーズの高い人や看取りへの対応、生活期のリハビリテーションを進める。災害・感染症の発生時にサービスを続けるための備えや、高齢者虐待の防止も含まれる。
認知症になっても地域とのつながりや社会参加を続けられる環境、生活支援や権利擁護など多様な支援との連携も重視する。有料老人ホームのサービスの質と運営の透明性、科学的介護情報システム「LIFE」の活用、ケアの成果を適切に評価することも議論の対象に挙がった。介護報酬を施設や訪問サービスの運営だけでなく、高齢者の地域生活を支える仕組みと結び付けて考える内容となっている。
■ AIや業務分担で、ケアに向き合う時間を確保
第4の視点では、職員の負担を軽くし、働き続けられる職場づくりとサービスの質の向上を両立させる。施設系だけでなく居宅系サービスも含め、AIなどの介護テクノロジーの活用や、介護助手などとの業務分担を進める考えだ。
資料が重視するのは、効率化で生まれた時間を利用者への直接的なケアに充てること。技術の導入そのものを目的とするのではなく、職員が専門性を発揮しやすい環境と、ケアの質の確保につなげる方向を示した。
■ 必要なサービスと制度の持続可能性
第5の視点は、介護保険制度を安定して続けるための財源の使い方だ。厚労省案は、特に現役世代を中心に保険料負担の増加への懸念があるとし、必要なサービスを確保しながら、報酬評価の重点化や報酬体系の整理・簡素化を進める必要があるとした。
今回の資料は、賃金・物価への対応と、限られた財源の配分を同時に課題として掲げている。5つの視点が今後の審議で、サービスごとの評価や地域の人員配置・報酬にどう反映されるかが注目される。
