慶應義塾大学、東京科学大学、静岡大学の研究グループは2026年11月2日、双極性障害の患者と健常者の会話をAIで解析し、声の音響的な特徴が両者を見分ける手がかりになると発表した。診断を補助する客観的な指標の開発につながる成果だが、実際の診療に導入できるかどうかは、今後の検証が必要である。
■気分の変化を捉える客観的な指標を探す
双極性障害は、気分が落ち込むうつ状態と、気分が高揚し活動性が増す躁状態などを繰り返す精神疾患である。初期に躁状態がはっきりしていない場合は、うつ病と診断されることがある。状態によって治療方針が異なるため、正確な評価が重要になる。
今回の研究は、面接での会話に含まれる情報を数値化し、評価を補う手がかりを探ったものである。話している内容だけでなく、声質や周波数成分など、声そのものの特徴にも着目した。
■全国10施設の会話データを解析
原著論文は11月1日(米国東部時間)、学術誌「Journal of Medical Internet Research」に掲載された。研究グループは2017年から2024年に全国10施設で収集した、双極性障害の患者61人と健常者99人の面接会話を用いた。患者と健常者を比べる主要解析では、必要な情報が欠けた患者1人を除く60人と99人を対象とした。
機械学習による主要モデルの判別性能は、AUCという指標で0.916だった。AUCは1に近いほど判別性能が高いことを示す指標であり、「91.6%の人を正しく診断できた」という意味ではない。声の音響的な特徴だけを使ったモデルは、言葉の内容に関する特徴だけを使ったモデルより高い判別性能を示した。ただし、比較に使った特徴の候補数が音響と言語で大きく異なるため、この性能差を声の情報そのものの優位性と断定することはできない。
■うつ病との鑑別や外部集団での検証は今後の課題
今回の中心となる比較相手は健常者である。うつ病や統合失調症など、他の精神疾患と双極性障害を区別できるかどうかは調べていない。また、性能は同じ研究集団のデータを分けて検証した値であり、別の集団から新たに集めたデータで再現するかは未確認である。
患者は全員が服薬しており、声の特徴に薬の影響が含まれる可能性も残る。とくに症状が落ち着いた寛解期では、抗精神病薬の使用と判別結果との関連がみられた。双極性障害の気分状態どうしを比べた解析でも、うつ状態と躁・混合状態の判別は統計学的に有意ではなく、日々の症状を追う用途にも課題がある。
■声の印象による判断や診断の置き換えには使えない
研究で見いだしたのは、集団の会話データに表れる傾向である。特定の声の特徴を持つ人が双極性障害であることを意味せず、支援者が声の印象から個人を判断する根拠にはならない。
今回の成果は、将来、臨床面接を補助する方法を探る観察研究に位置付けられる。診断を置き換える検査が実用化されたという発表ではない。医療・介護に関わる読者にとっても、研究段階の判別性能と、個人の診断に使えることを区別して受け止める必要がある。
