はじめに|介護保険で手すりを設置したいと考えていませんか?

「親が自宅で転びそうになった」
「トイレから立ち上がるときに手すりが欲しい」
など、自宅での生活に不安を感じていませんか?
高齢になると、筋力やバランス能力の低下によって、立ち上がりや歩行、段差の昇り降りなどが不安定になる場合があります。
そのようなときに役立つのが、介護保険の住宅改修制度です。
一定の条件を満たせば、玄関やトイレ、浴室などへの手すりの取り付けについて、介護保険から工事費用の一部が支給されます。
ただし、住宅改修は原則として工事前の申請が必要であり、手続きをせずに工事を始めると、介護保険の給付を受けられない場合があります。
さらに、理学療法士の視点から、本人の身体機能や生活動作に合った手すりの選び方も紹介します。
介護保険で手すりを設置できる?住宅改修制度の基本
介護保険には、高齢者が住み慣れた自宅で安全に生活を続けられるよう、住宅の改修費用を支援する制度があります。
手すりの設置も対象となる工事の一つですが、利用するには一定の条件があります。
介護保険の住宅改修とは?
介護保険の住宅改修とは、要支援・要介護認定を受けた方が、自宅で安全に生活するために必要な工事費用の一部を支給する制度です。
例えば、玄関やトイレへの手すりの取り付け、室内の段差解消、滑りにくい床材への変更などが対象になります。



住宅改修の目的は、転倒などの事故を予防するだけでなく、立ち上がりや歩行などの動作を支え、本人ができることを維持することにもあります。
ただし、すべてのリフォーム工事が対象になるわけではありません。
住宅改修を利用できる人
住宅改修費の支給対象となるのは、原則として要支援1・2、または要介護1〜5の認定を受けた方です。
また、基本的に次の条件を満たす必要があります。
- 介護保険の要支援・要介護認定を受けている
- 本人が実際に居住している住宅である
- 介護保険被保険者証に記載された住所の住宅である
- 本人の身体状況や生活動作に照らして必要な工事である



なお、入院中や施設入所中の場合などは、取り扱いが異なることがあるため、事前に自治体へ確認しましょう。
工事を伴う手すりとレンタル手すりの違い
介護保険で手すりを利用する方法には、主に「住宅改修」と「福祉用具貸与」の2つがあります。
住宅改修は、壁や床などに手すりを固定する工事が基本です。継続的に同じ場所で使用する場合などに適しています。
一方、福祉用具貸与では、工事を伴わない据え置き型などの手すりをレンタルできる場合があります。
身体状況の変化に合わせて設置場所を見直したい場合や、住宅に穴を開けられない場合などに選択肢となります。
どちらが適しているかは、本人の身体機能や生活動作、住宅環境を踏まえて検討することが大切です。
介護保険の住宅改修で対象になる工事・ならない工事
介護保険の住宅改修では、手すりの取り付け以外にも、段差の解消や床材の変更など、日常生活を安全に送るための工事が対象になります。
ただし、住宅のリフォームであれば何でも介護保険が使えるわけではありません。 対象となる工事の種類や条件を理解しておくことが大切です。
介護保険の対象となる6種類の住宅改修
介護保険で対象となる住宅改修は、次の6種類です。
- 手すりの取り付け: 廊下や階段、トイレ、浴室などに手すりを設置する工事
- 段差の解消: 居室や廊下、玄関などの段差をなくしたり、緩やかにしたりする工事
- 床材の変更: 滑りにくくするための床材変更など、移動を円滑にする工事
- 扉の取り替え: 開き戸から引き戸への変更や、扉の撤去など
- 便器の取り替え: 和式便器から洋式便器への変更など
- 付帯工事: 上記の住宅改修に伴って必要となる下地補強などの工事
いずれも、本人の身体状況や生活上の必要性に応じた工事であることが基本です。
手すりを設置できる主な場所
手すりは、立ち上がりや歩行、段差の昇り降りなどを支えるために設置します。
例えば、玄関では上がり框の昇降、トイレでは便座からの立ち座り、浴室では浴槽の出入りを支える目的で設置することがあります。
また、廊下や階段では、移動中のふらつきや転倒のリスクを軽減するために手すりを設ける場合があります。



重要なのは、設置場所だけでなく、本人がどの動作で支えを必要としているかを確認することです。
介護保険の対象にならない工事とは?
介護保険の住宅改修は、本人の日常生活を支えるための制度です。
そのため、老朽化した住宅の修繕や、見た目をよくするためだけのリフォームなどは、原則として対象になりません。
例えば、単なる壁紙の張り替えや、本人の身体状況と関係のない設備の交換などが該当します。
また、対象となる種類の工事でも、必要性が認められなければ給付対象外になる場合があります。
工事後に対象外と判断されることを避けるためにも、必ず着工前にケアマネジャーや市区町村の介護保険担当窓口へ相談しましょう。


手すり設置の費用はいくら?20万円の支給限度額と自己負担
介護保険を利用して手すりを設置する場合、気になるのが工事費用と自己負担額ではないでしょうか。
介護保険の住宅改修では、原則20万円を上限とする対象工事費に対して、7〜9割が保険給付される仕組みになっています。
ただし、20万円がそのまま支給されるわけではないため、制度の仕組みを理解しておくことが大切です。
住宅改修の支給限度基準額は原則20万円
介護保険の住宅改修では、原則として1人につき20万円の支給限度基準額が設定されています。
これは、介護保険の給付対象となる工事費の上限額であり、20万円を現金で受け取れるという意味ではありません。
例えば、対象となる手すり設置工事が10万円だった場合、その10万円に対して利用者の負担割合に応じた保険給付が行われます。
また、20万円の限度額は住宅ごとではなく、原則として利用者ごとに管理されます。
自己負担は原則1〜3割
住宅改修の利用者負担は、所得などに応じて原則1〜3割です。
例えば、20万円の工事費すべてが介護保険の給付対象となる場合、負担額は次のようになります。
| 負担割合 | 自己負担額 | 保険給付額 |
|---|---|---|
| 1割負担 | 2万円 | 18万円 |
| 2割負担 | 4万円 | 16万円 |
| 3割負担 | 6万円 | 14万円 |
20万円全額が給付対象となる場合の計算例。対象外工事費などは別途自己負担となります。
自己負担割合は、介護保険負担割合証で確認できます。
なお、実際の工事費用は設置する手すりの種類や長さ、壁の補強工事の有無などによって異なります。
20万円を超えた場合や複数回利用する場合
対象となる工事費が20万円を超えた場合、限度額を超えた部分は原則として全額自己負担になります。
例えば、1割負担の方が25万円の対象工事を行った場合、自己負担は7万円です。内訳は、20万円の1割にあたる2万円と、超過分5万円になります。
また、20万円を一度に使い切る必要はありません。
最初に10万円の住宅改修を行った場合、残り10万円の範囲内で、後から別の工事に利用することもできます。
なお、転居した場合や、介護の必要度が制度上の区分で3段階以上重くなった場合などには、再び20万円まで利用できる特例があります。
償還払いと受領委任払いの違い
住宅改修費の支払方法には、主に次の2つがあります。
- 償還払い: 利用者が工事費をいったん全額支払い、工事後の申請・審査を経て保険給付分が払い戻される方法
- 受領委任払い: 利用者が自己負担分などを支払い、保険給付分は施工事業者が直接受け取る方法
受領委任払いを利用できるかどうかは自治体や施工事業者によって異なります。また、大阪市の「給付券方式」のように、独自の名称や仕組みを採用している自治体もあります。



工事費用だけでなく、支払方法や一時的に必要となる金額も、契約前に確認しておきましょう。
介護保険で手すりを設置するまでの申請手順
介護保険を利用して手すりを設置する場合は、工事を依頼する前に、所定の申請手続きを行う必要があります。
特に重要なのは、原則として工事を始める前に自治体へ事前申請を行うことです。
ここでは、相談から工事完了後の手続きまで、5つのステップに分けて解説します。
① ケアマネジャーや自治体に相談する
まずは、担当のケアマネジャーに手すりの設置について相談しましょう。
「トイレから立ち上がるときにふらつく」「玄関の段差を昇るのが難しい」など、本人が日常生活で困っている動作を具体的に伝えることが大切です。
ケアマネジャーは、本人の身体状況や生活環境を踏まえ、必要な住宅改修について相談に応じます。
担当ケアマネジャーがいない場合は、市区町村の介護保険担当窓口や地域包括支援センターなどに相談しましょう。
② 住宅の確認と施工事業者への見積もり依頼
次に、本人の生活動作と住宅環境を確認し、手すりの設置場所や工事内容を検討します。
例えば、トイレでは立ち座り、玄関では段差の昇り降りなど、実際の動作に合わせて設置位置や形状を考えることが重要です。
必要に応じて、理学療法士や福祉用具専門相談員などの意見も参考にしましょう。
工事内容が決まったら施工事業者に見積もりを依頼します。可能であれば複数の事業者を比較し、費用や施工内容を確認しましょう。
③ 必要書類を準備して事前申請する
工事を始める前に、必要書類をそろえて自治体へ事前申請を行います。
一般的には、住宅改修が必要な理由書、工事費の見積書、改修前の写真、工事内容がわかる書類などが必要です。
理由書は、ケアマネジャーなど所定の資格を持つ専門職が作成します。
事前申請をせずに工事を始めると、原則として介護保険の給付対象外になるため注意しましょう。
必要書類や申請方法は自治体によって異なるため、必ず事前に確認してください。
④ 自治体の確認後に工事を行う
事前申請を行ったら、自治体による書類の確認結果を待ちます。
工事内容が介護保険の給付対象として適切か確認され、着工が認められたことを確認してから工事を開始しましょう。
自治体の確認が終わる前に着工すると、給付を受けられない場合があります。
また、申請後に手すりの設置場所や工事内容を変更する場合は、施工事業者だけで判断せず、自治体へ事前に相談することが大切です。
工事完了後は、本人に実際に手すりを使用してもらい、高さや位置、使いやすさなどを確認しましょう。
⑤ 工事完了後に書類を提出する
工事が完了したら、住宅改修費の支給に必要な書類を自治体へ提出します。
一般的には、工事費の領収書、工事費内訳書、工事後の写真などが必要になります。
自治体は提出書類を確認し、給付対象となる工事が適切に行われたかを審査します。
その後、支給額が決定され、償還払いの場合は利用者へ保険給付分が払い戻されます。
なお、必要書類や支払方法、手続きにかかる期間は自治体によって異なります。



住宅改修は「相談→見積もり→事前申請→工事→支給申請」の順番を守ることが重要です。


設置場所別|手すりの選び方と取り付けのポイント
手すりは、設置する場所によって必要な役割が異なります。
また、同じ場所でも、本人の身体機能や生活動作によって適切な位置や形状は変わります。
大切なのは、手すりを設置すること自体ではなく、本人が安全に動作できる環境を整えることです。
ここでは、設置場所ごとのポイントを紹介します。
玄関の手すり|段差の昇り降りを支える
玄関では、上がり框の昇り降りや靴の着脱時にバランスを崩すことがあります。
特に、片足を持ち上げる動作や段差を越える際には、身体を安定させるための支えが必要になる場合があります。
例えば、段差の昇り降りには縦型や横型の手すり、靴の着脱時には立ち座りを支える手すりなどが考えられます。
どの動作でふらつくのかを確認し、本人が自然に手を伸ばせる位置に設置することが大切です。
トイレの手すり|立ち座りと方向転換を支える
トイレでは、便座からの立ち上がりや着座、方向転換など、複数の動作が必要になります。
立ち上がりを支える縦型手すりや、座位を安定させる横型手すりなど、動作に合わせた形状を検討しましょう。
また、L型手すりは立ち座りや姿勢保持など、複数の動作を支える目的で使用されることがあります。
ただし、手すりの位置が遠すぎたり、高さが合わなかったりすると、かえって不安定になる場合があります。
便座からの動作を実際に確認することが重要です。
浴室の手すり|滑りやすい場所での動作を支える
浴室は床が濡れやすく、転倒の危険がある場所です。
特に、浴槽のまたぎ動作や洗い場での立ち座り、浴室への出入りでは、身体を支える手すりが役立ちます。
浴槽の出入りでは、片足立ちになる場面や身体の向きを変える場面を確認しましょう。
また、濡れた手でも握りやすい形状や、浴室環境に適した材質を選ぶことも大切です。
手すりだけでなく、滑りにくい床やシャワーチェアなども組み合わせて、安全な環境を整えましょう。
廊下・階段の手すり|移動時の安定性を高める
廊下や階段では、歩行中のふらつきや段差の昇り降りを支えるために手すりを設置します。
特に階段では、昇降中に手すりから手を離さずに移動できるよう、連続性を考慮することが重要です。
廊下でも、曲がり角や段差のある場所など、姿勢が不安定になりやすい場面を確認しましょう。
移動する方向や身体の使い方に合わせて、無理なく握り続けられる位置を検討することが大切です。
身体機能に合わせて高さ・形状を決める
手すりの高さや形状は、すべての方に同じものが適しているわけではありません。
例えば、歩行時に身体を支える場合と、椅子から立ち上がる場合では、必要な手すりの位置が異なります。
また、握力が弱い方や片麻痺のある方では、握りやすさや使用する手にも配慮が必要です。
身長だけで高さを決めず、実際の立ち上がりや歩行動作を確認することが重要です。



必要に応じて理学療法士や福祉用具専門相談員などに相談し、本人の身体機能と住宅環境に合った手すりを検討しましょう。


手すり設置で失敗しないための注意点
手すりは、設置すれば必ず安全になるわけではありません。
本人の身体機能や住宅環境に合っていない場合、かえって転倒やけがにつながる可能性があります。
設置後のトラブルを防ぐためにも、工事前に確認しておきたい3つのポイントを紹介します。
本人の動作を確認せずに設置しない
手すりを設置する際は、本人が実際にどのような動作で支えを必要としているのか確認しましょう。
例えば、立ち上がるときに手すりが遠すぎると、身体を大きく前に傾ける必要があり、バランスを崩す原因になります。
また、高さや形状が合わない場合も、無理な姿勢につながることがあります。
本人の立ち座りや歩行動作を確認し、使いやすい位置を検討することが大切です。
壁の強度や取り付け方法を確認する
手すりには、身体を支える際に大きな力が加わることがあります。
そのため、壁の下地や強度が不十分な場所に取り付けると、使用中に手すりが外れる危険があります。
施工前には、専門業者に壁の構造や固定方法を確認してもらいましょう。
必要に応じて下地補強を行い、安全に使用できる状態にすることが重要です。
賃貸住宅では所有者の承諾を確認する
賃貸住宅で手すりを取り付ける場合は、工事前に住宅の所有者や管理会社へ相談しましょう。
壁への穴あけや設備の変更を伴う工事では、所有者の承諾が必要になる場合があります。
また、退去時の原状回復についても確認しておくことが大切です。



介護保険の申請だけでなく、住宅所有者との確認も工事前に済ませておきましょう。
手すりの設置では、「本人の動作」「取り付け場所の強度」「住宅の契約条件」を確認することが重要です。
安全で使いやすい手すりを設置するためにも、ケアマネジャーや施工業者などと相談しながら進めましょう。
介護保険の手すり設置でよくある質問
介護保険を利用した手すりの設置について、よくある4つの質問に回答します。
Q1|要支援1でも手すりを設置できますか?
要支援1の方でも、介護保険の住宅改修制度を利用できます。
ただし、要支援認定を受けていれば、どのような工事でも対象になるわけではありません。
本人の身体状況や生活動作から手すりの必要性が認められ、制度上の条件を満たすことが必要です。
Q2|介護保険で手すりを何本まで設置できますか?
手すりの設置本数に、一律の上限はありません。
原則20万円の支給限度基準額の範囲内で、必要性が認められる工事が対象になります。
複数箇所への設置も可能ですが、工事内容や費用について事前に自治体へ確認しましょう。
Q3|工事をしない手すりも介護保険で利用できますか?
工事不要の据え置き型手すりなどは、福祉用具貸与の対象になる場合があります。
住宅改修とは異なり、レンタルで利用できるため、身体状況の変化に合わせて設置場所を見直しやすい点が特徴です。
対象となる製品や利用条件は、福祉用具専門相談員などに確認しましょう。
Q4|工事を先に始めても介護保険は使えますか?
住宅改修は、原則として工事前の事前申請が必要です。
事前申請をせずに着工すると、原則として給付対象外になります。
やむを得ない事情がある場合など、例外的な取り扱いが認められる可能性もありますが、自己判断で工事を始めず、必ず自治体へ相談しましょう。
まとめ|介護保険の手すり設置は事前相談と申請が大切
介護保険の住宅改修制度では、一定の条件を満たす手すりの設置などについて、原則20万円までの対象工事費に対して7〜9割の給付を受けられます。
ただし、工事前の事前申請が原則必要となるため、まずはケアマネジャーや市区町村の介護保険担当窓口へ相談しましょう。
また、手すりは設置する場所だけでなく、本人の身体機能や生活動作、住宅環境に合わせて高さや形状を検討することが大切です。



手すりの設置は、単に転倒を予防するだけでなく、本人ができる動作を支え、自立した生活を続けるための環境づくりでもあります。
住み慣れた自宅で安心して暮らし続けられるよう、専門職と相談しながら、本人に合った住宅改修を進めていきましょう。










コメント