人工弁患者の歯科処置を調査|予防抗菌薬の処方に課題

2026.11.03
歯科模型と研究資料を描いた人工弁患者の歯科受診研究のイメージイラスト

京都府立医科大学が2026年11月2日に公表した研究で、人工弁のある患者の歯科処置について、予防抗菌薬の処方状況が明らかになった。京都府の医療保険データを解析し、処置の種類による処方率の違いなどを確認した。医科・歯科連携や抗菌薬の適正使用を考える資料となる一方、個々の診療の適否を処方記録だけで判断できる研究ではない。

■ 3,664人、5万件超の処置を解析

対象は2017年5月から2024年3月までに、人工弁のある3,664人に行われた52,247件の侵襲的歯科処置である。侵襲的歯科処置には、抜歯や歯石除去など、出血を伴い細菌が血液に入り込む可能性のある処置が含まれる。論文は10月31日、循環器分野の学術誌「Circulation Journal」に先行公開された。

日本循環器学会の2026年版感染性心内膜炎診療ガイドラインでは、人工弁のある人など感染性心内膜炎のリスクが高い患者に対し、侵襲的な歯科処置の前の予防抗菌薬を推奨している。感染性心内膜炎は、細菌などが心臓の弁などに感染する病気である。すべての人や、すべての歯科受診で抗菌薬が必要という意味ではない。

■ 処置ごとの差を確認、全体値の読み方に注意

予防抗菌薬の処方が確認された割合は、抜歯で47.3%、歯石除去で5.4%、全体で9.2%だった。9.2%は患者の割合ではなく、解析した処置件数に占める割合である。

原論文では、処置当日を含む処置前7日以内の抗菌薬の処方記録を、予防抗菌薬の処方として集計している。解析対象の約4分の3を歯石除去が占めており、全体の数値は処置の内訳にも影響される。

また、飲み薬の38.1%は、薬剤耐性への影響から慎重な使用が求められる「Watch群」に分類されていた。研究チームは、処方の有無に加え、薬剤の選び方も含めた適正使用や、患者への情報提供の必要性を指摘している。

■ 処方記録では分からないこともある

これは新しい治療法の効果を試した臨床試験ではなく、診療報酬の請求情報であるレセプトを用いた横断研究である。実際に薬を使った時刻、処方の目的、処置ごとの出血リスクなどは確認できない。

そのため、処方が記録されていない処置を一律に不適切と判断することはできず、抗菌薬を使わなかったことが感染性心内膜炎につながったとも結論づけられない。京都府のデータで、会社員などの被用者保険は含まれておらず、全国にそのまま当てはめる際にも注意が必要である。

■ 介護現場では、歯科受診時の情報共有を

介護現場への示唆は、歯科受診を支える際に、人工弁があることや心臓の治療歴が歯科側に伝わっているかを確認することである。本人・家族、看護職や主治医と連携し、必要な情報を歯科医師に届ける役割が考えられる。

予防抗菌薬が必要か、どの薬をいつ使うかは医師・歯科医師が判断する事項である。介護職や家族が自己判断で薬を追加・中止することは避けたい。日々の口腔ケアと必要な歯科受診を支えながら、心臓の病気に関する情報共有を確かめることが実務上のポイントとなる。

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