はじめに
厚生労働省が公表した2025年の「国民生活基礎調査」によると、在宅で生活する要支援・要介護者がいる世帯のうち、約3人に1人が一人暮らしという結果が明らかになりました。
また、同居する主な介護者との年齢では、65歳以上同士の「老老介護」は61.9%、さらに75歳以上同士は37.1%に達しており、高齢者が高齢者を支える状況も年々増えています。
長谷川これらの数字は単なる統計ではなく、介護職や医療職、家族介護者が日々向き合っている現場の現実を表していると思います。
要介護者の単身化や老老介護が進めば、転倒や体調悪化の発見が遅れたり、介護する側が体調を崩してしまったりするなど、これまで以上にさまざまな課題が生じることが予想されます。
この記事では、厚生労働省の調査結果をもとに、要介護者の単身化と老老介護が進むことで介護現場にどのような変化が起きるのか、そして今後求められる支援について、理学療法士の視点からわかりやすく解説します。
① 国民生活基礎調査で見えた介護を取り巻く現状
厚生労働省が公表した2025年の「国民生活基礎調査」では、要支援・要介護者を取り巻く環境が大きく変化していることが明らかになりました。
特に目立つのが、要介護者の単身化と老老介護の増加です。
少子高齢化や核家族化が進む中で、高齢者が一人で暮らすケースや、高齢者同士で介護を担う家庭は今後さらに増えていくことが予想されています。
要介護者の3人に1人が一人暮らしに
調査によると、在宅で生活する要支援・要介護者がいる世帯のうち、単独世帯(一人暮らし)は33.2%となりました。
一方で、親・子・孫が同居する3世代世帯は9.0%まで減少しています。



これは、要介護状態になっても家族と同居するのではなく、一人暮らしを続けながら生活している方が増えていることを示しています。
高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられることは望ましい一方で、急な体調変化や転倒などが起きた際に、すぐに気付いてもらえないという課題もあります。
老老介護は6割超、75歳以上同士も増加
同居する主な介護者の年齢にも大きな変化が見られました。
調査では、65歳以上同士の老老介護は61.9%、さらに75歳以上同士は37.1%となっています。



つまり、多くの家庭では、高齢者が高齢者を支えることが当たり前になりつつあるということです。
介護をする側も加齢による筋力低下や持病を抱えていることが少なくありません。そのため、介護を続ける中で身体的・精神的な負担が蓄積し、介護する人・される人の双方が支援を必要とするケースも増えています。
こうした調査結果からも分かるように、これからの介護は家族だけで支える時代ではなく、介護サービスや地域全体で支える仕組みがますます重要になっていくでしょう。


② 要介護者の単身化が進むと何が起きるのか
要介護者の一人暮らしが増えることは、「家族と離れて暮らす人が増えた」というだけではありません。
介護や医療の現場では、一人暮らしだからこそ起こりやすい問題が数多くあります。
ここでは、理学療法士として訪問看護・リハビリや在宅支援に携わる中で、特に重要だと感じるポイントを紹介します。
転倒しても発見が遅れる
一人暮らしで最も心配なのが、転倒や体調の急変に気付いてもらえないことです。
例えば、自宅で転倒して立ち上がれなくなった場合、家族と同居していればすぐに助けを呼べるかもしれません。しかし、一人暮らしでは、訪問サービスの日まで誰にも気付かれないケースもあります。
高齢者は転倒をきっかけに骨折し、そのまま寝たきりにつながることも少なくありません。



だからこそ、転倒を予防することはもちろん、「転倒した後にすぐ対応できる環境」を整えておくことも非常に重要です。
服薬管理が難しくなる
加齢とともに服用する薬が増える方は少なくありません。
一人暮らしでは、飲み忘れや飲み間違いに気付いてくれる人がおらず、薬を自己判断で中止してしまうケースもあります。
服薬管理がうまくできないと、持病の悪化や再入院につながる可能性もあります。
そのため、訪問看護や薬剤師による服薬支援、お薬カレンダーなどを活用し、無理なく継続できる仕組みを作ることが大切です。
栄養状態が悪化しやすい



一人暮らしになると、「食べること」が負担になる方もいます。
買い物へ行くことが難しかったり、調理がおっくうになったりすることで、食事の回数や内容が偏ってしまうことがあります。
栄養不足は筋力低下を招き、歩行能力や立ち上がる力の低下にもつながります。
理学療法士の立場から見ても、身体機能を維持するためにはリハビリだけでなく、十分な栄養を摂ることが欠かせません。
孤立は身体機能や認知機能の低下につながることも
一人暮らしだからといって、必ずしも孤立するわけではありません。
しかし、人と話す機会や外出する機会が減ると、活動量が低下し、心身にさまざまな影響を及ぼすことがあります。
家の中で過ごす時間が長くなることで筋力や体力が低下し、転倒リスクが高まるだけでなく、人との交流が少ない生活は認知機能の低下につながる可能性も指摘されています。
訪問看護やデイサービスなどの介護サービスは、身体の支援だけでなく、人とのつながりを保つ大切な役割も担っています。
一人暮らしでも安心して生活を続けるためには、「困ってから支援を受ける」のではなく、早い段階から地域や介護サービスとつながっておくことが重要です。
③ 老老介護が増えると介護者にも負担がかかる
老老介護とは、高齢者が高齢者を介護する状態を指します。
今回の調査では、65歳以上同士の老老介護が6割を超え、75歳以上同士も約4割に達していました。
介護を受ける人だけでなく、介護をする人も高齢化していることが、これからの在宅介護の大きな課題となっています。
高齢の介護者は「介護する体力」が低下している
75歳前後になると、筋力やバランス能力、持久力は少しずつ低下していきます。
その状態で毎日移乗介助や歩行介助を続けると、腰や膝への負担が大きくなり、腰痛や関節痛を抱える介護者も少なくありません。
さらに、介助中にバランスを崩して転倒してしまうと、介護者自身がケガを負い、介護を続けられなくなる可能性があります。



介護者が倒れてしまえば、要介護者の生活も成り立たなくなり、まさに「共倒れ」の状態になってしまいます。
見えにくい精神的な負担も大きい
老老介護では、身体的な負担だけでなく精神的な負担も深刻です。



「自分しか介護する人がいない」
という責任感から、休むことに罪悪感を抱いたり、慢性的な疲労や睡眠不足が続いたりするケースも少なくありません。
介護は数日で終わるものではなく、何か月、何年と続くこともあります。
だからこそ、介護を受ける人だけでなく、介護をする人の健康や生活にも目を向けることが、これからの在宅介護ではますます重要になっていくでしょう。
④ 在宅介護を支えるサービスの役割はますます重要に
要介護者の一人暮らしや老老介護が増える中で、一つのサービスだけで生活を支えることは難しくなっています。
転倒予防や服薬管理、身体機能の維持、生活支援など、それぞれの専門職が役割を担いながら連携することが、安心して在宅生活を続けるためには欠かせません。
訪問介護・訪問看護・ケアマネジャーの連携が必要
在宅介護では、一人の利用者様に対して複数の職種が関わることが一般的です。
例えば、訪問介護は日常生活の支援、訪問看護は医療的な管理や健康状態の確認、ケアマネジャーはサービス全体の調整を担っています。
さらに、必要に応じて理学療法士や作業療法士によるリハビリ、福祉用具専門相談員による環境整備など、多くの専門職が関わります。
重要なのは、それぞれが別々に支援するのではなく、情報を共有しながら同じ目標に向かって支援することです。



「最近歩く力が落ちている」
「食事量が減っている」
「転倒しそうな場面が増えた」
といった小さな変化を職種間で共有できれば、早い段階で対応できる可能性が高まります。
地域全体で支える仕組みづくりが求められる
これからの介護は、家族だけが担う時代ではありません。
高齢者の一人暮らしが増える今、介護・医療だけでなく、地域包括支援センターや自治体、民生委員、近隣住民など、地域全体で見守る体制づくりも重要になっています。
介護サービスは、困ってから利用するものではなく、安心して暮らし続けるための社会資源です。
今後さらに高齢化が進む中では、一人の専門職や一つのサービスだけで支えるのではなく、それぞれが役割を果たしながら支え合うことが、在宅介護を続けるための大きな鍵になるでしょう。
⑤ 現場で働く私が感じるこれからの介護
私は理学療法士として病院や介護施設、現在は訪問看護の現場で多くのご利用者様と関わってきました。
その中で感じるのは、介護技術や看護師やリハビリの介入だけでは解決できない課題が年々増えているということです。
一人暮らしや老老介護が増えた今、「身体機能を改善すること」だけではなく、その人が安心して生活を続けられる環境を整えることが、これまで以上に重要になっていると感じます。
一人で頑張る介護には限界がある
訪問先では、



「家族に迷惑をかけたくない」
「できるだけ一人で頑張りたい」
という言葉を耳にすることがあります。
その思いはとても大切ですが、一人で抱え込み続けることで、体調を崩したり、転倒や介護疲れにつながったりするケースも少なくありません。
介護は一人で頑張るものではなく、必要なときに周囲の力を借りながら続けていくものです。



支援を受けることは「甘え」ではなく、長く安心して生活を続けるための大切な選択だと思います。
「生活を支える視点」がこれまで以上に重要になる
理学療法士というと、「歩く練習をする人」というイメージを持たれることがあります。
しかし在宅では、「歩けるかどうか」だけでは生活は成り立ちません。
- 転倒しにくい環境になっているか
- 無理なく食事やトイレへ行けるか
- 服薬や買い物に困っていないか
など、生活全体を見ながら支援することが大切です。
要介護者の単身化や老老介護が進むこれからの時代は、介護や医療の専門職が連携し、一人ひとりの生活に寄り添いながら支えていくことが、これまで以上に求められていくでしょう。


⑥ まとめ|介護は地域全体で支える時代へ
厚生労働省の調査からも分かるように、要介護者の単身化や老老介護は今後さらに進んでいくことが予想されます。
介護を必要とする方が増える一方で、支える家族も高齢化しており、「家族だけで介護を担う」という形には限界が見え始めています。
これからの介護では、一人で抱え込まず、必要な支援につながることがこれまで以上に重要になるでしょう。
要介護者の単身化は今後も進む可能性が高い
少子高齢化や核家族化が進む日本では、一人暮らしの要介護者は今後も増えていくと考えられます。
そのため、転倒や体調の変化を早期に発見し、安心して在宅生活を続けられる仕組みづくりがますます求められます。
一人で抱え込まず、支援につながることが大切
介護は、家族だけで何とかしようと頑張り続けるほど負担が大きくなります。
困ってから相談するのではなく、少しでも不安を感じた段階で介護サービスや地域の相談窓口を利用することが、介護を長く続けるための大切なポイントです。



支援を受けることは、介護を諦めることではなく、介護を続けるための選択肢の一つです。
介護職・家族・地域が連携することが安心した生活につながる
これからの介護で大切なのは、「誰か一人が支える」のではなく、「みんなで支える」という考え方です。
介護職や医療職、家族、そして地域がそれぞれの役割を果たし、連携しながら支えていくことで、ご利用者様も介護者も安心して生活を続けることができます。
要介護者の単身化や老老介護は、今後の日本が向き合う大きな課題です。
だからこそ、一人で抱え込まない介護、そして地域全体で支え合う介護を実現していくことが、これからの時代にはますます重要になっていくでしょう。










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