はじめに
介護現場では、バルーンカテーテル(膀胱留置カテーテル)を装着しているご利用者様の移乗介助を行う機会は少なくありません。
しかし、

「チューブを引っ張ってしまわないか不安…」
「尿バッグはどこに置けばいいの?」
「普段と同じように移乗介助をしても大丈夫?」
と悩んだ経験がある介護職の方も多いのではないでしょうか。
バルーンカテーテル装着中の移乗介助では、チューブや尿バッグの位置を確認せずに介助を行うと、カテーテルを引っ張ってしまったり、ご利用者様に痛みや出血を生じさせたりする危険があります。
また、介助者がバルーンカテーテルばかりに意識を向けてしまうことで、移乗動作そのものが不安定になり、転倒事故につながる可能性もあります。



一方で、移乗前・移乗中・移乗後に確認すべきポイントを押さえておけば、必要以上に怖がることなく安全に移乗介助を行うことができます。
この記事では、理学療法士の視点から、バルーンカテーテル装着中のご利用者様を安全に介助するためのポイントを、介護現場で実践しやすい形でわかりやすく解説します。
バルーンカテーテルとは?
バルーンカテーテル(膀胱留置カテーテル)の役割
バルーンカテーテル(膀胱留置カテーテル)とは、尿を自力で排出することが難しい場合に、尿道から膀胱内へカテーテルを留置し、持続的に尿を排出するための医療器具です。
カテーテルの先端には小さな風船(バルーン)が付いており、膀胱内で膨らませることで抜けないように固定されています。排出された尿はカテーテルの中を通り、チューブを介して尿バッグ(蓄尿バッグ・ウロバッグ)に溜まる仕組みです。
介護現場では、ベッド上だけでなく、車椅子への移乗や歩行、トイレへの移動など、日常生活のさまざまな場面でバルーンカテーテルを装着したご利用者様を介助することがあります。
そのため、移乗介助ではご利用者様の身体だけでなく、「カテーテル・チューブ・尿バッグを含めた一つのライン」として考えることが重要です。



この意識を持つだけでも、カテーテルの牽引や尿バッグの引っ掛かりなど、多くのトラブルを防ぐことにつながります。


なぜ移乗介助で事故が起きるのか
チューブが引っ張られてしまう
バルーンカテーテル装着中の移乗介助で最も多いトラブルの一つが、チューブを引っ張ってしまうことです。
移乗介助では、介助者はご利用者様の姿勢や立ち上がり、足元などに意識が向きやすく、カテーテルやチューブの位置まで十分に確認できていないことがあります。
例えば、ベッド柵や車椅子のアームサポートにチューブが引っ掛かったまま立ち上がったり、チューブの長さに余裕がない状態で身体を動かしたりすると、カテーテルに強い力が加わってしまいます。
カテーテルが牽引されると、ご利用者様は
- 強い痛みを感じるだけでなく
- 尿道を傷つけたり
- 出血を起こしたりする危険もあります。



介助そのものは問題なく行えていても、チューブの確認不足だけで事故につながることがあるため注意が必要です。
尿バッグの位置を見落としやすい
チューブだけでなく、尿バッグの位置にも注意しなければなりません。
例えば、尿バッグを床に置いたまま移乗すると
- 床で擦ってしまったり
- 車椅子のタイヤやフットサポートに引っ掛かったり
することがあります。
移乗後も、
- バッグが車椅子のフレームに挟まれていたり
- チューブがねじれていたりすると、
尿がスムーズに流れなくなる可能性があります。
また、尿バッグを一時的に持ち上げてしまい、膀胱より高い位置になることも避けたいポイントです。尿バッグは膀胱より低い位置を保つことで尿が自然に流れやすくなり、逆流のリスクを抑えることができます。
移乗介助では、ご利用者様の身体だけでなく、「チューブ」と「尿バッグ」の位置まで確認して初めて安全な介助と言えます。



移乗前・移乗中・移乗後の3つのタイミングで確認する習慣をつけることが、事故予防につながります。
バルーンカテーテル装着中の移乗介助で事故を防ぐ5つのポイント
① 移乗前にチューブの走行を確認する
移乗介助を始める前に、まず確認したいのがチューブがどのように通っているか(走行)です。



「どこから出て、どこを通り、尿バッグまでつながっているのか」
数秒確認するだけでも、多くの事故を防ぐことができます。
例えば、
- ベッド柵に引っ掛かっていないか
- 車椅子のアームサポートやフットサポートに挟まっていないか
- チューブがねじれたり、折れ曲がったりしていないか
などを確認してから介助を始めましょう。
移乗介助が始まると、ご利用者様の身体を支えることに意識が向き、チューブまで確認する余裕は少なくなります。そのため、「まずはチューブを見る」という習慣をつけることが、安全な介助の第一歩です。
② 尿バッグは膀胱より低い位置を保つ
尿バッグは、常に膀胱より低い位置に保つことが基本です。
尿は重力によって自然に尿バッグへ流れるため、バッグを膀胱より高い位置に持ち上げると、尿の逆流につながる可能性があります。
また、移乗中はバッグが揺れやすいため、
- 手で軽く支える
- 車椅子のバッグホルダーを使用する
- バッグが宙に浮いたり振り回されたりしないようにする
といった配慮も大切です。



「バッグを持っているから大丈夫」ではなく、どの高さにあるかまで意識することが事故予防につながります。
③ チューブに余裕を持たせて介助する
移乗介助では、チューブに適度な余裕を持たせることも重要なポイントです。
チューブがピンと張った状態で立ち上がると、ご利用者様の動きに合わせてカテーテルが引っ張られ、痛みや尿道損傷の原因になることがあります。
そのため、立ち上がる前にチューブの長さを確認し、身体の動きに合わせて無理なく動けるよう余裕を確保しておきましょう。
特に、
- ベッドから車椅子への移乗
- トイレへの移乗
- 方向転換を伴う移乗
では、身体の向きが変わることでチューブが引っ張られやすくなるため注意が必要です。



「ご利用者様の身体」と「チューブ」は一緒に動くものという意識を持つことで、無理な牽引を防ぐことができます。


④ バッグを床やタイヤに接触させない
移乗介助では、チューブだけでなく尿バッグの位置にも注意が必要です。
尿バッグが床を擦ってしまうと、不潔になるだけでなく、移動中に家具や車椅子へ引っ掛かる原因になります。また、車椅子へ移乗した後も安心せず、バッグがフットサポート・車輪・ブレーキなどに接触していないか確認しましょう。
例えば、
- フットサポートにバッグが乗ってしまう
- 車輪にバッグやチューブが巻き込まれる
- ブレーキレバーにチューブが引っ掛かる
といったトラブルは、介護現場でも意外と多く見られます。
移乗後は尿バッグを専用ホルダーやフレームに固定し、チューブも車輪の近くを通らないよう整理しておくと安心です。



「床・タイヤ・ブレーキに触れていないか」
この3つを確認する習慣をつけるだけでも、多くの事故を予防できます。
⑤ 移乗後にもう一度確認する



移乗介助が無事に終わると、つい安心してしまいがちですが、最後の確認まで行うことが大切です。
まずは、チューブが引っ張られていないか、折れ曲がったりねじれたりしていないかを確認しましょう。あわせて、尿バッグが膀胱より低い位置にあり、適切に固定されていることも確認します。
さらに、ご利用者様へ



「痛みはありませんか?」
「違和感はありませんか?」
と一声掛けることも重要です。
介助者から見て問題がなくても、ご利用者様は軽い痛みや違和感を感じていることがあります。早い段階で気付くことができれば、大きなトラブルを未然に防ぐことにもつながります。
移乗介助は、ご利用者様を車椅子へ移した時点で終わりではありません。
チューブ・尿バッグ・ご利用者様の状態を最後に確認するまでが、安全な移乗介助です。
やってはいけない介助
バッグを持たずに無計画に移乗する



移乗介助では、「尿バッグを手で持つこと」よりも、チューブや尿バッグが引っ掛からない環境を整えることが大切です。
例えば、チューブがベッドと車椅子の間をまたいでいたり、尿バッグが移動する動線上にあったりすると、移乗中にチューブが引っ張られる原因になります。
移乗を始める前に、
- チューブの走行を確認する
- 尿バッグが移動の邪魔にならない位置にあるか確認する
- 必要に応じて車椅子のアームサポートやベッドのサイドレールへ一時的に掛けるなど、安全な位置へ移動させる
といった準備をしておくことで、両手でご利用者様を安全に支えながら介助を行うことができます。



介助を始める前に動線までイメージしておくことで、事故のリスクを大きく減らすことができます。
チューブを引っ張ったまま体を動かす
チューブが張った状態で立ち上がったり方向転換したりすると、カテーテルが強く牽引され、ご利用者様に痛みや出血を生じさせる危険があります。
特に、介助を急いでいる時や、ご利用者様の立ち上がりに気を取られている時ほど起こりやすいトラブルです。
チューブに少しでも張りを感じたら、そのまま介助を続けるのではなく、一度動きを止めてチューブの位置を整えましょう。



数秒の確認が、大きな事故を防ぎます。
バッグを膀胱より高く持ち上げる
尿バッグは、膀胱より低い位置を保つことが原則です。
移乗中にバッグを高く持ち上げたり、車椅子の座面へ置いたりすると、一時的に膀胱より高い位置になることがあります。
尿の逆流は尿路感染症のリスクを高める原因の一つとされているため、介助中もバッグの高さには注意が必要です。



バッグは必要以上に持ち上げず、常に膀胱より低い位置を意識しましょう。
バルーンカテーテルばかり見て介助姿勢が崩れる
バルーンカテーテルを気にするあまり、介助者自身の姿勢が崩れてしまうことも少なくありません。
例えば、
- 前かがみになり過ぎる
- 腕だけで身体を支える
- 足元が不安定なまま介助する
このような姿勢では、介助者の腰を痛めるだけでなく、ご利用者様のバランスを崩して転倒につながる危険もあります。



大切なのは、バルーンカテーテルだけを見るのではなく、ご利用者様全体を見ることです。
ご利用者様の姿勢や重心をしっかり支えながら、チューブや尿バッグの位置も同時に確認する。このように全体を意識した介助が、安全で安心できる移乗につながります。
バルーンカテーテルがあっても「安全に動ける環境」をつくる
大切なのは動かさないことではない
バルーンカテーテルを装着していると、



「危ないから動かさない方がいい」
と考えてしまうことがあります。
もちろん、無理な移動や確認不足のまま介助を行うことは避けなければなりません。
しかし、バルーンカテーテルが入っていることを理由に必要以上に動く機会を減らしてしまうことも問題です。
身体を動かす機会が少なくなると、筋力や体力は徐々に低下し、立ち上がりや歩行が難しくなっていきます。その結果、ベッド上で過ごす時間が増え、寝たきりへつながるリスクも高まります。
大切なのは「動かさないこと」ではありません。



安全に動ける環境を整えた上で、その人らしい生活を続けられるよう支援することです。
正しい介助が安心して生活することにつながる
私たちが行う移乗介助は、単にベッドから車椅子へ移すための技術ではありません。
安全に移乗できることで、
- ご利用者様は食事を楽しみ
- トイレへ行き
- 人と会話をし
- リハビリや趣味にも参加しやすくなります。



つまり、一つひとつの介助が、その方の生活そのものを支えています。
バルーンカテーテルを装着していても、確認するポイントを押さえ、安全な環境を整えれば、多くの場合は普段どおりの生活を送ることができます。
介助で本当に大切なのは、カテーテルだけを見ることではなく、「この方が安心して生活を続けるためには何が必要か」を考えることです。
移乗介助は、単なる移動の手段ではありません。



その人らしい生活を支えるための、大切な介護技術の一つなのです。


まとめ|バルーンカテーテルがあっても安全な移乗はできる
移乗前・移乗中・移乗後の確認を習慣にしよう
バルーンカテーテル装着中の移乗介助で大切なのは、特別な技術ではありません。
- 移乗前にチューブの走行を確認する
- 移乗中はチューブや尿バッグが引っ掛からないように注意する
- 移乗後はチューブ・尿バッグ・ご利用者様の状態をもう一度確認する
このように、移乗前・移乗中・移乗後の3つのタイミングで確認する習慣を身につけるだけでも、多くの事故は予防できます。
忙しい介護現場だからこそ、慌てて介助を始めるのではなく、数秒の確認を大切にしましょう。
バルーンカテーテルがあっても安全な移乗はできる
バルーンカテーテルを装着しているご利用者様の移乗介助は、決して特別なものではありません。



大切なのは、「危ないから動かさない」のではなく、安全に動ける環境を整えることです。
チューブや尿バッグの位置を確認し、ご利用者様にも安心して動いていただけるように介助することで、転倒やカテーテルの牽引などの事故を防ぎながら、その人らしい生活を支えることができます。
日々の移乗介助を少し見直すことが、ご利用者様の安全だけでなく、介助者自身の安心にもつながります。
ぜひ今回ご紹介した5つのポイントを、明日からの介護現場で実践してみてください。










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