失認
ひとことでいうと
失認
失認とは、基本的な感覚の低下だけでは説明できない、対象や刺激を認識する働きの障害です。狭い意味では、特定の感覚を通すと対象が分からない一方、別の感覚を使えば認識できる状態を指します。意識、注意、視力や聴力などの状態を確認したうえで評価します。
代表的なものに視覚性失認、聴覚性失認、触覚性失認があります。例えば、鍵を見ても何か分からないが触ると分かる、聞こえている音が何の音か分からない、手で触れた物を認識できないが見れば分かる、といった例です。障害される感覚や対象は人によって異なります。
脳血管障害や頭部外傷などの脳損傷、神経変性疾患に伴ってみられることがあります。広い意味では身体失認や病態失認なども含めて用いられますが、同じ名称でも病態は多様です。物の名前だけが出ない失語症や、意味記憶の問題などとも区別する必要があります。
見当識障害が時間・場所・人物などの把握の困難を指すのに対し、失認では対象を認識する過程の困難が中心になります。生活への影響を観察し、認識しやすい手がかりや環境を整えます。本人の知識や理解力がすべて失われたと決めつけず、専門職と支援を考えます。
認識できる手がかりを探して生活の安全につなげる
失認が疑われるときは、「見えない」「聞こえない」という訴えをそのまま視力や聴力の問題と判断せず、基本的な感覚を確認します。物を認識しているのに名前が出ない場合もあるため、用途を示せるか、選べるかなど、言葉以外の反応にも目を向けます。
視覚的に分かりにくい物が、触覚や特徴的な音で分かる場合があります。写真や文字の表示も、本人にとって認識しやすいとは限りません。実物、声、触れた感触などを安全な範囲で確かめ、生活場面で使いやすい手がかりを選びます。
支援では、物を置く場所や配置をそろえ、不要な物を減らし、必要な対象を見つけやすくします。知らない物として扱ってしまうことによる誤使用にも注意が必要です。本人が分かる方法を家族や職員で共有し、環境が変わったときには混乱や安全性を改めて確認します。できる部分を残しながら必要な援助を調整します。
現場で知っておきたいポイント
対象を分からない様子があるときは、感覚の状態や注意、説明の理解も確認します。分かる手がかりを一緒に探す姿勢で関わります。
- 実物、声、触感など、認識しやすい情報の種類を確認する。
- 道具の定位置を決め、必要な物を取り出しやすくする。
- 説明は具体的にし、本人の反応を待ってから援助する。
- 熱い物や刃物、食べられない物の誤使用・誤飲に注意する。
- 認識できた条件と困った場面を記録し、支援者間で共有する。
「知っているはず」と繰り返し試したり、答えを急がせたりしないでください。認識の困難から不安を感じる場合があるため、落ち着いた環境で、本人が安心できる人や方法を使って支援します。
困難が続く場合は医師や作業療法士などに相談します。急に物や人が分からなくなったときは、新たな脳や全身の変化も考え、普段との違いを医療職へ速やかに報告します。
参考情報・参考文献
日本神経心理学会『神経心理学』鈴木匡子「Agnosia(失認)」
狭義・広義の失認、視覚・聴覚・触覚の例、鑑別の視点と英語表記を確認しました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/neuropsychology/41/2/41_17245/_html/-char/en
参照日:2026年10月11日
日本高次脳機能障害学会『高次脳機能研究』「失認のみかた」
特定の感覚を通した対象認識の困難と、症状を正確に記載する重要性を確認しました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/40/2/40_204/_article/-char/ja
参照日:2026年10月11日
国立障害者リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センター「高次脳機能障害を理解する」
学術的な高次脳機能障害に失認が含まれることと、生活支援の位置付けを確認しました。
https://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/
参照日:2026年10月11日
