帰宅願望
ひとことでいうと
帰宅願望
帰宅願望とは、家へ帰りたいという希望や訴えを表す言葉です。認知症の介護では、施設や病院で繰り返し「帰りたい」と話す場面などに使われます。独立した病名ではなく、訴えの背景を理解するための表現として捉えます。帰りたい気持ちは認知症だけに特有のものではありません。
認知症のある方では、現在の自宅にいても帰りたいと訴える場合があります。今いる場所を自宅と認識しにくい、以前住んでいた家を思い浮かべているなど、受け止め方が異なるためです。「家」が安心感や家族とのつながりを意味することもあります。
時間や場所に関する理解の変化に加え、不安、寂しさ、慣れない環境、過去の役割などが関わる場合があります。痛み、疲労、空腹、排泄の不快感なども確認します。一つの理由に決めつけず、どのような場面で訴えが強まり、何があると安心するかを見ます。
帰宅の訴えがあっても、必ず外出や行方不明につながるわけではありません。歩き回る行動や道に迷うこととは区別します。否定や説得だけで解決しようとせず、本人が望むことと実際の移動の安全性を確認し、家族や多職種と支援を考えます。
「帰りたい」という訴えにはどう対応する?
「ここが家ですよ」と繰り返し訂正しても、本人にとってなじみの場所と感じられなければ、不安が強まることがあります。まずは「帰りたいんですね」と思いを受け止め、どんな場所へ、誰のもとへ帰りたいのかを、負担にならない範囲で聴きます。説明できないことを責めたり、質問を重ねたりしません。
体調や室温、排泄、疲労などを確認し、休息やなじみの写真、好きな音楽、落ち着ける場所などを本人に合わせて提案します。過去の生活を話してもらうことが安心につながる場合もありますが、悲しい記憶などでつらくなる方もいます。反応を見ながら方法を選び、同じ声かけを全員に当てはめません。
外へ向かおうとする場合は、行き先や道順の理解、付き添いの必要性を確認します。帰宅の希望と安全な外出の方法を一緒に考えることが大切です。実現できない約束でその場をしのぐ対応に頼らず、訴えた時刻、直前の出来事、落ち着けた関わりを記録し、家族・多職種で継続的に見直します。
現場で知っておきたいポイント
帰りたいという言葉を、本人の思いを知る手がかりとして受け止めます。場所の訂正より、安心と安全につながる支援を考えます。
- 傾聴:帰りたい場所、会いたい人、気がかりを穏やかに聴き、訴えの内容と表情を記録します。答えを急がせません。
- 体調:痛み、疲労、空腹、口渇、排泄の必要を確認します。言葉にしにくい不快感も行動や表情から捉えます。
- 環境:騒音や人の出入りを調整し、なじみの物や安心できる場所を用意します。入院・入所直後の変化にも配慮します。
- 対応:強い否定や説得を避け、休息や好きな活動を提案します。外へ向かう場合は希望と移動の安全性を確認します。
- 共有:訴えが出る時間帯、生活歴、落ち着いた方法を家族・多職種で共有し、付き添いや見守りの方法を相談します。
帰宅の訴えだけで認知症の進行と判断しません。急な混乱や体調悪化があれば医療職へ報告し、対応後の変化も記録します。行方不明時は速やかに警察へ連絡します。
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参考情報・参考文献
国立長寿医療研究センター「よくある質問・Q&A(対応に困る言動との向き合い方)」
確認内容:自宅にいても帰宅を訴える場合、時間帯や行き先の確認、本人の思いを踏まえた関わり。
https://www.ncgg.go.jp/dementia/with/face.html
参照日:2026年10月14日
Alzheimer’s Society「Difficult questions and telling the truth to a person with dementia」
確認内容:帰宅の訴えと安心感の関係、議論を避ける対応、身体的な不快感や未充足のニーズの確認。
https://www.alzheimers.org.uk/about-dementia/stages-and-symptoms/difficult-questions-truth-telling
参照日:2026年10月14日
Dementia UK「Managing distress in a person living with dementia」
確認内容:慣れない環境や過去の記憶、疼痛・疲労・感覚刺激などの背景、感情を受け止める対応。
https://www.dementiauk.org/information-and-support/health-advice/coping-with-distress/
参照日:2026年10月14日
