非薬物療法
ひとことでいうと
非薬物療法
非薬物療法とは、薬物を投与する方法以外で、症状の軽減や生活機能、生活の質を支える治療・支援の総称です。医療全般で使われる言葉ですが、認知症ケアでは、本人の生活と環境に働きかける方法を含む幅広いアプローチとして用いられます。
具体的には、運動、認知刺激、回想法、音楽を用いた支援、生活行為への働きかけなどがあります。分かりやすい声かけ、見やすい案内、落ち着ける居場所、生活リズムの調整、家族への支援も重要です。活動を実施することだけでなく、日常生活で困りごとを減らす工夫にも目を向けます。
方法を選ぶ前に、本人の意思、好み、生活歴、身体状態、認知機能、周囲の環境を確認します。行動・心理症状がある場合も、痛みや感染、便秘、薬剤の影響などを評価し、原因に応じた医療やケアにつなげます。急な変化を活動不足だけの問題として扱わないことが大切です。
非薬物療法は薬物療法と対立するものではありません。必要な診療や薬物療法と組み合わせ、本人の反応を確認しながら続けます。効果は方法、対象、実施条件によって異なり、認知症を治す、すべての症状を改善する、進行を必ず止めるといった説明は適切ではありません。
「薬を使わない」だけでなく、目的と評価を明確にする
非薬物療法という名称だけでは、何を目的に、どのような支援を行うかは決まりません。不安を減らす、交流を楽しむ、着替えを続けるなど、本人にとって意味のある目標を具体的にします。複数の方法を一度に増やすより、実施可能な工夫から試し、反応を確かめることが役立ちます。
例えば、夕方の落ち着かなさがある場合には、その前の疲労や空腹、照明、帰宅への思いなどを確認します。本人が安心できる声かけや休息、なじみの活動を選びます。同じ方法で全員を落ち着かせようとせず、困りごとの背景に合わせる視点が必要です。
評価では、活動中の表情、参加する意思、疲労、食事や睡眠、日常生活への影響を記録します。症状の回数だけでなく、本人が安心したか、生活を続けやすくなったか、家族の負担が変化したかを多職種で共有します。嫌がる場合は内容や時間を見直します。
薬を使わない方法にも、転倒、疲労、つらい記憶を呼び起こすなどの負担があり得ます。安全性と本人の選択を確かめ、効果が不十分な場合や苦痛が強い場合は医療職へ相談します。処方薬を自己判断で中止する根拠にはしないでください。
現場で知っておきたいポイント
活動名から選ぶ前に、本人が何を望み、どの場面で困っているのかを確認しましょう。
- 本人の希望、好み、生活歴、できることを聞き、支援の目標を共有する。
- 痛み、体調、睡眠、排便、薬の変更など、活動前の状態を確認する。
- 環境、声かけ、活動の難しさ、時間や人数を本人に合わせて調整する。
- 嫌がる反応や疲労があれば中断し、参加しない選択も尊重する。
- 実施した内容と反応、生活への影響を記録し、チームで見直す。
続ける際は本人にとっての利益を確かめます。活動の達成度だけを評価せず、安心感、楽しさ、交流、生活動作などの変化も共有しましょう。家族が無理なく関われる方法を一緒に考えます。
急な混乱、発熱、強い痛み、転倒の危険などがある場合は、活動より安全確保と医療職への相談を優先します。診療や必要な薬物療法を遅らせないようにしてください。
参考情報・参考文献
国立長寿医療研究センター「認知症の診断・治療」
薬物療法と非薬物療法を適切なケアと組み合わせること、行動・心理症状への非薬物的介入の位置付けを確認。
https://www.ncgg.go.jp/dementia/cure/
参照日:2026年10月10日
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))について」
非薬物的対応の例、緊急時を除く優先的な対応、薬物療法との組合せと多職種による観察を確認。
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc4324&dataType=1&pageNo=1
参照日:2026年10月10日
日本建築学会計画系論文集「認知症グループホームにおける居室表記のニーズと諸元の検討」
英語表現 non-pharmacological therapy と、居室表示など環境への働きかけを含む用法を確認。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/84/762/84_1669/_article/-char/ja
参照日:2026年10月10日
