幻視
ひとことでいうと
幻視
幻視は、実際には存在しない視覚的な対象を知覚する症状で、英語ではVisual Hallucinationといいます。人や動物がはっきり見える場合も、光や模様のように見える場合もあります。本人には現実に見えているように感じられ、作り話や嘘とは区別して受け止めます。
錯視は、実在する物を別の物に見誤る現象です。例えば衣服を人影と捉える場合には、見間違える元の対象があります。幻視には対応する外界の対象がありませんが、両者が重なることや区別しにくい場面もあるため、介助者だけで症状を断定せず、本人の説明と環境を確認します。
レビー小体型認知症では、繰り返す具体的な幻視が中核的特徴の一つです。一方、せん妄、脳の病変、視覚入力の障害などでも幻視が起こり得ます。幻視だけで認知症や特定の病気を診断することはできません。経過、意識や注意の状態、視力、薬剤などを合わせて評価します。
幻視への反応は人によって異なり、怖がる人も、幻視だと気づいている人もいます。対応では見える頻度だけでなく、睡眠や食事、移動への影響、恐怖や危険な行動の有無を確認します。突然始まった場合や反応の変化を伴う場合は、普段の認知症症状と決めつけず医療評価につなげます。
見える内容の正誤より、安心と原因の評価を大切にする
本人が「部屋に誰かいる」と言ったときは、頭ごなしに否定すると安心を失う場合があります。まず怖いのか、困っているのかを聞きます。「私には見えませんが、怖かったのですね」など、介助者の認識を穏やかに伝えつつ感情を受け止めます。見えるものの存在を強く肯定したり、証明を迫ったりする必要はありません。
照明の不足や影、反射、複雑な模様は、見間違いを増やすことがあります。本人と一緒に状況を確かめ、眼鏡や見え方、照明、物の配置を調整します。幻視があることだけを理由に、移動や活動を一律に制限しません。避けようとして転びそうな場合は、落ち着ける場所への案内や必要な見守りを考えます。
治療の必要性や薬の選択は、背景疾患、苦痛、生活への影響を踏まえて医師が判断します。特にレビー小体型認知症では抗精神病薬への過敏性に注意が必要です。薬を自己判断で追加・中止せず、開始や変更後の眠気、こわばり、歩行などを記録して医療職へ伝えます。
現場で知っておきたいポイント
見える体験を否定せず、本人の不安と生活への影響、普段からの変化を確認します。
- 内容:何が、いつ、どこに、どのくらい見えるのかを聞きます。繰り返し問い詰めず、本人の表現で記録します。
- 安心:恐怖や困りごとを受け止め、落ち着いた声で一人ずつ話します。無理に説得せず、安心できる場所や活動へ誘います。
- 環境:照明、影、反射、物の配置と眼鏡を確認します。変更後の反応を確かめ、見間違いを減らせる条件を探します。
- 安全:避ける動作や立ち上がりでの転倒に配慮します。診断名だけで身体拘束や閉じ込めを選ばず、必要な援助を検討します。
- 共有:睡眠、発熱、飲水・食事、薬の変更、意識や注意の状態を医療職へ伝えます。薬は自己判断で変更しません。
急な発症、混乱や反応低下、麻痺、発熱などを伴う場合は速やかに医療評価へつなげます。本人や周囲の安全が保てない、食事・睡眠が妨げられる場合も早めに相談します。
参考情報・参考文献
新潟大学脳研究所「錯視,幻視―脳のなかの幽霊たち」
確認内容:幻視と錯視の区別、視覚系や脳病変との関係。
https://www.bri.niigata-u.ac.jp/research/column/001411.html
参照日:2026年10月16日
日本神経学会監修「認知症疾患診療ガイドライン2017」第7章 Lewy小体型認知症
確認内容:具体的な幻視の位置づけ、薬剤への過敏性。
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_07.pdf
参照日:2026年10月16日
国立長寿医療研究センター「認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版」
確認内容:せん妄、身体・薬剤要因の評価、環境と心理的支援。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
参照日:2026年10月16日
