幻聴
ひとことでいうと
幻聴
幻聴は、外界に対応する音源がないのに声や音を知覚する症状で、英語ではAuditory Hallucinationと表します。話し声、悪口、命令のような内容のほか、音楽などが聞こえる場合があります。聞こえる場所や明瞭さ、本人が実際の音と捉える程度には違いがあります。
幻視が視覚の体験であるのに対して、幻聴は聴覚の体験です。実在する音を別の音として聞き違える現象とは区別しますが、訴えだけで簡単に判別できるとは限りません。周囲の会話、テレビ、機器の音、耳鳴や聴力の状態も確かめ、実際の音源がある可能性を先に確認します。
統合失調症などでみられる一方、幻聴があることだけで精神疾患と決めつけることはできません。難聴に関連して音楽が聞こえる音楽幻聴なども報告されています。身体状態や薬剤、せん妄の可能性も含めて経過を評価し、必要に応じて精神科、耳鼻咽喉科などが連携します。
本人にとっての苦痛と生活への影響が重要です。眠れない、食事が取れない、声に従って危険な行動をしそうなどの状況は早めに共有します。独り言だけから幻聴と判断せず、本人の言葉を丁寧に聞き、始まった時期、頻度、意識や注意の変化を記録して医療評価へつなげます。
聞こえる体験を尊重し、苦痛と安全を一緒に確認する
介助者に聞こえないからといって、「気のせい」「そんな声はない」と繰り返すと、本人が相談しにくくなる場合があります。「私には聞こえませんが、つらいのですね」と認識の違いを穏やかに伝え、まず苦痛を受け止めます。内容に同意して被害の確信を強めることと、感情に寄り添うことは分けて考えます。
命令する声がある場合も、必ず従うと決めつけず、内容、従いたくなる程度、実際に行動したかを確認します。本人や周囲を傷つける恐れが切迫しているときは、一人で対応せず緊急の支援を求めます。対立や強い刺激を避け、安全な距離と応援を確保し、本人の尊厳を守りながら対応します。
聞こえにくさがある人では、補聴器の使用状況や会話の環境も相談材料になります。ただし補聴器で幻聴が必ず改善するわけではなく、原因に応じた評価が必要です。本人が落ち着ける活動や休息を一緒に探し、症状だけでなく睡眠、食事、活動の回復も医療・介護の目標に含めます。
現場で知っておきたいポイント
内容を問い詰めず、本人が困っていることと、今の安全を確認するところから始めます。
- 聴く:声か音楽か、始まった時期、頻度、聞こえる場面を本人の言葉で残します。話したくない気持ちも尊重します。
- 確かめる:実際の音源、聞こえにくさ、補聴器や周囲の騒音を確認します。独り言があるだけで幻聴と決めつけません。
- 受け止める:怖さや疲れを聞き、短く穏やかに話します。強い否定や内容への同調を避け、安心できる過ごし方を探します。
- 安全を見る:命令する声では内容と行動への影響を確認します。切迫した危険があれば一人で抱えず、医療や救急へ連絡します。
- 共有する:睡眠、食事量、発熱、薬の変更や意識の変化を記録します。医師・看護職と相談し、薬を自己判断で増減しません。
急な混乱や反応の低下、身体の異常を伴う場合は速やかな医療評価が必要です。危険が切迫していなくても、強い苦痛や不眠、生活への支障が続くときは早めに相談します。
参考情報・参考文献
国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト:統合失調症」
確認内容:幻聴・妄想の症状と本人の体験、早期相談。
https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=tQtLd1xVUp1wHJMQ
参照日:2026年10月16日
国立精神・神経医療研究センター掲載「統合失調症 情報提供ガイド(家族心理教育編)」
確認内容:幻聴・妄想への対応と家族支援。統合失調症に関する資料であり全原因への一般化はしていない。
https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/documents/kazokushinrikyoikuhen.pdf
参照日:2026年10月16日
御子柴卓弥ほか「音楽幻聴(楽音性耳鳴)に関する臨床的検討~臨床像と補聴器による音響療法の治療効果~」
確認内容:難聴に関連する音楽幻聴。限られた対象の研究であり治療効果を一律には断定しない。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/audiology/62/4/62_315/_pdf
参照日:2026年10月16日
国立長寿医療研究センター「認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版」
確認内容:急な意識・注意変化、身体疾患・薬剤要因と環境支援。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
参照日:2026年10月16日
