病識欠如
ひとことでいうと
病識欠如
病識欠如とは、自身の病気や障害、症状などについての認識が十分にできない状態をいいます。病識が認識そのものを指すのに対し、病識欠如は認識しにくさによって生じる状態に焦点を当てた言葉です。すべての症状に気づかないとは限らず、認識できる部分と難しい部分が混在する場合もあります。
認知症や脳損傷などでは、脳の働きの変化によって自分の障害に気づきにくくなることがあります。高次脳機能障害では、障害がないかのように話したり行動したりする形で表れる場合があります。精神疾患でも病識の低下がみられますが、背景や評価方法は疾患・状態によって異なります。
神経学的に障害への気づきが難しい状態は、病態失認(Anosognosia)と呼ばれることがあります。ただし、広い意味の病識欠如すべてをこの概念と同一視しません。つらさから事実を受け入れにくい心理的否認とも区別し、本人が意図的に認めないと決めつけないことが大切です。
認識と実際の能力に差があると、必要な援助を断ったり、危険に気づかず行動したりすることがあります。本人の言葉だけで判断せず、生活場面を観察し、原因や程度を専門職と確認します。本人を責めず、意思と尊厳を尊重しながら支援を調整します。
説得だけに頼らず、生活の安全を整える
「できないことを認めてほしい」と説明を重ねても、認識の難しさがある場合は理解につながらないことがあります。強い訂正や言い争いは不安・怒りを増やす場合もあるため、本人が困っていることや望むことから対話を始めます。危険な行動を伴うときは、まず落ち着ける距離や環境を確保します。
本人が「一人でできる」と話していても、移動や服薬などを実際に安全に行えるかは別に確認します。失敗をわざと経験させたり、危険な動作で証明させたりせず、見守り、道具の配置、手順の簡略化などを取り入れます。援助を「できないから」ではなく、本人の目標を達成するための工夫として提案します。
認識は場面や経過によって異なるため、いつ、何に気づきにくいかを記録します。言葉・行動・生活への影響を家族や専門職で共有し、支援方法をそろえます。病識欠如だけで意思決定能力の全体を判断せず、理解を助ける説明と選択の機会を保ちます。
現場で知っておきたいポイント
病気を認めさせることより、本人が安心して生活できる方法を考えます。責めずに具体的な場面を確認する姿勢を共有してください。
- 本人が困っていること、望む生活、援助を断る理由を聞く。
- 移動や服薬などで、言葉と実際の行動に差がある場面を記録する。
- 強い訂正や議論を避け、短い説明と分かりやすい提案を行う。
- 危険な動作を試させず、見守りや環境調整で事故を予防する。
- 本人への説明や援助の方法を、家族・職員・専門職でそろえる。
できていることや本人の希望も共有し、必要な援助を一緒に選びます。認識の難しさがあっても、話し方や環境の工夫で支援を受け入れやすくなる場合があります。
急な認識・行動の変化や、転倒、服薬の中断などがあるときは、安全確保と専門職への相談を優先します。原因を自己判断せず、発生時期や具体的な危険を医師・担当者に伝えてください。
参考情報・参考文献
国立障害者リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センター「高次脳機能障害に関する よくあるご質問」
病識欠如の説明、生活場面の観察、強く対立しない関わりを確認しました。
https://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/qa/
参照日:2026年10月11日
Cleveland Clinic「Anosognosia」
障害への気づきの困難、心理的否認との違い、安全面の影響、英語「lack of insight」を確認しました。
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/22832-anosognosia
参照日:2026年10月11日
Mayo Clinic Connect「Anosognosia and Other Clinical Terms Defined」
神経学的な気づきの困難と、心理的な受容・否認の違いを確認しました。
参照日:2026年10月11日
