物盗られ妄想

(ものとられもうそう)とは?
Delusion of theft
(ディルージョン・オブ・セフト)
別名・関連する表現:物取られ妄想, 物とられ妄想, もの盗られ妄想, 盗まれたという訴え, Delusion of theft

ひとことでいうと

物盗られ妄想は、実際には盗難がないのに、自分の物を他人に盗まれたと強く信じる状態です。認知症の記憶障害などを背景に生じる場合がありますが、本人の不安を受け止め、実際の紛失や盗難の可能性も確認します。

物盗られ妄想

(ものとられもうそう)の意味

物盗られ妄想とは、実際には盗難の事実がないにもかかわらず、自分の持ち物やお金を他者に盗まれたと強く信じる状態をいいます。英語ではDelusion of theftと表します。周囲が説明しても確信を修正しにくいことがあり、単に物の場所を尋ねたり、盗難を心配したりすることとは区別します。

財布や通帳、衣類などが見つからず、家族や介助者を盗んだ人として疑うことがあります。本人にとっては現実の出来事として感じられ、不安、困惑、怒りなどを伴う場合があります。疑われる側も傷つきやすく、本人と支援者の双方への配慮が必要です。

認知症では、物を置いた場所や移動した経緯を思い出しにくくなり、「誰かが持っていった」という解釈につながることがあります。ただし、記憶障害だけで全てを説明できるわけではなく、すべての認知症の方に起こるものでもありません。急な変化ではせん妄なども検討します。

妄想は信じている内容に関する変化で、実在しないものが見える幻視とは異なります。また、実際の紛失や盗難まで否定しないことが重要です。訴えの内容と物の管理状況を確認し、認知症という診断だけで妄想と決めつけず、必要に応じて医療職へ相談します。

「盗まれた」と訴えるときはどう関わる?

まず「大切な物が見つからなくて心配ですね」と、不安や困惑を受け止めます。「あなたが忘れただけ」と責めたり、長い説明で納得させようとしたりすると、苦痛が強まることがあります。感情への共感と、盗難の事実への同意は分けて考え、誰かを犯人とする話に安易に同調しません。

いつから見当たらないか、最後に使った場面、普段の保管場所などを確認し、本人の負担にならない範囲で一緒に探します。物の位置を支援者が変更した場合は、その経緯も確認します。見つかった後は責めず、本人と相談して分かりやすい保管方法や目印を検討します。勝手に物を隠す・捨てる対応は避けます。

家族や担当者間で対応を共有し、疑われた介助者がつらい場合は、別の人が関わるなど役割を調整します。急に始まった訴えや、強い苦痛が続く場合は、体調、睡眠、薬の変更とともに医療職へ相談します。危害や経済的な被害が疑われる場合も、一人で判断せず、管理者や関係機関につなぎます。

現場で知っておきたいポイント

訴えをすぐに否定せず、本人の不安と実際の物の管理状況を確認します。疑われる家族や介助者の負担にも配慮します。

  • 傾聴:何が、いつから見つからないのか、本人がどう受け止めているかを聴き、言葉と表情を具体的に記録します。
  • 確認:保管場所や物を移した経緯を調べます。認知症という理由だけで実際の紛失・盗難の可能性を否定しません。
  • 対応:不安を受け止め、一緒に探すなど安心につながる行動を提案します。責める、強く否定する、無理に説得する対応は避けます。
  • 環境:本人と相談して定位置や目印を工夫し、物の移動を減らします。必要な眼鏡・補聴器の使用状況も確認します。
  • 共有:有効な声かけ、繰り返し探す物、疑われた人の負担を共有し、担当の交代や家族への支援も検討します。

急な混乱や体調悪化、強い苦痛や危害のおそれがあれば速やかに医療職へ相談します。対応後の状態と指示を記録し、必要な安全確保をチームで行います。

関連する用語

参考情報・参考文献

国立長寿医療研究センター「よくある質問・Q&A(対応に困る言動との向き合い方)」

確認内容:置き忘れ・しまい忘れとの関係、不安への配慮、一緒に探す対応と家族間の共有。

https://www.ncgg.go.jp/dementia/with/face.html

参照日:2026年10月14日

Dementia UK「False beliefs and delusions in dementia」

確認内容:記憶の変化と盗難の訴え、せん妄などの原因、実際の盗難や被害の可能性を確認する必要性。

https://www.dementiauk.org/information-and-support/health-advice/false-beliefs-and-delusions-in-dementia/

参照日:2026年10月14日

Alzheimer’s Association「Suspicions and Delusions」

確認内容:妄想と幻覚の違い、本人の受け止め方、議論を避ける関わりと強い苦痛・危害の懸念時の医療評価。

https://www.alz.org/help-support/caregiving/stages-behaviors/suspicions-delusions?lang=en-us

参照日:2026年10月14日

Seishi Teradaほか「Delusion of theft and phantom intruder delusion in demented elderly patients in Japan」

確認内容:英語表記と認知症での臨床的特徴。閲覧した抄録の範囲で、すべての方に生じる症状ではないことを確認。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16100103/

参照日:2026年10月14日

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