はじめに

「夕方になると足がパンパンになる」
「靴下の跡がなかなか消えない」
など、高齢者の足のむくみが気になったことはありませんか?
高齢者では足のむくみがみられることは珍しくありません。しかし、その原因は単純な運動不足や筋力低下だけではありません。
長時間座ったまま過ごしていることや活動量の低下など、日々の生活が影響している場合もあれば、心臓や腎臓の病気、服用している薬などが関係していることもあります。



そのため、「高齢者だから仕方ない」「むくんでいるから、とりあえず揉んでおこう」と安易に考えないことが大切です。
むくみ(浮腫)とは?
「むくみ」は、高齢者によくみられる身体の変化のひとつです。特に足や足首、すねなどに現れやすく、「靴下の跡がくっきり残る」「足が腫れぼったく見える」といった変化から気づくこともあります。
まずは、むくみがどのような状態なのかを簡単に理解しておきましょう。
むくみは皮膚の下に余分な水分がたまった状態
むくみは医学的には「浮腫(ふしゅ)」と呼ばれます。
私たちの身体では、血管から染み出した水分が細胞へ酸素や栄養を届け、その後、血管やリンパ管へ戻るという循環が行われています。
ところが、この水分の移動や回収のバランスが崩れると、皮膚の下などに余分な水分がたまり、腫れぼったくなります。これが「むくみ(浮腫)」です。
高齢者は足にむくみがみられやすい



高齢者では、特に足にむくみがみられやすくなります。
人は立ったり座ったりしていると、重力の影響によって血液や水分が下半身にたまりやすくなります。
通常は、歩いたり足首を動かしたりすると、ふくらはぎの筋肉が収縮し、下半身の血液を心臓へ戻す働きを助けてくれます。これを「筋ポンプ作用」といいます。



ふくらはぎが「第二の心臓」と呼ばれることがあるのも、この筋ポンプ作用によって血液を心臓へ戻す働きを助けているためです。
しかし、高齢になると歩く機会が減ったり、座って過ごす時間が長くなったりすることがあります。その結果、筋ポンプ作用が十分に働きにくくなり、足にむくみが現れやすくなるのです。
ただし、高齢者のむくみにはこれ以外にもさまざまな原因があります。次に、足がむくむ主な原因を詳しくみていきましょう。
高齢者の足がむくむ主な原因
高齢者の足がむくむ原因は一つではありません。座っている時間や活動量など日常生活が影響することもあれば、病気や薬が関係している場合もあります。



「年齢のせい」
「運動不足だから」
と決めつけず、どのような原因が考えられるのかを知っておくことが大切です。
長時間の座りっぱなし・立ちっぱなし
長時間同じ姿勢を続けることは、足のむくみにつながる原因のひとつです。
立ったまま、あるいは足を下ろして座ったままの状態が続くと、重力の影響によって血液が下半身にたまりやすくなります。
高齢者の場合、車椅子や椅子に座って過ごす時間が長くなることもあります。デイサービスなどでも、食事やレクリエーションの時間を含め、気づけば長時間座ったままになっていることがあります。



同じ姿勢が続かないように、体調や身体機能に合わせて姿勢を変えたり、立ったり歩いたりする機会をつくることが大切です。
活動量や筋力の低下
歩く機会が減るなど活動量が低下すると、前述したふくらはぎの筋ポンプ作用も働きにくくなります。
歩行や足首の運動では、ふくらはぎの筋肉が繰り返し収縮します。この働きが、足にたまった血液を心臓へ戻すことを助けています。
高齢になると筋力低下だけでなく、病気や入院、転倒への不安などから活動量そのものが減ることもあります。
そのため、「筋力が弱いからむくむ」と単純に考えるのではなく、普段どれくらい身体を動かしているかを見ることも重要です。
心臓・腎臓などの病気
むくみの背景に、病気が隠れていることもあります。
たとえば心不全では、心臓から血液を送り出す働きが低下することで血液の流れが滞り、足などにむくみが現れることがあります。
また、腎臓には体内の余分な水分や塩分を排出する重要な働きがあります。腎機能が低下すると、水分や塩分が体内にたまり、むくみにつながる場合があります。



むくみだけで原因を判断することはできないため、ほかの症状や身体の変化とあわせて考える必要があります。
薬の影響でむくむこともある
高齢者では複数の薬を服用していることも多く、薬の副作用としてむくみが現れる場合もあります。
たとえば、一部の降圧薬などでは足のむくみがみられることがあります。
新しい薬を飲み始めてからむくみが目立つようになった場合などは、服用している薬について医師や薬剤師に相談することも大切です。
ただし、「この薬が原因かもしれない」と思っても、自己判断で薬を減らしたり中止したりしてはいけません。
このように、高齢者の足のむくみにはさまざまな原因があります。だからこそ、原因を決めつける前に、むくみ方や身体の変化を観察することが重要です。次に、むくみがあるときに確認しておきたいポイントをみていきましょう。


むくみがあるときに確認したいポイント
高齢者の足にむくみを見つけたときは、単に「足がむくんでいる」で終わらせず、どのようなむくみ方をしているのかを観察することが大切です。
特に介護現場では、日頃からご利用者様の様子を見ている介護職だからこそ気づける変化があります。医師や看護師などへ相談するときにも、次のポイントを確認しておくと情報を共有しやすくなります。
両足なのか片足なのか
まず確認したいのが、両足にむくみがあるのか、それとも片足だけなのかという左右差です。
両足が同じようにむくんでいる場合と、片足だけが急にむくんでいる場合では、考えられる原因が異なることがあります。
左右の足を見比べて、



「右足だけ太く見える」
「片方だけ靴下の跡が強い」
などの違いがないか確認してみましょう。
特に、今までなかった左右差が急に現れた場合は注意が必要です。
いつから・どの時間帯にむくむのか
むくみに気づいたら、いつから現れたのか、時間帯によって変化するのかも確認します。
たとえば、



「朝はそれほど気にならないけれど夕方になるとむくみが強くなる」
「数日前から少しずつ目立ってきた」
「今日になって急にむくんだ」
などです。
また、長時間座っていた日や活動量が少なかった日に強くなるなど、生活との関係がみえてくることもあります。



一度だけではなく、むくみがどのように変化しているかを経過で見ることも大切です。
むくみ以外の症状はないか
むくみと一緒に、ほかの身体の変化がないかも確認しましょう。
たとえば、
- 足の痛み
- 赤み
- 熱感
がないか。
さらに、
- 息苦しさ
- 呼吸の変化
- 急な体重増加
などがないかも重要なポイントです。
介護職が医師や看護師へ報告するときも、



「足がむくんでいます」
だけではなく、



「昨日から右足だけむくみが強く、赤みと痛みもあります」
など、左右差・いつから・経過・ほかの症状まで伝えられると、より具体的な情報共有につながります。
では、実際にどのようなむくみがみられたときに注意が必要なのか、次に詳しくみていきましょう。
こんなむくみには注意|医療機関への相談を考えたい症状
高齢者の足のむくみは、長時間座っていたときなどにもみられるため、必ずしも病気が原因とは限りません。
一方で、むくみ方や一緒に現れている症状によっては、早めに医療機関へ相談した方がよい場合があります。



「いつものむくみだから」
と決めつけず、普段との違いに目を向けることが大切です。
急に片足だけがむくんだ
特に注意したいのが、これまでなかったむくみが片足だけに急に現れた場合です。
片足の急なむくみに加えて、痛みや赤み、熱感などがみられる場合には、深部静脈血栓症(DVT)などが関係している可能性もあります。
深部静脈血栓症は、足の深いところにある静脈に血栓(血のかたまり)ができる病気です。



もちろん、片足がむくんでいるだけで深部静脈血栓症と判断することはできません。だからこそ、自己判断で様子を見続けたりマッサージしたりせず、医療機関へ相談しましょう。
息苦しさや呼吸の変化を伴っている
足のむくみだけでなく、息苦しさや息切れなど呼吸の変化がみられる場合にも注意が必要です。
心臓の働きが低下すると、身体に水分がたまりやすくなり、足のむくみとともに息切れや呼吸困難などが現れることがあります。
また、急な強い息苦しさや胸の痛みなどがある場合には、緊急性の高い病気が隠れている可能性もあります。こうした症状がみられる場合は放置せず、速やかに医療機関へ相談することが重要です。
むくみが急に強くなった・体重が増えている
普段から多少むくみがある方でも、短期間で急にむくみが強くなった場合には変化を見逃さないようにしましょう。
あわせて確認したいのが体重です。
体内に水分がたまることで、短期間に体重が増えることがあります。そのため、「足がいつもよりむくんでいる」という変化だけでなく、最近急に体重が増えていないかも確認すると参考になります。
大切なのは、むくみだけで病気を判断することではありません。



「いつもと違う」
「急に変化した」
「ほかの症状もある」
こうした場合には自己判断で対処せず、医師や看護師などへ相談しましょう。


高齢者のむくみを軽減・予防するためにできること
高齢者のむくみには病気や薬などが関係していることもあるため、まずは原因を考えることが大切です。そのうえで、長時間の同じ姿勢や活動量の低下などが影響している場合には、日常生活の中でできる工夫があります。
無理に運動するのではなく、その方の体調や身体機能に合わせて、できる範囲で身体を動かすことから始めてみましょう。
同じ姿勢を長時間続けない
椅子や車椅子に座ったまま足を下ろしている時間が長くなると、重力の影響によって足に血液や水分がたまりやすくなります。
大切なのは、「長時間座らないこと」ではなく、同じ姿勢を長時間続けないことです。
自分で動ける方であれば、定期的に立ち上がったり、少し歩いたりしてみましょう。立つことが難しい方でも、座ったまま姿勢を変えるなど、その方に合った方法を考えます。
足首を動かす・歩く



理学療法士の視点から特に意識したいのが、ふくらはぎの筋ポンプ作用を働かせることです。
歩くと、足首の動きに合わせてふくらはぎの筋肉が収縮と弛緩を繰り返し、足にたまった血液を心臓へ戻す働きを助けます。
歩くことが難しい場合でも、座った状態でかかとを上げ下げしたり、足首を上下に動かしたりする方法があります。
ただし、運動量は身体機能や病気によって異なります。「むくんでいるからたくさん歩けばいい」というわけではありません。痛みや息苦しさなどがある場合には、無理に運動しないようにしましょう。
足を適度に高くして休む
横になって休むときなどに、クッションや枕を使って足を適度に高くする方法もあります。
足を下ろした状態が長く続くことを避け、楽な姿勢で休むことがポイントです。
ただし、「高くすればするほどむくみが取れる」というものではありません。無理な姿勢になったり、膝や腰に負担がかかったりしないよう、身体全体の姿勢も確認しましょう。
弾性ストッキングは自己判断で使用しない
むくみ対策として、弾性ストッキングを思い浮かべる方もいるでしょう。
弾性ストッキングは足を適度に圧迫し、血液が心臓へ戻るのを助けるために使用されますが、すべてのむくみに適しているわけではありません。
血流の状態や病気によっては使用に注意が必要な場合もあります。また、サイズや圧迫する強さが合っていることも重要です。
使用を考える場合は自己判断せず、医師や看護師などに相談したうえで、その方に合った方法を選びましょう。
「むくんでいるからマッサージ」は正解?
足がむくんでいるのを見ると、「マッサージして流してあげた方がいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。
実際、介護現場でも



「足がむくんでいるから揉んでほしい」
と言われることがあります。
しかし、「むくみ=とりあえずマッサージ」と考えるのはおすすめできません。大切なのは、むくみそのものではなく、その背景にある原因を考えることです。
むくみの原因によって対応は変わる
これまで解説してきたように、むくみには長時間の座位や活動量の低下だけでなく、心臓や腎臓の病気、薬の影響など、さまざまな原因があります。
そのため、同じように足がむくんで見えても、必要な対応が同じとは限りません。
活動量の低下などが関係している場合には、身体の状態に合わせて歩いたり足首を動かしたりすることが役立つこともあります。一方で、病気が関係している場合には、まず適切な医療的対応が必要です。



「むくみを何とかする」ことだけに目を向けず、なぜむくんでいるのかを考えることが先です。
原因が分からないむくみを自己判断で揉まない
特に注意したいのが、突然片足だけがむくんだ場合や、痛み・赤み・熱感などを伴っている場合です。
こうした症状では深部静脈血栓症などが隠れている可能性もあるため、自己判断でマッサージするのではなく、医療機関への相談を優先しましょう。
もちろん、マッサージそのものがすべて悪いわけではありません。しかし、「むくんでいる」という理由だけで行うものでもありません。



「むくみ=マッサージ」という思い込みを一度外す。
高齢者のむくみに関わるときは、まず普段との違いやほかの症状を確認し、その方の状態に合った対応を選ぶことが大切です。
まとめ|高齢者のむくみは「いつものこと」で済ませない
高齢者では、足のむくみがみられることは珍しくありません。長時間座っていることや活動量の低下など、日常生活が影響している場合もあります。
しかし、むくみの原因はそれだけではありません。心臓や腎臓の病気、服用している薬などが関係していることもあります。
むくみに気づいたときは、両足なのか片足なのか、いつから始まったのか、時間帯による変化はあるのかなどを確認しましょう。痛みや赤み、熱感、息苦しさ、急な体重増加など、ほかの変化がないかを見ることも大切です。
特に、急に片足だけがむくんだ場合や息苦しさなどを伴う場合は、「いつものこと」と決めつけず、医師や看護師などへ相談しましょう。



また、むくみの原因によって必要な対応は異なります。「むくんでいるから、とりあえずマッサージ」ではなく、その方の状態に合った対応を考えることが重要です。
高齢者のむくみを見るときは、「むくんでいる」という結果だけを見るのではなく、「なぜむくんでいるのか」を考えることが大切です。










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