鼠径ヘルニア
ひとことでいうと
鼠径ヘルニア
鼠径ヘルニアは、太ももの付け根にある鼠径部から、腸や脂肪組織などがお腹の壁を越えて皮膚の下へ出てくる病気です。腸が出る場合が多いため脱腸とも呼ばれますが、出るものは腸に限りません。皮膚が破れて体外へ飛び出すことを意味するものではありません。
成人では加齢に伴う鼠径部の構造の変化などが背景となり、咳や排便時のいきみ、重い物を持つ動作などをきっかけに膨らみが目立つ場合があります。単に腹筋が弱いから起こると考えて、筋力訓練で治そうとすることは適切ではありません。
立位やお腹に力が入る場面で膨らみ、横になると戻ることがあります。痛みや違和感を伴う場合もあります。脱出した臓器がはまり込んで戻らなくなる状態を嵌頓といい、腸閉塞や血流の障害につながることがあります。高齢者でも新しい膨らみや痛みを見過ごさないようにします。
診断は診察を中心に、必要に応じて超音波やCTで確認します。成人の根本的な治療は手術で、症状、持病、体の状態などを踏まえて方針を決めます。戻らない膨らみと痛み、嘔吐などがあるときは速やかに連絡します。活動や術後の制限は本人に出された指示を確認します。
膨らみが戻ることと治ったことは違う
鼠径ヘルニアでは、横になると膨らみが目立たなくなる場合があります。これは出ていた臓器などがお腹の中へ戻ったためで、出入りする通り道がなくなったという意味ではありません。膨らみが消えても治癒とは限らないため、症状が軽い時期にも医師の評価を受け、治療や経過観察の方針を確認します。
一方、以前は戻っていた膨らみが戻らなくなり、痛みや嘔吐を伴う場合は嵌頓などを考えて早い医療評価が必要です。腸の通りが妨げられたり、血流が障害されたりすることがあります。介助者が見た目から重症度を判断することはできません。強く押して戻そうとしないようにし、変化が始まった時刻と症状を伝えます。
衣服で隠れる位置なので、本人が訴えにくい場合もあります。更衣や排泄介助の際は羞恥心とプライバシーに配慮し、新しい膨らみや不快感を確認します。腹圧がかかる動作や便秘への対応は、生活全体を過度に制限せず医療職と相談します。市販のバンドを独自に使ったり、腹筋運動を治療の代わりにしたりしないことも大切です。
現場で知っておきたいポイント
膨らみの変化と本人の訴えを、プライバシーに配慮して確認します。
- 膨らみの位置、出現する姿勢や動作、以前との違いを記録する。
- 痛みの始まった時刻、強さ、持続を共有する。
- 嘔吐、腹部の張り、排便や排ガスの変化を確認する。
- 咳や排便時のいきみ、重い物を持つ場面の負担を相談する。
- 手術前後の活動、創部、受診予定に関する指示を確認する。
膨らみを強く押さえないようにし、治療の代わりにバンドや運動を独自に始めないことが大切です。
戻らない膨らみと強い痛み、嘔吐、発熱などは速やかに医療職へ連絡し、緊急手順に従います。
参考情報・参考文献
慶應義塾大学病院 KOMPAS「成人の鼠径部ヘルニア」
鼠径ヘルニアの構造、嵌頓、診断と手術・生活上の注意を確認。
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000232/
参照日:2026年10月6日
