はじめに
ベッド上での「上方移動(体を頭側へずらす動き)」は、介護現場で最も多い基本動作のひとつです。しかし、この動作は誤った方法で行われやすく、ご利用者様の痛みや不安、介助者の腰痛リスクにつながりやすい場面でもありますし、そもそも上方移動ができないケースも少なくありません。
実際の現場では、
- ベッドの高さ調整をしない
- 腕の力だけで引っ張り上げる
- 脇を持って持ち上げる
など、“自己流の癖”が原因となるダメなパターンが少なくありません。
上方移動は力で行うものではなく、
身体の仕組み・重心・体重移動・てこの原理を利用する「技術」で大きく負担を減らせます。
本記事では、現場で特によく見かける
「ダメな上方移動の5パターン」
と、その理由・リスク・正しい介助方法をわかりやすく解説します。
「腰が痛くなる」「ご利用者様が重く感じる」「本当に正しいのか不安」
そんな方が、今日から安全に実践できる内容をまとめています。
ご利用者様の安心と介助者の身体を守るために、ぜひ参考にしてみてください。
上方移動とは?
上方移動とは、ご利用者様の身体をベッドの頭側へスライドさせる動作のことです。
寝返り・起き上がり・端座位と並んでベッド上動作の基礎となる重要な介助で、ほとんどすべてのケアに関わる“必須スキル”といえます。

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上方移動が正しくできるメリット
上方移動がスムーズにできると、ケア全体が驚くほど安定します。たとえば、
- ご利用者様が正しい姿勢で安楽に過ごせる
体がずれて足元に沈み込む姿勢が解消され、呼吸もしやすくなります。 - ずれ落ちによる褥瘡(床ずれ)予防につながる
身体がずるずる滑ったままの姿勢は皮膚に強い摩擦がかかり、褥瘡リスクが高まります。 - 移乗・排泄など、次の動作の成功率が上がる
ベッド上での姿勢が整うことで、起き上がりがスムーズになり、座位保持、車椅子への移乗などが安定します。 - 介助者の腰への負担が大きく減る
正しい技術を使えば、“持ち上げる”のではなく“体重移動で動かす”ため、力に頼らず介助できます。
誤った介助が続くとどうなる?
反対に、自己流や誤った方法で上方移動を行っていると、見た目以上に大きな負担や危険を生んでしまいます。現場でもよく見かけますが、以下のようなトラブルにつながることが少なくありません。
介助者の慢性的な腰痛・肩痛
腕だけで引っ張る、背中を丸めて無理に持ち上げると、確実に腰や肩に負担が蓄積します。
一度痛めると介助そのものが難しくなり、最悪の場合、離職につながることも。
誤った介助は“必ず介助者の体を壊す”と心得ておく必要があります。
ご利用者様の肩の亜脱臼や痛み
脇の下を引っ張る、腕を持って上へ引き上げるなどは肩関節に強い負担がかかり、亜脱臼・痛みを引き起こす危険な方法です。
特にご高齢の方は骨や靭帯が弱くなっているため、わずかな力でも損傷につながる可能性があります。
姿勢が崩れ、呼吸や飲み込みの悪化につながることも
上方移動が不十分だと、背中が丸まり首が前に落ちた姿勢になりやすく、
- 呼吸が浅くなる
- 食事中の誤嚥リスクが上がる
- 疲れやすくなる
など、日常生活にも大きな悪影響が出ます。
【ダメな例①】ベッドが低すぎる
よくある状況
- 介助者が腰を曲げた姿勢で介助してしまう
- ご利用者様の体重を持ち上げるような動きになる
- 腰痛の大きな原因になる
低いベッドのまま介助すると、介助者の体が深く前傾し、腰が大きく曲がってしまい、
腕の力だけでご利用者様を動かそうとしてしまうため、動作が重くなります。
正しい方法:ベッドを高くして“やりやすい高さを探る”
- 腰の高さより少し高い位置が基本
- 介助者の肘が軽く曲がり、無理なく差し込める高さがベスト
- ベッドの高さは状況に応じて毎回調整するのが理想
特に上方移動では、
「持ち上げる」ではなく「体重移動で滑らせる」
ことが大切で、そのためにはベッドの高さ調整が欠かせません。
【ダメな例②】手や腕の力だけで介助してしまう
よくある状況
- 肘から先だけで動かす
- 自分の腕力に頼る
- 途中で腕が抜けそうになる
- 介助者の肩・腰の疲労が大きい
正しい方法:体重移動+テコの原理を使う
介助の基本は、「自分の体重を使って動かす」です。
- 足幅を広げ、前後の重心移動を使う
- 介助者自身が“後ろに倒れる力”を利用して上へ動かす
- 肘・腕・体幹を一体化させて動かす
また、膝をベッドフレームに当てた位置を手を支点にし、
肩甲骨や骨盤を“てこの原理”で引くように動かすと、ご利用者様の体が軽く感じられます。

【ダメな例③】頭側から脇を引っ張り上げる
よくある状況
- 脇の下に手を入れて、腕だけで持ち上げる
- ご利用者様が痛がる
- 肩関節の亜脱臼リスクが高い
- “力任せの介助”になり腰痛につながる
“脇の下を引っ張るだけ”の介助は非常に危険です。

❌
正しい方法:肩甲骨の下に手を入れ「正しい頭側介助」を行う
頭側からの上方移動は正しく行えば安全で効率的です。
ポイントは以下の通り:
- 手は脇ではなく 肩甲骨の下に深く入れる
- 肘・前腕・体幹を一体化させる
- 肩甲骨を“後ろに”引くイメージ
- 体重移動で動かす
肩甲骨の下に手が入ることで、摩擦が減り、ご利用者様の体が自然に滑るようになります。
その結果、痛みやリスクが大幅に減ります。

⭕️
【ダメな例④】肩甲骨・骨盤の下に手がしっかり入らず介助者の腕に体重が乗っていない
よくある状況
- 手が浅く入り、腕がつっぱる
- そもそもご利用者様の体が動かない
- 介助者の手首・肘を痛める
- 滑らせることができず「持ち上げ介助」になってしまう
●正しい方法:手を深く入れ、体重をしっかり乗せる
- 肩甲骨・骨盤の“裏側”に手を差し込むイメージ
- 手のひら、前腕で体重を受ける
- ご利用者様の体重が介助者の腕の上に乗った状態で動かす
- 腕は引かず、体幹で後ろに引く


【ダメな例⑤】上に持ち上げてしまう(お姫様抱っこのように)
よくある状況
- “ぐいっ”と上に引き上げる
- 介助者の腰に爆発的負荷
- ご利用者様が不安定で危険
- 皮膚が引っ張られ痛みを感じる
上方移動は“上に持ち上げる”動作ではありません。
持ち上げると重心が不安定になり事故の原因になります。
正しい方法:持ち上げず、滑らせて動かす
- 肩甲骨(上半身)と骨盤(下半身)の下に手を入れる
- ベッドとの摩擦を減らし“後ろに引く”イメージ
- 上方向ではなく 「斜め上」 を意識
- 体重移動で自然に滑るようにサポートする
正しい上方移動の基本手順(基本的なやり方)
上方移動は、姿勢づくり・接触面・体重移動の3つがそろうと驚くほど軽く動かせます。
ここでは、どのご利用者様にも共通する“必ず押さえたい基本の流れ”をまとめます。
① ベッドの高さを調整する
- 介助者の腰より少し高めが目安
- 腰を丸めず、前傾姿勢を取りやすくなる
- 高さが合わないと腕力に頼り、腰を痛めやすい
👉まず最初に“自分が動きやすい高さ”を作ることが最優先事項。
② ご利用者様の姿勢を整える(動く前の準備が9割)
以下の3点を必ずそろえます。
- 膝を曲げる(摩擦軽減、滑りやすさUP、体を小さくまとめることで介助のしやすさUP)
- 腕をお腹の上に置く(摩擦軽減、滑りやすさUP)
- 顎を軽く引く(身体が一直線になりやすい、体を小さくまとめることで介助のしやすさUP)
- 身体がベッドと平行になっているか確認
👉姿勢が崩れたままだと、介助者がどれだけ頑張っても身体が上に滑りません。
③ 肩甲骨 or 骨盤の“下”に、手を深く差し込む
- 手のひらと前腕をしっかり密着させる
- 深く差し込むことで、体重をしっかり預かることができる
- 浅い位置で持つと、腕力に頼るしかなくなる
👉もっとも大事なのは「浅く持たないこと」。
深く持てれば、動かす力の8割が解決します。
④ 体重移動を使って斜め上へ滑らせる(腕力で引っ張らない)
- 足幅はやや広め
- 介助者は前傾姿勢をつくる
- 腕で引くのではなく、
自分の身体が“斜め後ろに倒れる力”で自然に滑らせる
腕力で上げようとすると重く感じますが、
体重移動を使うと80kgのご利用者様でも軽く動かせます。
⑤ 上方移動後は姿勢を再度整える
- 枕の位置・背中・骨盤の向きなどを調整
- しんどさが残らないよう安楽な姿勢に仕上げる
- 必要なら、位置がズレた部分を再調整
- 背抜きを行い、褥瘡予防を!!
👉 動かした後の“整え”が快適さを決めます。
▼背抜きについてはこちらの記事で詳しく解説しています。あわせて読んでみてください▼

まとめ
上方移動は、単に「身体を上に動かす」だけの動作ではありません。
誤った方法を続けると、ご利用者様の痛みや皮膚トラブル、転倒や滑落などの事故につながるだけでなく、介助者自身も腰痛を引き起こす原因となります。まさに“負のスパイラル”です。
ダメな介助 5つの典型例
- ベッドが低すぎる
- 手や腕の力だけで動かしてしまう
- 脇を引っ張って上げる間違った頭側介助
- 肩甲骨・骨盤の下に手が入っていない
- 上に持ち上げてしまう(お姫様抱っこ介助)
正しく動かすためのポイントはこの4つ
- ベッドは高く設定する
- 手を深く差し込み、しっかり密着させる
- ご利用者様の体重をきちんと乗せてもらう
- 体重移動で“斜め上へ滑らせる”(持ち上げない)
ご利用者様に「安心して動ける環境」を整え、
介助者が「無理なく安全に動かせる技術」を身につけること。
この2つがそろって、初めて
“双方にとって安全・快適な上方移動”が実現します。
あわせて読みたい記事
YouTubeでも解説しています。
ダメなパターンを理解することで、正しい介助方法がわかるかと思います。動画のほうも併せてご視聴いただける嬉しく思います。



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