腰が限界…それでも介助は必要。プロが教える“身体を守る”介護技術

もくじ

はじめに

介護の場面では、「腰が痛いけど、今日も動かさないといけない…」という状況が日常のように訪れます。
ご利用者様の体重が重い、動作が不安定、急な動きに対応しなければならない——。
そんな中で、気づけば腰に手を当てたくなる瞬間は誰にでもあるかと。

しかし、介助が必要な場面ほど“丁寧に、力を使わずに動かすこと”が求められます。
無理をして腰を痛めてしまうと、ご利用者様の安全なケアも続けられません。

実は、介助で腰を痛める理由の多くは「姿勢」と「体の使い方」にあります。
逆にいえば、そこを少し工夫するだけで、驚くほど身体への負担は減ります。

この記事では、
腰が限界でも“守りながら介助できる”プロの技術
分かりやすく、今日から使える形でまとめています。

「これなら続けられそう」と思える介助のヒントを、ぜひ見つけてください。

なぜ介助で腰を痛めるのか?

原因は「力ではなく姿勢」にある。

介助で腰を痛める理由は、「力が足りないから」でも「筋力が弱いから」でもありません。
本当の原因は、無意識のうちにとってしまう“姿勢のクセ” にあります。

もちろん、介助に力が全く不要というわけではありませんが、力不足以上に重要なのが姿勢なのです。

介助の場面では、ご利用者様の体を支えようとして前かがみになったり、動作に合わせて体をひねってしまったりすることが多くなります。
特に、

  • 深く屈む姿勢
  • 腰だけをひねる動き
  • 重心がずれた状態で支える
    といった姿勢は、腰への負担が一気に高まります。

腰は「前後に曲げる」動きにはある程度強いものの、ひねり(回旋)には構造的に弱い部位です。
つまり、前かがみ+ひねりの動作が組み合わさると、たとえ軽い力でも腰を痛めやすくなってしまいます。

さらに、家庭介護では“正しいフォームを学ぶ機会がほとんどない”ため、気づかないうちに負担の大きい姿勢が習慣化しやすいという大きな落とし穴があります。
「自分も無意識にやっていた…」と思う方も多いはずです。

また、家庭での介護に限らず、施設に入職した場合でも「教育がほとんどないまま、勤務初日からいきなりご利用者様の介助を任された」という声はよく聞きます。実際、YouTubeのコメントでも同じようなご意見を多くいただきます。

では、どうすれば腰への負担を減らせるのか?
答えはシンプルで、腰を使うのではなく股関節・膝・足裏といった“体の大きな関節”を使うこと

これらの関節をうまく使えるようになると、

  • 体重移動がしやすくなる
  • 姿勢が安定する
  • 腕の力に頼らなくてよくなる

といった変化が起き、腰への負担は驚くほど軽くなります。

「力で支える」から「姿勢と重心で動かす」へ。
ここを意識して変えるだけで、介助は一気に“身体を守る動作”へと変わります。

今日からできる!身体を守るための「基本姿勢」

介助で腰を痛めてしまう大きな原因は、“力任せ”ではなく「姿勢の崩れ」。
逆に言えば、正しい基本姿勢さえ身につけば、体格差があっても腰痛を防ぎながら安全に介助できるようになります。ここでは、今日から実践できる3つのポイントを紹介します。

① 股関節・膝を軽く曲げて、腰ではなく“脚”で支える

介助の基本となるのは、椅子から立ち上がる時と同じ 「スクワット姿勢」 です。

  • 股関節・膝を軽く曲げることで、太もも・お尻の大きい筋肉が使える
  • 腰だけを折る前かがみ姿勢が減り、腰椎への負担が激減
  • 足裏でしっかり踏ん張れるため、急な動きにも対応しやすい

さらに、腰だけを丸めるのではなく、上半身ごと前に傾ける「ヒンジ姿勢」を意識するのがコツ。
ヒンジ姿勢とは、股関節を軸に体を倒す動きで、筋トレでも使われる安全なフォームです。
この姿勢ができると、ご利用者様の重さを“脚”で支えることができ、腰に負担が集中しません。

② ご利用者様に近づくほど負担は減る

介助で最も危険なのは、「腕が伸びたまま距離が遠い状態」。
これはテコの原理で例えると、長い棒の先を持ち上げるようなもので、わずかな動きでも腰に大きな負担がかかります。

そこで意識したいのが、
利用者様に身体を近づけること。

  • 身体が近いほど、自分の体重を使って支えられる
  • ご利用者様の重心を感じやすく、動きのタイミングも合わせやすい
  • 大きな筋肉を使うことができ、余計な腕力を使わないため、疲れにくい

介助が安定することで、ご利用者様も安心して動けるため、結果的に双方の負担が減るというメリットもあります。

③ 真正面に立たない「45度の角度」が安全

介助で腰を痛める動作の代表が “ひねり”
人の腰は前後には動きますが、横方向の回旋(ひねり)にはとても弱い構造をしています。

そのため、
ご利用者様の真正面ではなく「やや45度の角度」から支えるのがベスト。

  • 真横・真後ろから支えると、体をねじって支えやすく危険
  • 45度から入ると、自分の重心移動を使いやすい
  • ご利用者様の動きの方向に合わせて誘導しやすい

この角度を意識するだけで、腰のひねりが大幅に減り、介助動作が驚くほどスムーズになります

プロが使っている “力に頼らない” 3つの介助テクニック

介助は「筋力」が勝負と思われがちですが、実際の現場では“力ではなく技術”で介助量が軽減します。
ここでは、訪問看護・リハビリ・介護現場のプロが当たり前のように使っている、身体を痛めないための3つのテクニックを紹介します。

① ご利用者様の「お尻を前に出す」

立ち上がりや移乗介助の 7割は “この動作で決まる” と言っても過言ではありません。

多くのご利用者様は、座面の奥深くに座り込んでしまっています。
その状態で立ち上がりを介助しようとすると、

  • 介助者の腰が丸まりやすい
  • ご利用者様と介助者の距離が近づかない
  • 重心が後ろに残ったまま動けない

つまり、双方にとって非常に不利な姿勢になります。

そこで必要なのが、
👉 お尻を“軽く”前に引き出すワンアクション。

お尻が前に出ると…

  • ご利用者様の膝が自然に曲がりやすくなる
  • 上体を前に倒しやすくなる(立ち上がりやすくなる)
  • 支持基底面(足の範囲)と重心の位置が整う
  • 介助者は無理に引き上げなくてもよくなる

つまり、立ちやすさが一気に改善し、介助の力がほぼ不要になるのです。
プロはこの「お尻の位置調整」を、動作前の“仕込み”として必ず行っています。

 お尻を“軽く”前に引き出すワンアクションについては、別の記事で詳しく解説していますので、そちらの記事も参考にしてみてください。

移乗介助が簡単!ワンアクション意識するだけで全介助でも腰の負担が軽減‼︎

② 体重移動で動かす “テコの応用”

介助で絶対に避けたいのが、
❌ 腕の力で引き上げる、持ち上げる――という動作。

腕力に頼ると、腰だけでなく肩・肘まで痛める危険があります。

プロが使うのは、身体の構造を理解した「テコの力」+「体重移動」の組み合わせ。

たとえば…

  • ご利用者様の腕を持ち上げるのではなく、
    介助者が後ろに体重を移すだけで身体が自然と起きてくる
  • 押すのではなく、
    “引く”動きの方が体重を使えるため圧倒的に軽い
  • 力を入れるのではなく、
    自分の重心が動く流れのまま、ご利用者様の重心を誘導する

この方法なら、筋力はそれほど必要なく、介助者の身体への負担が激減します。
特に「引く」動きは女性でも高齢の介助者でも扱いやすいため、現場でも最も多用されているテクニックです。

③ 滑りやすい素材を使って摩擦を減らす

介助で一番重く感じる原因は、じつは摩擦(こすれ)です。
摩擦が大きいと、ご利用者様の身体をわずかに動かすだけでも“鉛を引く”ように感じます。

そこでプロが活用するのが、「滑りやすい素材」

  • スライディングシート(移乗用シート)
  • ポジショニング用のナイロンシート
  • 100円ショップのゴミ袋(応急用)

とくにスライディングシートは、動作に必要な力を1/3〜1/5程度まで軽減できると言われており、
上方移動・体位変換・端座位への引き寄せなど、あらゆる場面で効果を発揮します。

摩擦が減れば…

  • 腕力に頼らずスムーズに動かせる
  • 介助者の腰への負担が劇的に軽くなる
  • ご利用者様の皮膚トラブル(擦過傷)も予防できる

とメリットしかありません。

▼スライディングシート(移乗用シート)のメリットや使い方は、YouTubeにて詳しく解説しています。▼
あわせて見てみてください。

【衝撃】みんな間違っている⁉︎上方移動が劇的に楽になるスライディングシートの正しい使い方‼︎

動作別:これだけ覚えれば身体を守れる介助方法

各動作の介助で気をつける点はたくさんありますが、まずは次にお伝えすることを覚えていただければ、介助者の身体を守ることができ、安全に介助することにつながります。

立ち上がり介助

  • お辞儀してもらう
    立位保持の支持基底面(足の間)に重心(おへそ)を近づけるだけで、介助量は軽減します。
    ご利用者様の足の力、下肢・体幹の支持力も自然と利用することができます(全介助の方でも)。

移乗介助

  • 車椅子とベッドの間の角度は30度/座面の高さをそろえる
    このセッティングがまずはかなり大事です。
  • 回旋で動かすのではなく「前に倒して横にスライド」の意識
    立ち上がり同様に、お辞儀をしっかりしてもらい、ご利用者様の足に体重が乗り、臀部が離床したら横にスライドの意識で移乗します。
  • 上に持ち上げる意識は捨てる。

ベッドからの起き上がり

  • まず“横向き”を作る。
  • 次に必ず、先に足をベッドから下ろします。
    足の重さでテコの原理が働き、上体が起き上がりやすくなり、介助量が軽減します。

家庭介護でも使える「道具で身体を守る工夫」

介助は“技術だけ”で行う必要はありません。
どの道具も介助を楽にし、なおかつ介助者とご利用者様双方の怪我を防ぐために使うものです。
道具は積極的に使っていただき、正しく使うことで、安全性・効率性・身体の負担軽減のすべてが向上します。

移乗サポートベルト(マスターベルト)

  • しっかり握れる取っ手があるため、安定した重心移動を促しやすい
  • 立ち上がり・ベッド⇄車いす移乗、歩行介助など、日常動作で使える万能アイテム

スライディングシート(滑り布)

  • 摩擦を極限まで減らし、力ではなく“滑らせる”介助ができる
  • ベッド上での上方移動、寝返り、側臥位づくりなどで負担が激減
  • 特に腰を痛めやすい「持ち上げる介助」を避けられるのが最大のメリット

スライディングボード

  • 車いす⇄ベッド移乗がスムーズに
  • “持ち上げない移乗”が可能となり、腰のひねりストレスがほぼゼロ
  • 上半身の支持が取れれば比較的軽い力で安全に移乗できる

リフト(介護用リフト)

  • 介助者の負担を最小にし、最も安全性が高い移乗手段
  • 体重が重い方・姿勢が不安定な方・全介助の方でも確実に移乗可能
  • 家庭用の据え置き型から、折りたたみ・天井走行式まで選べる

ターンテーブル(回転式円盤)

  • トイレ・ベッドサイド・車いす横など、狭い環境で特に役立つ
  • 立位が保てる方なら、その場で方向転換が楽にできる
  • 介助者が「回そうとして腰をひねる」クセを防げるため負担が激減

※道具は、「介助を楽にするため」でもあり、「怪我を防ぐため」に使うもの

道具を適切に使うことで、

  • 介助者の腰痛・手首痛・肩の張りといった身体負担を大幅に軽減できる
  • ご利用者様の転倒・皮膚トラブル・姿勢崩れによる事故を予防できる
  • 動作がスムーズになり、介助のストレスが減って“心の余裕”が生まれる
  • 結果として、双方の安心感と生活の質(QOL)が向上する

道具を使うことは“手抜き”ではなく、
安全・効率・安心を両立するためのプロの選択肢です。

腰が限界になる前に。介助者が守るべき3つの習慣

毎日たった3分の「股関節ストレッチ」

  • 介助で最も使うのは“腰”ではなく“股関節”
  • 股関節が固いと、前かがみの姿勢が深くなり、腰へのダメージが一気に増える
  • 寝る前・朝の3分だけでもOK
    → もも裏・お尻・股関節前側を軽く伸ばすだけで、翌日の介助が驚くほど楽になります

▼こちらの記事でストレッチを紹介しています▼

介護職必見!腰痛対策!寝ながらストレッチ【たった3分でOK】

重い動作が必要な日は“段取り”を組む(1人で抱えない)

  • 入浴日・通院日・ベッド上の大きな体位変換など、負担の大きい日はあらかじめ計画を
  • 「今日はここをサッと済ませる」「これは他の人にも手伝ってもらう」など、
    無理をしない段取りを組むだけで怪我のリスクが激減します
  • 1人で抱え込まないことが、腰痛予防の“最大のコツ”です

ご利用者様の能力を引き出す“お願いの言葉”を使う

  • 介助者が全部やろうとすると、身体の負担が増えるだけでなく、ご利用者様の力も低下
  • 動作の一部だけでも参加してもらうことで、介助の軽減と自立支援が同時に叶う
  • 声かけの例
    • 「少しだけ前に体を倒せますか?」
    • 「右足をちょっと前に出していただけますか?」
    • 「手すりを持っていただけると助かります」
  • 無理のない範囲で“できる力”を引き出すことが、安全にも直結するします

まとめ

あなたの身体を守ることは、ご利用者様を守ること

介助の現場で最も大切なのは、まず介助者自身の身体を守ることです。
あなたの腰や肩が健康であることは、そのままご利用者様の安全につながります。無理を続けて腰を痛めてしまえば、踏ん張れなくなったり姿勢が崩れたりと、結果的にご利用者様を危険な目に合わせてしまう可能性もあります。

介護は「優しさ」だけで成り立つものではありません。
どんなに思いやりがあっても、技術が伴わなければ身体を痛め、動作も不安定になります。反対に、正しい姿勢や誘導方法、道具の使い方を知っていれば、少ない力でも安全に動かせる“技術の介護”に変わります。

そして、その技術は特別なものではなく、
「股関節を使う」「ひねらない」「前に倒してスライドさせる」など、
今日から取り入れられる小さな工夫ばかりです。

姿勢を少し変える、声かけを工夫する、道具を取り入れる。
そんな“小さな一歩”の積み重ねが、
腰を守り、ご利用者様の安心を守る介護につながります。

無理をしないことは、優しさではなく“技術”。
そして、大切な判断です。
この記事が大切なお身体を守るきっかけになれば嬉しく思います。

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この記事を書いた人

訪問看護ステーション2事業所、福祉用具貸与事業所1事業所を運営している理学療法士です。
YouTube「やしのきチャンネル」では介護技術を発信し、現在チャンネル登録者数は15万人を超えています。また、「からだをいたわる介護術」を出版し、介護現場で役立つ知識を広めています。

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