介護技術レベルアップ!ボディメカニクスの基本「重心を近づける」のデメリットと対策

もくじ

はじめに

介護の現場では、ボディメカニクスを活用することで、介助者の負担を減らしながらご利用者様を安全に移乗などの介助を行うことが重要です。ボディメカニクスについてはこちらの記事にまとめましたので、併せて読んでみてください。

▶︎介護技術を極める!ボディメカニクスの基本と実践
https://kaigoskills.com/body-machanics/

その基本原則のひとつとして「重心を近づける」ことを述べましたが、重心を近づけすぎると、移乗や立ち上がりの際にかえって動きにくくなり、ご利用者様にとっても介助者にとっても負担になる場合があります。

本記事では、「重心を近づける」ことによる問題点と、その対策について詳しく解説します。これを理解し、適切な距離感で介助することで、よりスムーズな移乗や立ち上がり介助を実現できます。

「重心を近づける」とは?

写真のように、重たい荷物を持つときに腕を伸ばして持つと、腰に大きな負担がかかり、痛めてしまうことがあります。介助の際も同様に、ご利用者様から離れた状態で移乗介助などを行おうとすると、腕や腰に過度な負担がかかります。

そこで、ボディメカニクスの基本として「利用者様の重心と介助者の重心を近づける」ことが推奨されています。これは、支点が安定し、力を効率的に伝えられるためです。重心と重心の距離が遠いと腕や腰に負担が集中してしまいますが、適度に密着することで支える力が分散され、より少ない力で安全に介助を行うことができます。

そのため、介助時にはできるだけご利用者様に近づき、無理なく支えられる姿勢を意識することが大切です。

重心を近づけるメリット:

  • 腕や腰の負担が軽減される
  • 効率的に力を伝えられる
  • ご利用者様の不安を和らげられる

しかし、状況によっては、この「重心を近づけすぎる」ことがデメリットになることもあります。

重心を近づけすぎることのデメリット

1. 立ち上がり介助でのお辞儀動作がしにくい

立ち上がり介助の際には、ご利用者様に「お辞儀」をしてもらうことで、スムーズに体重移動ができます。しかし、介助者が過度に近づきすぎると、「お辞儀」がうまくできなくなり、ご利用者様がうまく重心移動をできなくなることがあります。

対策

  • 介助者の片方の足の位置を少し後ろにしてスペースを確保する
  • 真正面に面と向かって立つのではなく、やや斜めを向く
  • ご利用者様の支持基底面に重心を移すように前方への介助意識する

2. 移乗介助での回転動作が難しくなる

ベッドから車椅子への移乗介助の際に、重心を近づけすぎると、「お辞儀」をしていただくスペースがなくなるのと、ご利用者様の体をスムーズに回転させるスペースがなくなり、逆に移乗が難しくなることがあります。

対策

  • 介助者の足を少し開き、適度なスペースを確保する
  • 立ち上がり同様、介助者の車椅子に近いほうの足を少し後ろにひき、やや斜めを向く
  • ご利用者様の肩甲骨を支えながら、ゆるやかに回転できるようにする
  • 重心は近づけすぎず、適度な距離を保つことで、お辞儀とお尻が回転するスペースを作る

※この画像の車椅子の位置は本来逆です。
ちなみに、この動画は立ち上がりの理屈から移乗介助を説明している動画です。ぜひチェックしてみてください。

▶︎【移乗攻略】移乗の基本は立ち上がりにあり!!
https://youtu.be/OF8apT6Gvko?si=aKGGpj2doHCFuSZ8

3. 腰への負担が増える可能性がある

重心を近づけすぎると、「お辞儀」をしていただくスペースがなくなるため、重心を前方に誘導することができず、上に持ち上げる介助になってしまいがちです。上に持ち上げる介助は腕の力に頼ってしまうため、腰に大きな負担をかける原因になります。

対策

  • 体勢を適度に開き、動きやすいスペースを確保する
  • 背筋を伸ばし、無理な姿勢にならないようにする
  • ご利用者様の動きを確認しながら、前方に重心を誘導する
  • 決して上には持ち上げない

これでレベルアップ!正しい距離感での介助方法

1. 立ち上がり介助の適切な距離感

  1. ご利用者様に「お辞儀をするように前傾姿勢」をとってもらう
  2. 介助者は片足をやや後方に位置し、スペースを確保する
  3. 腰を落とし、ご利用者様の肩甲骨を支える
  4. 一緒に重心を前方へ移動しながら、スムーズに立ち上がる

2. 移乗介助の適切な距離感

  1. ベッドと車椅子をセッティングする
    ➡︎ 詳しくはこちらの記事を参照
  2. 介助者は車椅子側の片足をやや後方に位置し、スペースを確保する
  3. やや斜め(車椅子とベッドの間くらい)を向く
  4. ご利用者様に前傾姿勢を促し、回転しやすい状態を作る
  5. 重心を前方に誘導しながらスムーズな回転動作を意識して移乗を行う

3. 体重移動を活用する

  1. 介助者自身の体重を後方に移動させることで力を効率よく使える
  2. ご利用者様の体重移動を前方にうまく誘導する
  3. 「持ち上げる」のではなく、「滑らせる・引く」動作を意識する

まとめ

ボディメカニクスの基本である「重心を近づける」は、介助の効率を上げる大切なポイントですが、近づけすぎることで逆に動作が難しくなる場合があり、デメリットにもなってしまいます。適度なポジションをとり、適度な距離感を保つことで、動きやすいスペースを確保することが重要です。

✅ 適度な距離感を保つ:近づきすぎず、動きやすい位置を意識する
✅適度なポジションをとる:片足を後方に引いて、やや斜めを向く
✅ 体重移動を活用する:無理な力を使わず、スムーズな移動を意識
✅ お辞儀動作を促す:ご利用者様の重心移動をスムーズにする
✅ 腰への負担を軽減する:正しい姿勢を保ち、無理な動きをしない、上に持ち上げない

「重心を近づける」ことを意識しつつ、適切な距離感を取ることで、よりスムーズな移乗・立ち上がり介助が可能になります。ぜひ、日々の介護の中で実践してみてください!

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この記事を書いた人

訪問看護ステーション2事業所、福祉用具貸与事業所1事業所を運営している理学療法士です。
YouTube「やしのきチャンネル」では介護技術を発信し、現在チャンネル登録者数は15万人を超えています。また、「からだをいたわる介護術」を出版し、介護現場で役立つ知識を広めています。

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