介護技術を極める!ボディメカニクスの基本と実践

もくじ

はじめに

介護の現場では、ご利用者様の移乗や体位変換、歩行の介助など、日常的に身体を使うことが多くあります。これらの動作は、ご利用者様の安全を確保しながら行う必要があり、適切な方法を身につけていないと介助者の身体に大きな負担がかかってしまいます。特に腰や膝への負担が大きくなりやすく、特に介助量の多いケースでは、力に頼り切ってしまう介助をしてしまいがちですが、力任せの介助を続けていくと腰痛や関節痛、さらにはぎっくり腰などのケガのリスクを高める原因にもなります。

また、誤った介助方法を続けることで、ご利用者様にも負担がかかり、場合によっては転倒やケガといった医療事故につながることもあります。そのため、介助者自身の身体を守るだけでなく、ご利用者様にとっても安心・安全な介助を行うためには、正しい身体の使い方を習得することが不可欠なのです。

そこで重要になるのが「ボディメカニクス」です。

ボディメカニクスとは、身体の構造や動きの原理を理解し、効率よく力を使うことで、少ない力で大きな力を生みだし、負担を軽減する技術のことです。これを意識することで、介助の負担を減らし、安全かつスムーズな動作が可能になります。

本記事では、ボディメカニクスの基本から、介護の現場で実際に役立つ具体的なテクニックまでを詳しく解説します。

この記事では、以前にYouTubeで発信した動画をもとに解説していきます。動画も併せてご覧いただくことで、より理解が深まるかと思います。ぜひチェックしてみてください!

YouTube動画を見る
▶︎ボディメカニクス②基本的な体の使い方を学ぶ【座学編】

ボディメカニクスの基本原則

ボディメカニクスにはいくつかの基本原則があります。これらを意識することで、介助の負担を減らし、利用者様を安全に介助することができます。

1. 支持基底面を広く取る

支持基底面とは図で示したとおりです。支持基底面が広いことで、重心がはみ出すことなく安定します。介助の場面では力が入りやすいように前後左右に足を開いて支持基底面を広くすることで、バランスを保ちやすくなります。

ポイント
・足を広めに開き、安定した姿勢を保つ
・片足を前に出して、前後のバランスも意識する

2. 重心を低くする

重心とは人間の場合だと、身長の55%くらいの高さの場所にあります。なんとなく「おへそ」のあたりが重心と考えてください。その重心の位置を低くすると安定性が増し、スムーズに動作を行えます。支持基底面を広げるために足を広げることも重心を低くすることにつながりますね。さらに股関節と膝を軽く曲げることでどっしり構えることができ、より安定します。

ポイント
・膝を軽く曲げ、腰を落とす
・腰を丸くしないように注意する

3. からだをねじらない

荷物など、重たいものを持つときは正面で持つほうが力は発揮できます。また、腰をねじる動作は、腰痛の原因になりやすいので注意が必要です。
これは介助者だけに限ったことではなく、ご利用者様のからだにも言えることで、寝返りや起き上がり、移乗介助にの際にも、ご利用者様の腰がねじれないように介助してみてください。

ポイント
・腰をひねらず、足ごと向きを変える
・上半身と下半身が同じ動きをするように、体全体を動かして負担を分散する
・介助者にもご利用者様にも言えること

4. 大きな筋肉を使う

小さな筋肉よりも大きな筋肉のほうは大きな力が出ます。手先や腕の力よりも胸や背中、お尻や太ももなど、体の中心に近づくほど、大きな筋肉がついています。その大きな筋肉を意識的に使うことで、負担を分散できます。
どのように大きな筋肉を使うかについては簡単で、重心を低くしたり、対象物(介護ではご利用者様)に近づくことで、大きな筋肉が力を発揮しやすくなります。

ポイント
・胸や背中、お尻や太ももなど体の中心に近い筋肉を意識して動作する
・小さな筋肉だけに頼らず、全身を活用する
・他のボディメカニクスを活用することで自然と大きな筋肉を使うことができる

5. 水平移動を意識し、持ち上げない

介助の際、絶対にやってはいけないことが「持ち上げること」です。ご利用者様を「持ち上げる」と腰への負担が大きく、腰痛や怪我、はたまた医療事故の原因になります。できるだけ水平移動を意識し、持ち上げる動作を減らすことで、楽に介助ができます。

ポイント
・できるだけ持ち上げずに、滑らせるように移動させる
・スライディングシートやスライディングボードを活用して、水平移動をスムーズに行う
・ご利用者様の体の向きや重心を変えることで摩擦を減らし、持ち上げる必要を減らす

6. 重心を近づける

重たい荷物を持つときに、腕を伸ばして持つことは難しいですし腰を痛めてしまいますよね。介助の際も同様で、ご利用者様から離れた状態で移乗介助などを行おうとすると、腕や腰に過度な負担がかかります。できるだけご利用者様に密着することで、支える力が分散され、より少ない力で介助ができます。ただし、移乗介助に関してはご利用者様に「おじぎ動作」をしていただくことがポイントになります。介助者が近づきすぎてしまうと、おじぎ動作を妨げてしまい、逆に介助がやりにくくなることもあります。
とはいえ、基本的には「遠いよりは近いほうが良い」と考えて問題ないので、特に慣れていないうちは、「重心を近づける」ことを意識してみてください。

※このことについて詳しく解説した記事もありますので、ぜひ時間があるときに読んでみてください。

ポイント
・できるだけご利用者様に近づく
・腕だけでなく、体全体を使って支える

7. 押すよりも引くことを意識する

人間の身体の構造上、「押す」よりも「引く」ほうが力を発揮しやすいとされています。介護の現場でも、ご利用者様を上方移動や水平移動させる際には「押す」のではなく「引く」動作を意識することで、よりスムーズに介助することができます。移乗や立ち上がりにも同様のことが言えます。

ポイント
・腕だけで押さず、背中や足を使って引く動作を取り入れる
・自分の体重を後ろにかけながら引くことで、負担を減らす
・ご利用者様の動きに合わせて、ゆっくり引き寄せる

8. テコの原理を活用する

小学校か中学校くらいのときに習った方が多いと思いますが、「テコの原理」は介護現場で有効に使えるので、支点・力点・作用点を意識しながら少ない力で効率よく介助を行ってみましょう。図にあるように支点・力点・作用点を意識し、起き上がり以外の介助でもテコの原理を意識してみてください。

ポイント
・テコの原理を利用し、最小限の力で動かす
・支点・力点・作用点となる部分を意識して介助する

具体的な実践方法

ここからは、ボディメカニクスを活かした具体的な介助技術を解説します。

起き上がり介助

ポイント:

  • ご利用者様の足をベッドから降ろすことで、テコの原理を利用する。
  • 介助者は膝を軽く曲げ、ご利用者様の膝あたりを押しながら脚の重さを利用する。
  • ご利用者様の肩や腰を支えながら、上体を起こす。

移乗介助(ベッドから車いす)

ポイント:

  • ご利用者様の正面に立ち、ひねり動作を避けるため、やや斜めを向く。腰はねじらない。
  • ご利用者様に軽くお辞儀をしてもらい、重心を前に移動させる。
  • 自分の体重を利用しながら、ご利用者様を引き寄せるように移動する。
  • ご利用者様の支持基底面にしっかり重心を移動し、足に体重を乗せながら移乗する。

立ち上がり介助

ポイント:

  • ご利用者様の足が床にしっかりついていることを確認する。
  • ご利用者様に前傾姿勢を取ってもらい、重心を前に移動させ、立位時の支持基底面の乗せる。
  • 介助者は膝を曲げて体重を利用し、支えながら立ち上がる。

歩行介助

ポイント:

  • ご利用者様の横または斜め後方に立ち、転倒時にすぐ支えられる位置を確保する。
  • 歩く際は支持基底面が移動するため、重心位置をしっかり誘導しながら介助する。
  • ご利用者様の歩幅に合わせてゆっくりと誘導する。

ボディメカニクスを意識するメリット

ボディメカニクスを活用することで、以下のようなメリットがあります。

  1. 介助者の負担軽減
    • 無理な力を使わずに済むため、腰痛やケガを予防できる。
    • 小さな力で介助ができるため、介助が楽になる。
  2. ご利用者様の安心感向上
    • スムーズな動作で介助できるため、ご利用者様も安心して動ける。
    • 信頼関係が構築され、さらに介助が楽になる。
  3. 介助効率の向上
    • 身体の使い方が上手くなることで、介助がスムーズになり、時間短縮につながる。
  4. 安全性の向上
    • ねじったりや無理な持ち上げ動作を避けることで、介助者・ご利用者様双方の安全が確保される。
    • 医療事故のリスク管理にもつながる。

まとめ

ボディメカニクスを理解し、正しい介助技術を身につけることで、介助者自身の負担を軽減し、ご利用者様にとっても安全で安心できる介助が可能になります。

介護の仕事は身体を使う場面が多いため、日々の業務の中で正しい身体の使い方を意識することが大切です。そうすることで、より安全でスムーズな介助が実現できます。

これから介護技術を向上させたい方は、まずは基本的なボディメカニクスを意識しながら実践してみてください。毎日の積み重ねが、より良い介助につながります。

今回ご紹介するボディメカニクスは8つありますが、一度にすべてを覚えるのが難しいと感じる方は、こちらの記事も参考にしてみてください。介護技術の基本として、ボディメカニクスの要素を多く含んだ 「たった2つのポイント」 を解説しています。ぜひチェックしてみてください!

▶ 介護の基本をしっかり学ぼう
https://kaigoskills.com/kaigo-gijutsu-kihon/

今後も、介護の負担を軽減し、より良い介護技術をお伝えしていきますので、ぜひ実践してみてください!

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この記事を書いた人

訪問看護ステーション2事業所、福祉用具貸与事業所1事業所を運営している理学療法士です。
YouTube「やしのきチャンネル」では介護技術を発信し、現在チャンネル登録者数は15万人を超えています。また、「からだをいたわる介護術」を出版し、介護現場で役立つ知識を広めています。

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