【やってはいけない移乗介助】ズボン・おむつを掴んで持ち上げる介助が危険な理由

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もくじ

はじめに

移乗介助の現場で、非常によく見かける介助方法があります。
それが、

ご利用者様のズボンやおむつの後ろをぎゅっと掴んで持ち上げる介助

一見すると、
「転びそうだったから、とっさに支えた」
「立ち上がれなさそうだったから、引き上げただけ」
そんな“優しさ”や“必死さ”から出てしまう行為かもしれません。

しかしこの介助は、事故・ケガ・腰痛の原因になりやすい“やってはいけない移乗介助”の代表例です。

実際、

  • 転倒
  • おむつ破損
  • 皮膚トラブル
  • 介助者のぎっくり腰

などにつながるケースは少なくありません。

この記事では、

  • なぜズボン・おむつを掴む介助が危険なのか
  • どんなリスクがあるのか
  • では、どう介助すればいいのか

を、介護現場・家族介護の両方で役立つ形でわかりやすく解説します。

なぜ「ズボン・おむつを掴む介助」は起こるのか

この介助がなかなかなくならない理由は、決して特別なものではありません。
多くの場合、現場や在宅介護で起こりやすい“ごく自然な判断”の積み重ねによって生まれています。

その理由をひとつずつ見ていきましょう。

ズボンやおむつが“支えやすい位置”にあること

立位や移乗の場面では、ご利用者様の肩甲骨や骨盤の下にしっかり手を入れる余裕がないことも多くあります。
その結果、目の前にあるズボンやおむつが「握りやすく」「支えやすい」と感じてしまい、無意識のうちにそこに手が伸びてしまいます。

「しっかり掴んでいれば落とさない」という思い込み

ズボンやおむつを強く掴むことで、

「これなら大丈夫」
「支えているつもり」

になってしまいがちです。

しかし実際には、身体の中心を支えられておらず、腕や手の力だけに頼った“力任せの介助”になっていることに気づきにくくなります。

正しい介助方法を体系的に学ぶ機会が少ない

現場では先輩の介助を見て覚えたり、在宅介護では自己流で対応せざるを得ない場面も多くあります。
そのため、

「それが危険な介助だ」と知らないまま、
「昔からこうやってきたから」

と、ズボンやおむつを掴む介助が当たり前になってしまうケースは少なくありません。

「持ち上げないと危ない」という不安

立ち上がれなさそうな場面や、膝が崩れそうな瞬間に、

「落とすくらいなら、引き上げたほうがいい」

と判断してしまうことも大きな要因です。
その不安が、結果としてズボンやおむつを掴んで持ち上げる介助につながります。

ズボン・おむつを掴むことが介助だと思ってしまっている

この認識そのものが危険なのです。だからこそ大切なのは、

  • なぜその介助を選んでしまったのか
  • 他に安全な選択肢はなかったのか

を知ること。

危険性を正しく理解し、
最初から正しい支え方を選べるようになることが、事故を防ぐ一番の近道です。

ズボン・おむつを掴む介助が危険な5つの理由

① ご利用者様の身体を支えていない

ズボンやおむつを掴んでも、
身体の中心(体幹・骨盤)を支えていることにはなりません。

そのため、

  • 上半身が後ろに倒れる
  • 身体がねじれる
  • 膝が抜ける

といった不安定な状態を招きます。

結果として、
転倒や尻もちにつながるリスクが高くなります。

② おむつ・ズボンは「介助用に作られていない」

おむつやズボンは、

  • 体重を支える
  • 引っ張り上げる

ことを想定して作られていません。

強く掴めば、

  • おむつが破れる
  • ズボンがずれる
  • 皮膚を引っ張る

といったトラブルが起こります。

特に高齢者の皮膚は薄く、
摩擦や引っ張りによる皮膚損傷につながりやすいのです。

毎回のようにズボンやおむつを掴んで移乗介助を行っていると、
鼠蹊部(そけいぶ)やお尻に強い摩擦が加わり赤みが出たり、痛みを訴えたりすることがあります。

また、ズボンやおむつは体を支えるために作られたものではないので、強く引っ張ることで破れてしまう可能性もあり、その瞬間にバランスを崩して転倒してしまう危険性も高まります。

万が一転倒してしまえば、
打撲や捻挫だけでなく、状況によっては骨折につながるケースもあります。

「たまたま今まで大丈夫だった」からといって安全とは限りません。
日々の積み重ねが、ある日突然、大きな事故につながってしまうこともあるのが移乗介助の怖さです。

③ ご利用者様の恐怖心が強くなる

後ろから突然引き上げられると、

  • 何が起きているかわからない
  • 自分で踏ん張れない
  • 怖くて身体がこわばる

という心理状態になります。

その結果、

  • 余計に力が入る
  • 動きが止まる
  • 介助がさらに大変になる

という悪循環に陥ります。お尻が急に浮く感覚は結構怖いものです。

④ 介助者の腰に直撃する

ズボン・おむつを掴む介助は、

  • 腕だけで引き上げる
  • 前かがみになる
  • 腰を丸めたまま力を出す

という姿勢になりやすく、
介助者の腰に最も負担がかかる動きです。

その場では大丈夫でも、

  • 翌日から腰が痛い
  • 繰り返すうちに慢性腰痛
  • ある日突然ぎっくり腰

につながるケースは非常に多いです。

⑤ 「持ち上げる介助」になってしまう

移乗介助の基本は、

持ち上げない・支える・動きを引き出す

ですが、ズボンやおむつを掴むと、
どうしても持ち上げる介助になります。

これは、ご利用者様の残存能力を使えず、介助者だけが頑張る形になってしまいます。

正しい考え方|移乗介助は「引き上げる」のではない

ここで大切な考え方があります。

移乗介助は、

❌ 引き上げる
⭕ 動きやすい姿勢を作り、体重移動を引き出す

というものです。

そのために必要なのは、

  • 骨盤
  • 肩甲骨
  • 体幹

といった身体の“芯”を支えることです。

ズボンやおむつは、
身体の芯とは全く関係のない場所です。

どうすればいい?正しい移乗介助のポイント

① 支える位置を変える

ズボンではなく、一番オーソドックスな位置は肩甲骨です。

介助者は、ご利用者様の腋窩(腋)から手を通して、肩甲骨を包み込むようにさせます。

よく勘違いされがちですが、決して脇を支えるわけではありません。
脇を支えてしまうと、脇が上に抜けるように力が伝わらなかったり、脇には大事な神経や血管が走って知るので、そこを痛めてしまうリスクもあります。

肩甲骨に手を添えることで、ご利用者様の身体全体を安定して支えられます。

② ご利用者様の足を使う

立ち上がりや移乗では、

  • 足裏が床についているか
  • 膝が曲がっているか(90度より少し曲がっているくらい)
  • 前方に体重を乗せられているか

を必ず確認しましょう。

足を使えるだけで、介助量は大きく減ります。
足に力が入らない、ぜんかいじょの方も同様です。体重が足にのおると、重さが分散されます。

③ 介助者は「密着・体重移動」

  • 腕を伸ばさない
  • 身体を近づける
  • ご自身、ご利用者様の体重移動を利用する

これだけで、腕力に頼らない安全な介助が可能になります。
とはいえ、体を近づけすぎることもいいとは限りませんので、ご利用者様の動き(お辞儀)を妨げない程度に「近づくこと」を意識してみてください。

介助の基本となるこの部分は、一つの記事にもまとめていますので、こちらの記事も参考にしてみてください。

介護技術の基本をしっかり学ぼう!〜まず覚えることは2つだけ〜

④ 声かけを忘れない

「今から立ちますよ」
「車椅子に乗ってトイレに行きますよ」
「お辞儀をして前に体重を乗せましょう」
「ゆっくりで大丈夫です」

声かけがあるだけで、ご利用者様は次の動きの準備ができるので、動きを引き出しやすくなり、介助量は軽減します。私の経験上、認知症があっても、全介助の方でも同じことが言えます。

声かけに関しても、しっかり記事にまとめています。
こちらの記事も参考にしてみてください。

【介助時の声かけのコツ】安心感を与える5つの言葉

家族介護の方へ

「うまくできなくて当たり前」だからこそ知ってほしいこと

在宅で介護をされているご家族様は、
介護の仕事をしている方と比べると、移乗や立ち上がり介助を行う回数そのものが少ないことがほとんどです。

当然ながら、

  • 何度も練習する機会がない
  • 誰かにチェックしてもらえる場面も少ない
  • 「これで合っているのか分からない」まま介助している

という状況になりやすく、
介助がなかなか上達しにくいのは、ごく自然なことです。

そのため、転びそうになった瞬間や不安を感じた場面で、

  • ズボンを掴んでしまう
  • おむつを引っ張ってしまう

という行動に出てしまうのも、決して「間違った気持ち」からではありません。

「とにかく守りたい」
「転ばせたくない」

その思いが強いからこそ、起きてしまう行動です。

ですが、その結果としてご本人様を痛めてしまったり、転倒や皮膚トラブルにつながってしまっては本末転倒です。

特に在宅介護では、一度の怪我や転倒が生活そのものを大きく変えてしまうことも少なくありません。

だからこそ、

「力で何とかする介助」ではなく、
「身体を近づけて支える介助」を、
少しずつでも知っておいてほしいのです。

正直なところ、
文字を読んだだけで、すぐに完璧な介助ができるようになるわけではありません。
それは、介護の現場でも同じです。

それでも、

「これは危険なやり方なんだ」
「他にも選択肢があるんだ」

と知っているかどうかで、とっさの行動は確実に変わってきます。

このブログやYouTubeは、
「できていない人を責めるため」ではなく、
“事故を減らすための選択肢を増やす”ために発信しています。

なかなか実践や練習の機会がないからこそ、
事前に知っておくことが、いちばんの予防になります。

ご家族様の介助が、ご本人様にとっても、介助する方ご自身にとっても、
少しでも安全で、少しでも安心できるものになるように。

この情報が、その一助になれば幸いです。

まとめ

ズボン・おむつを掴んで持ち上げる介助は、

  • ご利用者様を守っているようで
  • 実は危険を高め
  • 介助者の身体も壊してしまう

やってはいけない移乗介助です。

移乗介助で大切なのは、

  • 持ち上げない
  • 身体の軸を支える
  • 足と体重移動を使う

この基本を守ること。

ご利用者様が安心して動けること、そして介助者が長く介護を続けられること。

そのためにも、
「ズボンやおむつを掴まない」
この一歩から、介助を見直してみてください。

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この記事を書いた人

訪問看護ステーション2事業所、福祉用具貸与事業所1事業所を運営している理学療法士です。
YouTube「やしのきチャンネル」では介護技術を発信し、現在チャンネル登録者数は15万人を超えています。また、「からだをいたわる介護術」を出版し、介護現場で役立つ知識を広めています。

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