【3万円給付は意味があるのか?】吉村知事の「感謝のギフト事業」を介護・保育・障害福祉の現場から考える

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もくじ

はじめに

SNSで大きな反響を呼んだ吉村知事のポスト

大阪府知事・吉村洋文氏が、次のような内容をX(旧Twitter)で発信しました。

介護職、保育職、障害児者施設で働く皆さん(43万人)に、3万円のギフトカードをお送りする事業を行います。
介護を必要とする人生の先輩方を支えてくれてありがとう。
赤ちゃん、小さな子供を守ってくれてありがとう。
本質的には賃金アップの構造改革が必要ですが、感謝の意も含めて本事業を行います。

この投稿は、現場で働く多くの人の目に留まり、
「ありがたい」「嬉しい」「でも根本解決にはならない」
と、賛否両論を巻き起こしました。

この施策について質問された際、吉村知事は次のように語っています。

「“私は介護士じゃないから不平等やんか”っていう話もあるかもしれません。でも、介護の世界ってもっと給料を上げていかなあかんと思う」

「それがなかなか上がりにくい構造になっている。そこを何とかせなあかんっていうのが本質的な改革なんだけど」

「介護士のみなさんに“ありがとう”という気持ちを忘れたらあかんと思うねん。感謝の思いを伝えたいという思いで、この事業を組みました」

※引用記事(Yahoo!ニュース)

この言葉からも分かるように、今回の事業は
「賃金制度そのものを変える改革」ではなく、感謝の気持ちを形にした“一時的な支援”です。

実際、介護・保育・障害福祉の現場では、

  • 仕事の重要性に対して給料が見合っていない
  • 物価高の中で生活が苦しい
  • 人手不足が限界に近づいている

といった声が、以前から数多く上がってきました。

本来であれば、
安定した賃上げや報酬体系の見直しといった構造改革こそが必要であり、
吉村知事自身もその点を否定していません。

それでもあえて今回、3万円という形で支援を行った背景には、

  • まず「現場に感謝している」という姿勢を明確に示すこと
  • 今すぐできる支援を、スピード感をもって届けること

この2つの狙いがあったと考えられます。

では、この3万円給付は、
介護・保育・障害福祉の現場にとって本当に意味のある施策なのでしょうか。
それとも、根本的な問題から目を逸らす“その場しのぎ”なのでしょうか。

本記事では、この事業を感情論ではなく現場目線で捉え直し、
「評価できる点」「限界」「そして本当に必要な改革」について、丁寧に整理していきます。

なぜ今、この3万円給付が打ち出されたのか

今回の3万円ギフトカード給付は、突発的に思いつかれた政策ではありません。
背景には、介護・保育・障害福祉分野が長年抱えてきた構造的な限界があります。

深刻化する人手不足と現場の疲弊

介護現場では、

  • 高齢化の加速
  • 要介護度の重度化
  • 業務量の増加

が同時に進んでいます。

一方で、

  • 賃金は全産業平均より低水準
  • 夜勤や身体的負担が大きい
  • 責任は重いが評価されにくい

という状況が続いてきました。

その結果、
「人が定着しない」
「経験者ほど辞めていく」
「現場が回らなくなる」
という悪循環が、全国各地で起きています。

大阪府も例外ではありません。

「本当は賃金を上げるべき」だと分かっているからこそ

吉村知事は発言の中で、

「もっと給料を上げていかなあかん」
「でも、それが上がりにくい構造になっている」

と、はっきり述べています。

これは、
介護職員の給料が低い理由は“努力不足”ではなく、制度の問題
だと認めている発言でもあります。

介護報酬は国が決め、
自治体だけで自由に大幅な賃上げを行うことはできません。

つまり、

  • 賃上げの必要性は分かっている
  • しかし、すぐには動かせない壁がある

その中で、今すぐできる現実的な支援策として選ばれたのが、
今回の3万円給付だったと考えられます。

「ありがとう」を言葉だけで終わらせない意味

介護職に対して「感謝しています」という言葉は、
これまで何度も聞いてきました。

しかし現場では、
「感謝されている実感がない」
「言葉だけで何も変わらない」
という声が多いのも事実です。

今回の施策は、

  • 完璧な解決策ではない
  • 構造改革ではない

それでも、
「ありがとう」を“形”として示したという点では、
これまでとは一線を画しています。

この点をどう評価するかが、
今回の議論の大きな分かれ目になっています。
今すぐできる支援としての“メッセージ性”を重視した施策だと考えられます。

現場はこの3万円給付をどう受け止めているのか

今回の3万円ギフトカード給付について、介護・保育・障害福祉の現場では、決して一色の反応ではありません。
「素直にうれしい」という声がある一方で、「根本は何も変わらない」という冷静な意見も多く聞かれます。

「正直、ありがたい」という現場の本音

まず多かったのが、率直な感謝の声です。

  • 物価高が続く中で、3万円は決して小さくない
  • 光熱費や食費の足しになる
  • 自分たちの仕事が“見られている”と感じられた

特に、長年現場で働き続けてきた介護職員ほど、
「評価されにくい仕事だからこそ、こうした形はうれしい」
と受け止めている傾向がありました。

給付額そのものよりも、
「あなたたちの仕事には価値がある」
と明確に示されたことが、心の支えになったという声もあります。

一方で拭えない「これで終わらないよね?」という違和感

同時に、こんな声も少なくありません。

  • 一時金だけでは生活は変わらない
  • ボーナスでも給与でもない
  • 来年以降が見えない

介護の仕事は、短距離走ではなく長距離走です。
一度きりの給付よりも、
毎月の給与が数千円でも上がることの方が、生活設計に与える影響は大きくなります。

そのため、

「ありがたいけど、これで“やった感”を出されると困る」

という本音も、現場には確かに存在します。

「不平等では?」という声に対する考え方

吉村知事が言及した
「介護士じゃないから不平等やんか、という声が出るかもしれない」
という点についても、現場では意見が分かれています。

確かに、同じ社会を支える仕事であっても、給付対象にならない職種は多くあります。

しかし介護現場の多くは、

  • 命に直結するケア
  • 代替がきかない業務
  • 慢性的な人手不足

という厳しい条件の中で成り立っています。

「だからこそ、まずここに光を当てた」という説明には、一定の理解を示す声も多く聞かれました。

給付は“ゴール”ではなく“スタート”であるべき

今回の施策をどう評価するかは、この先に何が続くかによって大きく変わります。

  • 一度きりで終わるのか
  • 次につながる布石なのか
  • 国の制度改革にどう影響するのか

もしこの3万円が、「感謝はした。だから我慢してほしい」
というメッセージで終わるなら、現場は離れていきます。

逆に、

  • 給与体系の見直し
  • 処遇改善加算の本格的な引き上げ
  • キャリアに応じた評価制度

へとつながるのであれば、この給付は“意味のある一歩”として記憶されるはずです。

「感謝」と「構造改革」は別物である

吉村知事のポストで、特に重要なのがこの一文です。

本質的には賃金アップの構造改革が必要

ここをどう捉えるかで、この施策の評価は大きく変わります。

感謝だけでは、人は残らない

どれだけ感謝されても、

  • 給料が安い
  • 休みが取れない
  • 体を壊す
  • 将来が見えない

こうした状況が変わらなければ、人は辞めていきます。

介護・保育・障害福祉は、やりがいだけで続けられる仕事ではありません。

構造改革とは何か?

本当に必要なのは、

  • ベースアップされる賃金体系
  • 事業所努力に依存しない報酬制度
  • 人員配置基準の見直し
  • 身体的・精神的負担を減らす仕組み
  • キャリアを積めば報われる設計

こうした制度そのものの見直しです。

今回の3万円給付は、その「前段階の応急処置」に過ぎません。

この施策が評価できる点

感情を排しても、評価できる点はあります。

① 対象が広い

介護・保育・障害児者施設という、
ケア労働全体を一括りで支援している点は評価できます。

分断ではなく、「ケアを担う仕事全体」へのメッセージになっています。

訪問看護も「介護保険制度」を利用している以上「介護」という位置づけにはならないのか。
弊社は「訪問看護」「福祉用具貸与事業」を運営しているため、そこも対象になればって正直思ってしまったことはご容赦ください。

② 現場を理解している言葉選び

  • 人生の先輩方を支えてくれてありがとう
  • 赤ちゃん・子どもを守ってくれてありがとう

この言葉は、賃金や制度といった数字の話ではなく、介護・保育・障害福祉の仕事が社会の中で果たしている本質的な役割そのものを言語化しています。

介護職は、単に「身の回りの世話」をしているのではありません。
人生の最終章に寄り添い、尊厳を守りながら生活を支える仕事です。
また、保育や障害児者支援の現場では、これから社会を担っていく命と日常を、毎日守り続けています。

こうした役割は、制度説明や統計データだけでは伝わりません。

この視点が示されたこと自体は、
介護・保育・障害福祉の現場で働く人たちにとって、少なくとも「自分たちの役割がどう見られているのか」を
感じ取れる発信だったのではないでしょうか。

言葉だけで現場が変わるわけではありません。
それでも、仕事の価値を正面から表現しようとした姿勢は、受け取る側にとって一つの意味を持つものだったと言えます。

強く言いたい「ここで終わらせてはいけない」

最も危険なのは、

「3万円あげたから、もういいでしょ」

という空気が広がることです。

現場は、もう限界です。

  • 人が足りない
  • 教える余裕がない
  • 事故リスクが高まっている
  • サービスの質が落ちている

これは現場の努力不足ではなく、制度疲労です。

今回の事業は、

  • 感謝の表明
  • 緊急支援

としては意味があります。

しかし、これを“やった感”で終わらせてはいけないと感じますし、終わらせないでほしいです。

現場からの本音|求めているのは「安心して続けられる未来」

介護・保育・障害福祉の現場が本当に求めているのは、

  • 一時的なお金
  • イベント的な給付

ではありません。

求めているのは、

  • 5年後、10年後も続けられる仕事であること
  • 家族を養える給料
  • 体を壊さずに働ける環境
  • 誇りを持って「この仕事をしている」と言える社会

です。

まとめ

3万円は「きっかけ」にできるかどうか

今回の吉村知事の施策は、万能でも、解決策でもありません。

しかし、

  • 現場に目を向けた
  • 構造改革こそが必要と明示した
  • 感謝を言葉にした

という点で、ゼロではない。

大切なのは、この3万円を「終わり」にするのか、「始まり」にするのか。

現場の声を拾い、制度に反映し、構造そのものを変えていく覚悟が、これから本当に問われます。

介護・保育・障害福祉は、社会の土台です。

その土台を支える人たちが、安心して働ける社会でなければ、誰も安心して歳を重ねることはできません。
それこそが、本当の意味で介護・保育・障害福祉の現場に報いる道なのではないでしょうか。

今後の構造改革にも注視していきますので、また情報が更新されましたら、当ブログでも公開していきますね。

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この記事を書いた人

訪問看護ステーション2事業所、福祉用具貸与事業所1事業所を運営している理学療法士です。
YouTube「やしのきチャンネル」では介護技術を発信し、現在チャンネル登録者数は15万人を超えています。また、「からだをいたわる介護術」を出版し、介護現場で役立つ知識を広めています。

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