はじめに|移乗介助が「重い」と感じる本当の理由
「移乗がうまくできない…」
「なぜか毎回重い…」
「自分だけ下手なのでは?」
そんなふうに感じたことはありませんか?
実は、移乗介助がうまくいかない原因の多くは
“力が足りないから”ではありません。
腕力でも、体格でも、経験年数でもない。
本当の原因は、
姿勢とタイミングのズレにあります。
現場ではよく、
- もっと腰を落として
- しっかり踏ん張って
- 力を入れて
と言われることがあります。
ですが、
力を入れれば入れるほど重くなる介助もあるのです。
逆に、体格が大きくなくても
驚くほどスッと移乗できる人もいます。
その違いは何か?
この記事では、
移乗介助がうまくできない代表的な原因を3つに絞って解説します。
少し意識を変えるだけで、移乗は驚くほど楽になります。
もし今、
「移乗が怖い」「腰が痛い」「自信がない」
そう感じているなら、ぜひ最後まで読んでみてください。
移乗介助が上手くできない原因① 膝が伸びている
移乗が重くなる人に最も多いのが、
移乗前の座位姿勢で、膝が思っている以上に伸びてしまっていることです。
「ちゃんと足は引いています」と言われることも多いですが、
実際に見ると、ほんの少し前に出ているケースがほとんどです。
この“ほんの少し”が、
移乗の難易度を大きく左右します。
膝が伸びると何が起きる?
立ち上がり動作では、
- 支持基底面(足の位置)
- 重心の位置
この関係がとても重要です。
膝が伸び気味、つまり足が前に出ている状態では、
重心が支持基底面よりも後ろに位置します。
その結果どうなるか。
立ち上がるためには、
重心を大きく前方へ移動させなければならなくなるのです。
本来なら小さな重心移動で済むはずが、
必要以上に前方移動が必要になる。
すると、
- ご利用者様の筋力負担が増える
- 前傾が大きくなり不安定になる
- 介助者の引き上げる力が増える
という状態になります。
これが「なぜか重い」の正体です。
なぜ「腰が痛くなる」のか?
重心移動の距離が大きくなると、
立ち上がりは“持ち上げ動作”に変わってしまいます。
本来は、
前方への重心移動 → 立ち上がり
という流れが理想です。
しかし膝が伸びていると、
重心移動が足りない
↓
途中で止まる
↓
介助者が引き上げる
というパターンになります。
この「引き上げ」が、
腰への負担を一気に増やします。
つまり、
腰が痛くなる原因は“力不足”ではなく、
足の位置エラーによる重心移動不足なのです。
改善ポイント|膝は“90度より少し曲げる”

ほんのわずかで構いません。
足が、今よりも1センチ、2センチ
後ろにあるだけで、
立ち上がりは驚くほど軽くなります。
たったそれだけで、
- 重心移動が小さくなる
- ご利用者様の踏ん張りが活きる
- 介助者の負担が減る
という変化が起きます。
移乗が重いと感じたら、
まず確認してほしいのは「足の位置」。
移乗介助が上手くできない原因② 骨盤が寝ている
次に多い原因が、
移乗前の座位で骨盤が寝ていることです。
「深く座らせているつもり」でも、
実際は骨盤が後傾し、背中が丸まっている状態になっていることがよくあります。
この姿勢のまま立ち上がろうとすると、
移乗は一気に難しくなります。
骨盤が寝る=体が後ろに逃げている
骨盤が寝ている状態とは、
いわゆる後傾姿勢です。
- お尻が前に滑る
- 背中が丸くなる
- 視線が下がる
この姿勢では、体の重心は自然と後ろに残ります。
つまり、
立ち上がる方向とは逆に、体が逃げている状態です。
重心が後ろにあるとどうなる?
立ち上がりの基本は、
① 重心を前に移動させる
② 支持基底面の上に乗せる
③ 伸展して立ち上がる
という流れです。
しかし骨盤が寝ていると、
①の時点でうまくいきません。
重心が後ろに残る
↓
前傾が浅い
↓
お尻が浮かない
↓
介助者が持ち上げる
というパターンになります。
結果として、
- ご利用者様が踏ん張れない
- 立ち上がりが途中で止まる
- 介助者の腰に負担がかかる
という悪循環になります。
「なんとなく重い」と感じる移乗の多くは、
この“骨盤の後傾”が隠れています。
改善ポイント|骨盤を立てる意識とは?
ポイントはシンプルです。
- お尻を後ろに引き直す
- 坐骨で座る感覚を作る
背中を伸ばそうとするのではなく、
まずは骨盤の角度を整えることが大切です。
具体的には、
- 一度お尻を軽く持ち上げて深く座り直す
- 足を少し引く
- 前傾しやすい姿勢を作る
移乗は“立ち上がる瞬間”が勝負ではありません。
勝負はその前の座位姿勢で決まっています。
重いと感じたら、
まずは骨盤が寝ていないかを確認してみてください。

移乗介助が上手くできない原因③ 足に体重が乗り切る前に移動を開始してしまう
姿勢が整っていても、
移乗の介助量が多くなり、重くなることがあります。
その原因が、
タイミングの早さです。
具体的には、
これがあるだけで、
移乗は一気に“持ち上げ動作”になります。
タイミングが早いと何が起きる?
立ち上がりは本来、
① 前傾
② 足に体重が乗る
③ お尻が浮く
④ さらにしっかり足に体重が乗る
という順番で起こります。
しかし、介助者が焦ってしまうと、
前傾の途中で
↓
お尻がしっかり浮く前に
↓
体を回旋・移動させてしまう
という流れになります。
すると、
- ご利用者様の下肢が使えない
- 体幹が不安定になる
- 介助者がほぼ全介助になる
という状態になります。
「なんでこんなに重いの?」
という移乗は、タイミングエラーが非常に多いです。
なぜ重く感じるのか?
答えはシンプルです。
“自分一人で持っているから”です。
足に体重が乗り切る前に動くと、
ご利用者様の体重は分散されません。
つまり、
共同作業ではなく、
単独作業になってしまいます。
ほんの0.5秒の差ですが、
この差は非常に大きい。
足に力が入らないご利用者様であっても、
足に体重を乗せることは非常に大事なポイントになります。
改善ポイント|“乗った”を確認してから動く
ポイントはこれだけです。
- 足に体重が乗った感覚を待つ
- お尻が“ふわっ”と浮くのを感じる
- その瞬間に方向転換する
焦らなくて大丈夫です。
むしろ、
待ったほうが軽くなります。
声かけで言えば、
「前に倒れていきますよ」
「足に体重かけますよ」
「はい、今です」
この“今”の見極めが、移乗の質を決めます。
移乗は、
姿勢 × 足の位置 × タイミング
この3つでほぼ決まります。
力は、最後の要素です。
よくある失敗例
ここまで、
- 膝の角度
- 骨盤の向き
- タイミング
をお伝えしました。
では実際の現場では、どんな失敗が起きているのでしょうか。
移乗が重くなる典型的なパターンを紹介します。
① 「せーの」で一気に引き上げてしまう
声かけと同時に、
介助者が先に力を入れてしまうパターンです。
ご利用者様の前傾が不十分なまま、
腕で引き上げる。
すると、
- 足が使えていない
- 重心が後ろに残っている
- ほぼ全介助になる
という状態になります。
「せーの」は悪くありません。
問題は、“待てているか”です。
② 足の位置を確認せずに始めてしまう
忙しい現場では、
ついそのまま立ち上がりを始めてしまいます。
しかし、
足が1〜2センチ前に出ているだけで、
重心移動の距離は大きく変わります。
「なんか今日は重いな…」
移乗は“準備が8割”です。
③ 骨盤が後傾したまま方向転換してしまう
お尻が浮ききっていない状態で、
体を回してしまうケースです。
すると、
- 途中で止まる
- バランスが崩れる
- 抱え込みになる
という流れになります。
立ち上がりと方向転換は、
同時ではなく、順番です。
④ 介助者自身が怖くなっている
実はこれも多いです。
「転ばせたくない」
「失敗したくない」
この気持ちが強いと、
体が無意識に固くなります。
すると、
- 膝が伸び、腰が曲がる
- 骨盤が後ろに引ける
- タイミングが早くなる
という悪循環に入ります。
移乗は特別な技術は必要ありません。
正しい準備と、
ほんの少しの待つ余裕。
それだけで、
驚くほど軽くなります。
移乗介助が上手くできない原因は、実は1つだけ
ここまで、
- 膝が伸びている
- 骨盤が寝ている
- タイミングが早い
とお伝えしてきました。
ですが、本質はもっとシンプルです。
移乗介助が上手くできない原因は、
たった1つしかありません。
それは――
支持基底面に重心を乗せられていないこと
立ち上がりとは何か。
それは、
重心を支持基底面(足の上)に移動させる動作です。
これができれば、
人は自分の力で立ち上がれます。
逆に、
重心が後ろに残る
↓
支持基底面の外にある
↓
足が使えない
↓
介助者が持ち上げる
この流れになると、
移乗は一気に重くなります。
膝が伸びているのも、
骨盤が寝ているのも、
タイミングが早いのも、
すべては
支持基底面に重心を乗せる準備ができていない
という1点に集約されます。
移乗は“力”ではありません。
どれだけ上半身が強くても、
重心が足に乗らなければ立ち上がれません。
逆に、
支持基底面にきちんと重心が乗れば、ご利用者様は自然と立ち上がります。
介助者は、
「持ち上げる人」ではなく、
「重心移動をサポートする人」です。
移乗が重いと感じたら、
次の1つだけを確認してみてください。
この視点を持つだけで、
移乗は確実に変わります。

少し意識を変えるだけで移乗は楽になる
ここまで読むと、
「結局、難しそう…」
そう感じた方もいるかもしれません。
ですが実際は、
特別な技術が必要なわけではありません。
変えるのは“力の量”ではなく、
見るポイントです。
力を使わない介助とは?
力を使わない介助とは、
サボることではありません。
ご利用者様の力が発揮できる環境を整えることです。
そのために大切なのは、次の3つ。
- 足の位置を整える(支持基底面を作る)
- 骨盤を立てる(前傾しやすい姿勢を作る)
- 足に体重が乗る瞬間を待つ
この3つがそろうと、
立ち上がり・移乗動作は
「持ち上げる動作」ではなく、
「自然に伸び上がる動作」に変わります。
介助者が頑張るほど重くなるのではなく、
頑張らないほうが軽くなる。
これが移乗の面白いところです。
明日から試してほしいこと
明日の移乗で、
全部を意識する必要はありません。
まずは1つでいいです。
- 立ち上がる前に、足の位置を1〜2センチ後ろへ引く
- 骨盤が寝ていないかを見る
- 「乗った」と感じるまで待つ
そのうちのどれか1つだけで構いません。
それだけで、
「あれ?今日は軽い」
と感じる瞬間が出てきます。
移乗は才能ではありません。
原理を知り、
少し意識を変えるだけで必ず上達します。
あなたの体も、
ご利用者様の体も、
本来はちゃんと立てるようにできています。
その力を引き出すのが、
私たち介助者の役割です。
まとめ|移乗は「力」ではなく「姿勢とタイミング」
移乗介助が上手くできない原因は、
決して「力不足」ではありません。
- 膝が伸びている
- 骨盤が寝ている
- 足に体重が乗る前に動いてしまう
一見バラバラに見えるこの3つも、
本質は1つです。
支持基底面に重心を乗せられているかどうか。
移乗動作は、
持ち上げる動作ではありません。
重心を前に移動させ、
足の上に乗せ、
自然に乗り移る動作です。
姿勢が整い、
タイミングが合えば、
移乗は驚くほど軽くなります。
逆に、
どれだけ力を使っても、
姿勢とタイミングがずれていれば重くなります。
移乗は“腕力の勝負”ではありません。
姿勢 × 足の位置 × タイミング
この3つを整えること。
明日の移乗では、
ぜひ一度こう問いかけてみてください。
「今、重心は足の上にあるか?」
その視点を持つだけで、
移乗は確実に変わります。
そして何より、
あなた自身の腰を守ることにもつながります。
移乗は怖いものではありません。
原理を知れば、
必ず楽になります。


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