はじめに|「体位変換している=予防できている」ではない
「2時間おきに体位変換しています。」
現場でよく聞く言葉です。
ですが――
それだけで褥瘡は防げていると言えるでしょうか?
実際には、
- きちんと体位変換している
- 記録も残している
- 回数も守っている
それでも、褥瘡ができる。
むしろ悪化してしまう。
こうしたケースは、決して珍しくありません。
問題は、「やっていないこと」ではなく、
“できているつもり”になっていることです。
毎日2時間おきに変えているのに悪化する理由
体位変換の基本として、
「2時間おき」が一つの目安とされています。
ですが、この“2時間”という数字だけが独り歩きしていないでしょうか。
例えば――
- 向きを変えただけで圧が逃げていない
- シーツ上で引きずって摩擦を作っている
- 頭側挙上によってずり落ちが起きている
- クッションが形だけになっている
体の向きが変わっても、
圧のかかる場所が変わっていなければ意味がありません。
むしろ、摩擦や剪断力を繰り返すことで
組織損傷を助長してしまうことすらあるのです。
「2時間守っているから大丈夫」
その安心感こそが、
褥瘡を見逃す原因になります。

問題は“回数”ではなく“質”
体位変換の目的は何でしょうか。
向きを変えることではありません。
圧を分散し、組織へのダメージを減らすことです。
つまり、
- 圧がどこにかかっているか
- 摩擦やずれを作っていないか
- 体位変換後に皮膚を観察しているか
ここまでできて初めて、
“予防”になります。
回数はあくまで目安。
本当に問われるのは、技術の質です。
これはまさに、
「できているつもり介助」と同じ構造です。
やっている。
守っている。
間違っていないと思っている。
けれど、結果が出ていない。
褥瘡は、介助の“質”を映し出します。
ここを理解しない限り、
どれだけ回数を守っても、褥瘡は防げません。
実はこの構造は、褥瘡予防だけの話ではありません。
介助事故の多くも、
「できていない」ことより
「できていると思っている」ことから起きています。
体位変換で褥瘡ができる3つの原因
体位変換は本来、褥瘡を防ぐためのケアです。
しかしやり方を間違えると、
予防どころか“原因”を作ってしまうことがあります。
ポイントは3つ。
- 摩擦
- 剪断力(ずれ)
- 圧の残存
ここを理解せずに体位変換を続けると、
「やっているのに悪化する」状態に陥ります。
① 摩擦を起こしている
(引きずり・シーツ上でのズレ)
もっとも多いのが、引きずりです。
体位変換のとき、
- 脇を持ってずらす
- 足を引いて向きを変える
- シーツ上を滑らせる
こうした動きが起きていないでしょうか。
皮膚は一見、何も変わっていないように見えます。
ですがその下では、表皮と真皮の間に微細な損傷が起きています。
特に仙骨部や踵部は要注意です。
摩擦は目に見えにくい。
だからこそ繰り返されやすい。
体位変換のつもりが、
毎回“皮膚を削っている”状態になっていることもあるのです。
② 剪断力を作っている
(頭側挙上+ずり落ち)
次に問題になるのが 剪断力(せんだんりょく) です。
例えば、
- 頭側を30度〜45度挙上している
- 姿勢が崩れている
- 時間とともに体がずり落ちている
このとき何が起きているか。
皮膚はシーツに固定され、
骨は重力で下へ引かれる。

その間で組織が引き裂かれる力が働きます。
これが剪断力です。
外から見ると皮膚は無傷でも、
内部では血流が遮断され、壊死が進みます。
「ちゃんと横向きにした」
「クッションも入れた」
それでも悪化する場合、
この“ずり落ち”が隠れていることが非常に多いのです。
③ 圧を逃がせていない
(“向きを変えただけ”になっている)
体位変換の本質は、
圧を分散することです。
ですが実際の現場では、
- 仰臥位 → 側臥位
- 右 → 左
と、単純に向きを変えるだけで終わっていないでしょうか。
例えば、
- 大転子に体重が集中している
- 膝同士が当たっている
- 踵が浮いていない
- 仙骨部の圧が残っている
これでは、圧の“場所”が変わっただけです。
圧の“質”は変わっていない。
体位変換とは、
接触面積を増やし、局所圧を減らすこと。
向きを変えることではありません。
まとめると
体位変換で褥瘡ができる原因は、
- 摩擦を作る
- 剪断力を作る
- 圧を残す
この3つです。
回数を守っていても、
このいずれかが起きていれば、褥瘡は防げません。
正しい体位変換の本質は「圧を分散させること」
体位変換の目的は、
「向きを変えること」ではありません。
本質はただ一つ。
局所に集中している圧を分散させること。
ここを理解できているかどうかで、
褥瘡予防の質は大きく変わります。
体位変換は“向きを変える”ことではない
仰臥位から側臥位へ。
右向きから左向きへ。
確かに姿勢は変わります。
ですがそれだけでは不十分です。
もし、
- 大転子に体重が集中している
- 肩峰や腸骨に圧がかかっている
- 仙骨部が浮いていない
体位変換は「姿勢変更」ではなく、
圧の再分配です。
どこに体重が乗っているのか。
どこが接触しているのか。
ここまで考えて初めて、
“予防”になります。


接触面積を増やすという考え方
圧は、
圧 = 体重 ÷ 接触面積
という関係で考えられます。
つまり、
接触面積が広がれば、1点あたりの圧は下がる。
例えば30度側臥位。
ただ横にするのではなく、
- 背中から殿部にかけて面で支える
- 骨突出部に集中させない
- クッションで隙間を埋める
この「面で支える」発想が重要です。
マットレスとの組み合わせを考える
体位変換は、単体では機能しません。
マットレスとの組み合わせが前提です。
例えば、
- 高機能エアマット使用中なのに、強い側臥位を作っている
- 体圧分散マットを使っているのに、局所圧を作っている
- 逆に、薄いマットなのに2時間以上放置している
これでは効果が最大化されません。
マットレスは“土台”です。
体位変換は“調整”です。
両方がかみ合って初めて、
圧分散は成立します。
「体位変換だけ頑張る」
「マットレスだけに頼る」
どちらも不十分です。
背抜きを必ずする
そして、忘れてはいけないのが背抜きです。
体位変換後、
- シーツのしわ
- 体とマットレスの間のズレ
- 背部の緊張
これらが残っていると、
見えない圧や剪断力が生じます。
体位を整えた“つもり”でも、
実際には皮膚の下でダメージが続いていることがあります。
だからこそ、
必ず背抜きをする。
体位変換と背抜きは、セットです。
どちらか一方では不十分です。
本質は“圧を観察する視点”
正しい体位変換とは、
- 向きを変えることではなく
- 形を整えることでもなく
圧を観察し、圧を減らすこと。
この視点を持てるかどうかが、
“できているつもり”と“本当にできている”の分かれ目です。
次は、
現場でよくある「危険な体位変換」の具体例を見ていきます。
明日から見直す3つのチェックポイント
ここまで読んで、
「なるほど、気をつけないといけないな」
そう思っただけでは、現場は変わりません。
大切なのは、
明日から何を確認するか。
難しい技術は必要ありません。
まずはこの3つを、毎回チェックしてください。
① 引きずりが“残っていないか”
まず前提としてお伝えします。
上方移動や体位変換の場面では、
多少の滑りが生じること自体はあります。
問題なのは、
“滑ったまま終わっていること”です。
例えば、
- 上方移動で殿部がずれた
- 体位変換後に背部がよれている
- 仙骨部にテンションが残っている
この状態で終わっていないでしょうか。
引きずりそのものよりも重要なのは、
その後に背抜きをしているかどうかです。
ずれをリセットせずに放置すると、
皮膚と皮下組織に持続的なストレスがかかります。
これが、
“見えないダメージ”を作ります。
すでに褥瘡がある場合は別
すでに褥瘡があるご利用者様に対しては、
引きずりは基本的に避けるべきです。
この場合は、
- スライディングシート
- スライディンググローブ
- ビニールシート等の代用品
などを必ず使用します。
創部に剪断力を加えないことが最優先です。
「持ち上げる」は理想ではない
よく「持ち上げましょう」と言われますが、
これは介助者の腰を痛める原因になります。
無理に持ち上げるのではなく、
- 重心移動を使う
- てこの原理を使う
- 滑りやすい環境を整える
これが現実的かつ安全な方法です。
チェックすべき本当のポイント
大事なのは、
❌引きずったかどうか
ではなく
⭕️引きずりが“残っていないか”
体位変換や上方移動のあと、必ず背抜きをする。
② ずり落ちを“放置していないか”
頭部挙上は、現場では日常的に行います。
誤嚥予防、食事介助、呼吸状態の管理。
挙上そのものが悪いわけではありません。
問題は、
ずり落ちを前提にしていないことです。
頭側を上げれば、
重力で体は下方へ動こうとします。
その結果、
- 仙骨部に圧が集中する
- 皮膚はシーツに固定される
- 内部で剪断力が発生する
これが褥瘡の温床になります。
大切なのは、
- 挙上前に殿部の位置を確認しているか
- 足側を先に上げてストッパーを作れているか
- 定期的にポジションを修正しているか
ずり落ちは“起きるもの”です。
しかし、まずは起きないようにする予防が大切。
そして、起きないようにするのではなく、
起きた前提で整え直すことが重要です。
体位変換は一度やって終わりではありません。
時間経過を含めてケアです。
③ 圧が“減ったかどうか”を確認しているか
向きを変えた。
クッションも入れた。
これで終わっていないでしょうか。
本当に見るべきなのは、
圧が減ったかどうかです。
例えば側臥位。
- 大転子(お尻横の骨の出っ張り)に体重が集中していないか
- 膝同士が当たっていないか
- 外果(外くるぶし)が接触していないか
- 踵が浮いているか
触ってみる。
手を差し込んでみる。
皮膚を観察する。
そこまでやって初めて、
評価になります。
体位変換は作業ではなく、
圧をコントロールする行為です。
もし体位変換後に観察をしていないなら、
それは“変えただけ”になっている可能性があります。

まとめると
本当に見直すべきなのは、この3つです。
- 引きずりや滑りが“残っていないか”
- ずれは起きる前提で整え直しているか
- 圧が減ったかを確認しているか
体位変換は、
「やったかどうか」ではありません。
整え直したか。
確認したか。
ここがすべてです。
摩擦も、ずれも、圧も、
ゼロにすることはできません。
だからこそ、
完璧を目指すことよりも、
確認する習慣を持つこと。
この差が、
“やっている介助”と
“予防できている介助”の違いになります。
そしてここが、
“できているつもり”との分かれ目です。
まとめ|体位変換は“回数”ではなく“技術”
「2時間おきに体位変換しています。」
その一言で、安心していないでしょうか。
回数を守ることは大切です。
ですが、それだけでは褥瘡は防げません。
2時間おきに変えても、意味がないことがある。
引きずりが残っていれば、
ずり落ちを放置していれば、
圧が減っているか確認していなければ。
褥瘡は、
「やっていない」からできるのではありません。
“やっているつもり”で進行する。
ここが一番怖いところです。
回数を守っている。
クッションも入れている。
マットレスも使っている。
それでも悪化するのは、
本質を見ていないからです。
本当に見るべきなのは、
- 圧は減っているか
- 摩擦は残っていないか
- ずれは起きていないか
この3つです。
体位変換とは、
圧をコントロールする技術。
回数ではなく、
観察と調整の積み重ねです。
「ちゃんとやっている」から一歩進んで、
「確認できている」介助へ。
そこから初めて、
褥瘡は防げます。
そしてそれが、
本当に“できている”体位変換です。
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