「背抜き」とは?褥瘡予防の重要性と正しい方法

もくじ

はじめに

介護の現場では、ご利用者様が快適に過ごせるよう、さまざまな技術が活用されています。その中でも「背抜き」は、寝たきりの方やベッド上で過ごす時間が長い方の負担を軽減し、褥瘡(床ずれ)予防に重要な技術の一つです。

長時間同じ姿勢でいると、背中や腰に圧力がかかり、血流が滞ることで皮膚トラブルが発生しやすくなります。「背抜き」を適切に行うことで、こうしたトラブルを未然に防ぎ、ご利用者様がより快適に過ごせるようサポートできます。

しかし、「背抜き」の方法を誤ると、ご利用者様に不快感を与えるだけでなく、介護者自身の腰や腕にも負担がかかり、身体を痛める原因になることもあります。そのため、正しい手順とコツを理解し、無理なく安全に行うことが大切です。

本記事では、「背抜き」の意味や目的、具体的な手順、注意点について詳しく解説します。これから介護の技術を学ぶ方や、改めて基本を確認したい方は、またベテランの方でも復習になる内容になっていますので、ぜひ参考にしてください。

背抜きとは?

「背抜き」とは、仰臥位(あおむけ)や側臥位(横向き)の状態で、ご利用者様の背中とシーツの間の圧を抜くための介護技術です。

長時間同じ姿勢のままでいると、背中やお尻、かかとなどに圧がかかり続け、褥瘡(床ずれ)ができるリスクが高まります。特に、背中にシワが寄った状態や、汗や湿気がこもったままだと皮膚トラブルが起こりやすくなります。「背抜き」は、そうした皮膚トラブルを防ぎ、ご利用者様が快適に過ごせるようにするためのケアです。

背抜きの目的とメリット

① 褥瘡(床ずれ)の予防

  • 背抜きの目的として、何よりも重要になるのが褥瘡予防です。背中やお尻にかかる圧を分散し、血流を促すことで、褥瘡のリスクを軽減します。

② 皮膚トラブルの予防

  • シーツのシワや湿気が原因で起こる皮膚の擦れや蒸れを防ぎ、肌の状態を清潔に保つことができます。またそれも結果的に褥瘡予防につながります。

③ ご利用者様の快適性向上

  • 体位交換や介護ベッドでギャッジアップをした後など、ご利用者様の背中とシーツの間に圧がかかりますこの圧がかかり続けることで、褥瘡のリスクが高まります。背抜きを行うことで褥瘡リスクを軽減させ、また違和感や不快感を軽減させることで、安眠やリラックスを促します。

④ 介護者の負担軽減

  • 適切な手順で行うことで、介護者の腰や腕の負担を軽減し、身体を痛めにくくなります。
  • 褥瘡などが発生してしまうと、褥瘡の処置が必要になります。またいつも以上にポジショニングなどに気をつけないといけなくなり、介護者の負担がさらに増えてしまいます。そのためにも褥瘡を予防することは大切なことです。

背抜きのタイミングはいつ?

「背抜き」は、定期的に行うことが重要ですが、特に以下のタイミングで行うと効果的です。

  • 体位変換(2時間ごとの体位交換)時
  • オムツ交換や清拭(身体を拭く)時
  • 着替えた後
  • 食事前や寝る前
  • 背中に違和感を訴えた時
  • 介護ベッドで背上げや脚上げ機能を使った後
    →正しい背上げ機能の手順は別の記事で解説していますので、併せて読んでみてください。

▶︎特殊寝台(介護用ベッド)の正しい使い方と選び方
https://kaigoskills.com/nursing-bed-usage/

ご利用者様の皮膚の状態や生活リズムに応じて、適宜対応しましょう。

背抜きの基本手順(仰臥位で寝ている場合)

準備するもの

  • 清潔なシーツやタオル(必要に応じて交換)
  • 適切な高さの介護用ベッド(腰を痛めないように調整)

背抜きの手順(仰臥位で寝ている場合)

① ご利用者様に声をかける

突然動かされると驚いてしまうため、「今から背中を楽にしますね」 など、安心できるように声をかけましょう。

② ご利用者様の腕を胸の前で組んでもらう

腕を胸の前で組んでもらうことで、腕が下敷きにならず、腕や肩の負担が軽減でき、スムーズに動かしやすくなります。

③ 身体を少し横に向ける

介護者がご利用者様の肩と腰に手を添え、ゆっくりと側臥位(横向き)にする。

  • このとき、できるだけ優しく、ゆっくりと行うことがポイント。

④ 背中とシーツの間に手を入れる

  • 一度衣服を背中から離すように空気を通してあげ、湿気を取り除く。
  • 背中の下に手を滑り込ませる。
  • 優しく手を動かしながら、シーツや衣服のシワを伸ばし、湿気や圧を取り除く。
  • 必要に応じて、乾いたタオルを挟むと、汗を吸収しやすくなる。
  • 汗などで衣服が濡れている場合は着替えましょう

※シーツのシワを取る時は、引っ張りすぎないよう注意して下さい。引っ張りすぎると、元に戻ろうと逆に圧力が生じてしまうので、程よくシワを取ることが理想的です。

⑤ ゆっくりと元の姿勢に戻す

  • 身体を無理なく仰向けに戻す。
  • 足を左右片方ずつ、軽く持ち上げて戻すと踵などの除圧になる。
  • 「楽になりましたか?」など、状態を確認しながら行うと安心感が増す。

背抜きの基本手順(背上げ機能を使用した後の場合)

準備するもの

  • ベッドの高さを介護しやすい位置に調整する
  • 新しい衣類や清潔なタオル(必要に応じて着替える)

背上げをした後の基本的な背抜き手順

背上げ機能を使用すると、体が下に落ちる力とシーツなどの寝具が残ろうとする力とで摩擦が生じ、強い圧力が生じてしまいます。背抜きをせずに背上げをしたままだと、その圧力が原因で褥瘡の発生リスクが高まります。また、背上げを元に戻すときも同様に圧力が生じるため、背抜きによる序圧が大切で、以下の手順が重要になります。

① ご利用者様に声をかける

突然動かされると驚いてしまうため、背上げを行う前と、背抜きをする前に「今から背中を起こしますね」 「今から背中を楽にしますね」 など、安心できるように声をかけましょう。

② 背上げ機能をゆっくり作動させる

  • 背上げを行う際は必ず脚上げから行う(背中のずれを抑えられる)
  • 一気に上げるのではなく、ゆっくり調整する
  • ご利用者様の様子、場合によっては血圧を確認しながら操作する
  • 苦しそうな表情をしていないかチェックする

③ 片手を肩甲骨の下に入れ、もう片方でシーツや衣服を調整する

  • 片手を肩甲骨の下に入れて、優しく背中を少し持ち上げる
  • もう片方の手でシーツや衣類のシワを伸ばす
  • このタイミングで衣服が汗などで濡れている場合は着替える
  • 必要に応じて、ご利用者様の腰やお尻のあたりも整える

※シーツのシワを取る時は、引っ張りすぎないよう注意して下さい。引っ張りすぎると、元に戻ろうと逆に圧力が生じてしまうので、程よくシワを取ることが理想的です。

④ ゆっくりと利用者様の体を戻す

  • 除圧、シワや湿気が取れたら、ご利用者様の状態を確認しながら、背もたれにもたれていただく
  • 足を左右片方ずつ、軽く持ち上げて戻すと踵などの除圧になる。
  • ご利用者様がリラックスできる角度を保つ
  • 苦痛や違和感がないか、再度声をかけて確認する

体格差がある場合

ご利用者様がふくよかで、介助者が小柄で体格差があり、背上げしている状態で背中を持ち上げることが難しい場合は、手を使ってマットレスを押すことで、体と布団の間にスペースを生むことができます。これを何箇所かに分けて行うと圧力が軽減され、背抜きと同じ効果が得られます。

マットレスを押し込む理想の場所

  • 左右の肩甲骨
  • 仙骨部(お尻)
  • 太ももの裏
  • 踵は軽く持ち上げる

体重がかかっている部分は圧力がかかりやすいです。最低限、上記部分は除圧しましょう。

背抜きのポイント

  • 急激な動作を避け、ゆっくりと行う
  • ご利用者様の負担を減らしながら、介護者の腰への負担も軽減する
  • 圧を取り除き、シワをしっかり伸ばすことで、褥瘡(床ずれ)のリスクを減らす
  • 適切な角度に調整し、ご利用者様の快適さを優先する

背抜きを行う際の注意点

① 無理に力を入れない

  • 介護者の腕や腰に負担がかからないよう、正しい姿勢で行い、できるだけ力を抜いて動かす。
  • ボディメカニクスを活用する。

② 急な動作をしない

  • 急に動かすとご利用者様が驚いたり、不快感を抱く原因になるため、ゆっくり丁寧に行う。
  • 普段から血圧の変動が大きい方は十分に気をつける。

③ シーツのシワや湿気をしっかり取る

  • シーツのシワや湿気は、褥瘡や皮膚炎の原因になるため、背抜きの際にきちんと整える。
  • シーツや衣服は引っ張りすぎない。

④ ご利用者様の体調や状態に合わせる

  • 痛みがある場合や、麻痺がある場合は特に注意し、無理に動かさない。

介護者の負担を軽減するコツ

① ベッドの高さを調整する

  • 介護者の腰の高さに合わせてベッドを調整することで、腰痛予防につながる。

② 介助者2人で行う

  • 状況に応じて2人で協力して行うと、身体の負担を減らせる。

③ 介護技術を学ぶ

  • 施設や研修で正しい技術を学ぶことで、効率的にケアできるようになる。

本ブログもそうですが、YouTubeでも介護技術を発信しています。そちらも参考にして下さい。

▶︎YouTube「やしのきチャンネル」で介護技術を学ぶ
https://www.youtube.com/@yashinoki-kaigo

まとめ

「背抜き」は、ご利用者様の快適性を向上させるだけでなく、褥瘡予防や皮膚トラブルの防止にも重要な介護技術です。適切な手順で行えば、ご利用者様の負担を軽減でき、介護者自身の身体への負担も抑えられます。

日々のケアの中で、こまめに「背抜き」を行い、ご利用者様が快適に過ごせる環境を整えましょう。また、無理のない範囲で実施し、必要に応じて介護者同士で協力しながら行うことも大切です。

介護は、ご利用者様と介護者の双方が無理なく続けられることが何より大切です。適切な方法を身につけ、安全で快適な介護を目指しましょう!

本記事の内容はYouTubeでも発信しています。併せて視聴いただき、理解を深めて見て下さい。

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必見‼︎【褥瘡(床ずれ)予防】背抜きテクニック

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この記事を書いた人

訪問看護ステーション2事業所、福祉用具貸与事業所1事業所を運営している理学療法士です。
YouTube「やしのきチャンネル」では介護技術を発信し、現在チャンネル登録者数は15万人を超えています。また、「からだをいたわる介護術」を出版し、介護現場で役立つ知識を広めています。

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