介助を行う上で本当に大切なこと|自立支援という考え方

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もくじ

はじめに

介護の現場で、こんな経験はないでしょうか。

「一生懸命介助しているのに、以前より動けなくなってきた」
「転倒しないように気をつけているのに、ADLが少しずつ下がっている」

私たちは日々、ご利用者様のためを思い、真剣に介助に向き合っています。
時間に追われながらも、安全を最優先に考え、優しさを持って関わっている。
それでも、なぜか以前できていたことができなくなっていく——
そんな現実に、戸惑いや無力感を覚えたことがある方も多いのではないでしょうか。

実はこの現象、介助者の努力不足や技術不足が原因とは限りません。
むしろ、「良かれと思って行っている介助」そのものが、ご利用者様の力を少しずつ奪ってしまっているケースもあります。

ここに関係してくるのが、「自立支援」という考え方です。

自立支援とは、無理に自分でやらせることでも、介助を減らすことでもありません。
ご利用者様が本来持っている力を見極め、その力を活かす関わり方を選ぶこと。
そして、必要以上に手を出さない勇気を持つことです。

この記事では、介助を行う上で本当に大切なこととして、
なぜ「良い介助」が結果的にADL低下につながってしまうのか、
そして、自立支援の視点を持つことで介助がどのように変わるのかを、現場目線でお伝えしていきます。

毎日の介助を少しだけ見直すきっかけになれば幸いです。

自立支援とは「何もしないこと」ではない

「自立支援」と聞くと、

  • できるだけ介助をしないこと
  • 自分でやらせること

と受け取られてしまうことがあります。

しかし、自立支援とは決して「何もしない介助」ではありません。
介護が必要なご利用者様にとって、介助そのものが不要になることはほとんどありません。
大切なのは、どこを支え、どこを任せるかを見極めることです。

自立=全部自分でやる、ではない

自立という言葉は、「すべてを一人でこなすこと」と誤解されがちです。
ですが、介護の現場における自立とは、できる部分を自分の力で行える状態を指します。

たとえば、

  • 立ち上がりのきっかけは自分で作れる
  • 更衣の一部は自分でできる
  • 体位変換の際に、わずかでも身体を動かせる

こうした「一部の動き」も、立派な自立です。

介助が必要な場面があるのは当たり前のことです。
問題になるのは、本来ご利用者様ができる動きまで、すべて介助してしまうことです。

支える介助は、ご利用者様の力を引き出します。
一方で、先回りしてすべてを行う介助は、その力を使う機会を奪ってしまいます。
この「支えること」と「奪うこと」の違いを意識することが、自立支援の第一歩です。

自立支援が誤解されやすい理由

自立支援が現場で浸透しにくい理由の一つに、「誤解されやすさ」があります。

よくあるのが、

「それは放置ではないのか」
「危ないから、やってあげた方がいいのではないか」

といった声です。

確かに、見守ることには不安が伴います。
転倒や失敗のリスクを考えると、つい手を出したくなるのは自然な感情です。
しかし、自立支援は放置とはまったく違います。
観察し、準備し、必要な瞬間に支える
これこそが自立支援の介助です。

もう一つの誤解は、「効率が悪い」という考え方です。
自立を促す介助は、最初は時間がかかることもあります。
ですが、長い目で見れば、ご利用者様の動きが安定し、
結果的に介助量が減り、介助者の負担も軽くなっていきます。

短期的な効率を優先するか、
ご利用者様の生活を支える視点を持つか。
その選択の積み重ねが、介助の質を大きく左右します。

介助が「自立を奪ってしまう」瞬間

自立支援を意識していないわけではない。
むしろ「良い介助をしよう」「安全に過ごしてもらおう」と思っている。
それでも、知らないうちにご利用者様の自立を奪ってしまう瞬間があります。

その多くは、悪意ではなく、現場の事情や優しさから生まれています。

早く終わらせるために、先に手を出してしまう

介護の現場は、常に時間に追われています。
次のケア、記録、他のご利用者様への対応——
限られた時間の中で動いていると、「待つ」ことが難しくなります。

本当はご利用者様が少し時間をかければできる動作でも、

「ここは自分がやった方が早い」
「待っている余裕がない」

そう判断して、つい先に手を出してしまう。

その判断に、悪気はありません。
むしろ現場を回すための、精一杯の選択でもあります。

しかし、こうした介助が積み重なると、
ご利用者様は「やらなくても誰かがやってくれる」と感じるようになり、
次第に自分で動こうとする機会が減っていきます。

結果として、

  • できていた動作が減る
  • 動き出しが遅くなる
  • 介助量が増える

という悪循環に陥ってしまうのです。

「危ないから」と全部やってしまう介助

もう一つ、自立を奪いやすいのが
「危ないから」という理由で、すべてを介助してしまうケースです。

転倒は、絶対に避けなければならない事故です。
だからこそ、

「立ち上がりは全部支える」
「歩くときは常に身体を抱える」

といった対応になりやすくなります。

しかし、ここには転倒予防と過介助の境界線があります。

安全を意識するあまり、ご利用者様の動きを完全に制限してしまうと、
筋力やバランス能力を使う機会が失われていきます。
すると、ますます不安定になり、
「やっぱり危ないから全部やろう」という判断につながってしまいます。

これは、安全を守ろうとした結果、
かえって自立を遠ざけてしまう典型的なパターンです。

安全の名のもとに起こる過介助は、
ご利用者様の身体だけでなく、
「自分は一人ではできない」という意識まで作ってしまうことがあります。

大切なのは、
危険をゼロにすることではなく、
リスクを管理しながら“できる動き”を残すこと
です。

自立支援の第一歩は「できることを見つける」こと

自立支援というと、

「もっと頑張ってもらう」
「できないことをできるようにする」

と考えてしまいがちです。

しかし、自立支援の出発点はそこではありません。
まず必要なのは、今できていることに気づくことです。

動作を分解して考える

私たちはつい、

「立てるか、立てないか」
「歩けるか、歩けないか」

と、動作を一つの塊として見てしまいます。

けれど、実際の動作はもっと細かく分かれています。

たとえば「立つ」という動作一つでも、

  • 足を引く
  • 体を前に倒す
  • お尻を浮かせる
  • 体重を足に乗せる

といった複数の要素が組み合わさっています。

「歩く」「食べる」といった動作も同じです。
全部ができなくても、
その中の一部ができていることは少なくありません。

  • 手は動かせる
  • 体を少し前に倒せる
  • 口までスプーンを運べる

こうした小さな動きは、介助の中で見逃されがちです。
しかし、その一つひとつが、自立支援につながる大切な力です。

昨日できていたことに目を向ける

ご利用者様の状態は、毎日同じではありません。
体調や気分、睡眠の質によって、できることは変わります。

だからこそ、

「今日はできない」
「前より動けなくなった」

と、その日の状態だけで判断してしまうのは危険です。

昨日できていたこと、
数日前に見せてくれた動き、
ふとした瞬間に出た動作。

そうしたちょっとした変化に目を向けることが大切です。

「今日は動きが重そうだけど、足はしっかり出ている」
「時間をかければ、ここまでは自分でできている」

こうした観察があると、
介助の量や関わり方をその日の状態に合わせて調整できます。

自立支援とは、
できない部分を補うことではなく、
できる部分を見逃さずに活かすこと

その積み重ねが、
ご利用者様の動きを守り、
介助者自身の負担を軽くしていきます。

自立支援につながる介助の考え方

自立支援を特別な技術だと感じてしまうと、

「自分には難しい」
「余裕がないとできない」

と思ってしまいがちです。

けれど実際は、
介助の“やり方”を大きく変える必要はありません。
ほんの少し、関わり方の視点を変えるだけで、
介助は自立支援につながっていきます。

「やってあげる」から「一緒にやる」へ

介護の現場では、
「やってあげる」介助が当たり前になりやすいものです。
その方が早く、安全に終わる場面も確かにあります。

しかし、自立支援の視点では、
「一緒にやる」という関わり方が大切になります。

たとえば、

  • 立ち上がりの動作を“引き上げる”のではなく、動き出しを待つ
  • 更衣をすべて行うのではなく、できる部分を任せる

このとき重要になるのが、声かけとタイミングです。

「今、体を前に倒してみましょう」
「せーの、ではなく、動き出したところで支えますね」

ご利用者様の動きに合わせて介助を入れることで、
「やらされている介助」から
「自分で動いている介助」へと変わっていきます。

手を出す前にできる3つのこと

介助の場面で、つい手が出そうになったとき。
その前に、ぜひ思い出してほしいことがあります。

それが、待つ・見守る・促すの3つです。

待つ

ご利用者様が動き出すまで、ほんの数秒待つ。
この「待つ時間」があるだけで、
ご利用者様は自分で動こうとするきっかけをつかめます。

見守る

何もせずに放置するのではなく、
安全を確認しながら、動きを観察する。
必要な瞬間にすぐ支えられる距離感を保つことが大切です。

促す

言葉やジェスチャーで、動きを思い出してもらう。
指示ではなく、ヒントを出すイメージです。
「ここに手を置いてみましょうか」
「足を少し前に出せそうですね」


この3つを意識するだけで、
介助は「奪うもの」から「引き出すもの」に変わっていきます。

自立支援はご利用者様の尊厳を守る介助

介助の目的は、生活を成り立たせることだけではありません。
ご利用者様が「その人らしく」過ごし続けること。
その土台にあるのが、尊厳を守る介助です。

自立支援は、身体機能の維持だけでなく、
ご利用者様の心を支える関わり方でもあります。

できなくなることより、奪われることのつらさ

年齢や病気の影響で、
できないことが増えていくのは、誰にとってもつらいことです。
しかしそれ以上に苦しいのが、
本当はできることまで奪われてしまうことです。

誰かに先回りされ、
「危ないから」「時間がないから」と言われ続けると、
次第に自分でやろうとする気持ちは薄れていきます。

そこには、

  • 自分でやりたいというプライド
  • 家族や周囲の役に立ちたいという役割意識

が、少しずつ削られていきます。

自立支援とは、
「できない現実」を否定することではありません。
できる部分を尊重し続けること
それが、ご利用者様の尊厳を守ることにつながります。

小さな成功体験の積み重ね

自立支援の効果は、すぐに大きな変化として現れるとは限りません。
ですが、確実に積み重なっていくものがあります。

それが、小さな成功体験です。

「今日は自分で立ち上がれた」
「昨日よりも少し楽に動けた」
「声をかけてもらって、自分でできた」

こうした経験は、
ご利用者様に自信を取り戻させます。

自信が生まれると、
「次もやってみよう」という意欲につながります。
この意欲こそが、
生活を続けていくための大きな原動力です。

介助の中で生まれる一つひとつの成功体験は、
身体だけでなく、心を動かしています。

自立支援とは、その積み重ねを大切にする介助なのです。

現場で自立支援が難しくなる理由

自立支援の大切さは、多くの介助者が頭では理解しています。
それでも現場では、「分かってはいるけど、できない」と感じる場面が少なくありません。
そこには、介助者個人の意識だけでは解決できない、現場特有の理由があります。

忙しさ・人手不足

現場で最も大きな壁になるのが、時間と人手の問題です。

  • 次のケアが詰まっている
  • コールが同時に鳴る
  • 記録や報告に追われている

こうした状況では、「待つ」「見守る」よりも、「やってしまった方が早い」と感じてしまうのは自然なことです。

しかし、短期的には早く終わったとしても、
自立の機会を奪い続けることで、結果的にご利用者様の動きが減り、
将来的にはより多くの介助が必要な状をつくってしまうこともあります。

忙しい現場だからこそ、
「すべてを自立支援に切り替える」のではなく、
“ここだけは待つ”“ここは一緒にやる”とポイントを絞ることが現実的です。

家族・周囲の理解

もう一つの大きな要因が、家族や周囲の理解です。

「危ないからやってあげてください」
「転んだら困るので手を離さないで」

こうした言葉を受けると、介助者は安全を最優先せざるを得ません。
自立支援が「手を抜いている」「放置している」と誤解されることもあります。

だからこそ重要なのは、
自立支援=危険なことをさせることではない
という共通認識を持つことです。

  • なぜ見守るのか
  • なぜ少し待つのか
  • どこまでが安全なのか

これを家族やチームで共有することで、
介助者が安心して自立支援に取り組める環境が整っていきます。

それでも自立支援を続ける意味

自立支援は、すぐに成果が見えるものではありません。
それでも続ける意味は、現場とご利用者様の双方に確実にあります。

結果的に介助は楽になる

一見遠回りに見える自立支援ですが、
長い目で見ると、介助者の身体的負担を確実に減らします。

ご利用者様が

  • 自分で立ち上がろうとする
  • 体を前に倒せる
  • 足を一歩出せる

こうした動きが増えるだけで、
移乗や歩行介助での「持ち上げる力」は大きく変わります。

介助者が無理に支え続ける介助より、
ご利用者様の動きを引き出す介助の方が、
腰や肩への負担は圧倒的に少なくなります。

長い目で見たときの変化

自立支援を続けていると、
数週間、数か月単位で、少しずつ変化が現れます。

  • ADLが維持、あるいは改善する
  • 動作への不安が減る
  • 表情が明るくなる

特に大きいのは、「やろうとする意欲」の変化です。
できる・できない以上に、
「自分でやってみよう」と思えるかどうかが、生活の質を左右します。

自立支援は、機能訓練だけの話ではありません。
ご利用者様が「自分の生活を生きている」と感じられること。
それこそが、生活の質(QOL)を支える介助なのです。

まとめ

自立支援は「特別な介助」ではない

自立支援というと、
「意識の高い介助」「余裕がある現場でやるもの」
そんな印象を持たれることがあります。

しかし実際には、自立支援は特別なことではありません。
新しい道具や高度な技術が必要なわけでもなく、
日々の関わり方の積み重ねそのものです。

  • 少し待つこと
  • 声のかけ方を変えること
  • できる部分を奪わないこと

それだけでも、介助は自立支援に変わっていきます。

技術の前に考え方

介護技術はもちろん大切です。
ですが、その前に問われるのは「どんな関わり方をしたいのか」という考え方です。

  • 早く終わらせる介助か
  • その人の力を引き出す介助か

同じ動作介助でも、考え方が違えば、結果は大きく変わります。
自立支援は、技術の問題ではなく、介助者の視点の問題とも言えます。

今日から変えられる関わり方

自立支援は、明日から大きく何かを変える必要はありません。

  • すぐ手を出す前に、3秒待ってみる
  • 「できませんか?」ではなく「一緒にやってみましょう」と声をかける
  • できたことを、きちんと言葉にして伝える

こうした小さな関わりの変化が、
ご利用者様の動きや表情、意欲につながっていきます。

介助は「支配」ではなく「支援」

介助は、やろうと思えば、すべてを介助者のペースで進めることができます。
ですがそれは、「楽に見える介助」であって、
ご利用者様の生活を豊かにする介助とは限りません。

介助とは、指示することでも、管理することでもなく、
その人がその人らしく生活するための支援です。

ご利用者様の力を信じ、尊厳を守り、可能性を残す。
自立支援の介助は、その姿勢そのものだと言えるでしょう。

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この記事を書いた人

訪問看護ステーション2事業所、福祉用具貸与事業所1事業所を運営している理学療法士です。
YouTube「やしのきチャンネル」では介護技術を発信し、現在チャンネル登録者数は15万人を超えています。また、「からだをいたわる介護術」を出版し、介護現場で役立つ知識を広めています。

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