はじめに
在宅介護をする上で、「トイレの問題」は避けて通れない大きな課題の一つです。特に、歩行が不安定なご利用者様や、夜間のトイレ移動が難しい方にとっては、ポータブルトイレの導入が大きな助けとなります。
この記事では、現場経験を持つリハビリ専門職の視点から、ポータブルトイレの種類や特徴、選び方、実際の設置・使用方法、さらには介助時の注意点まで、トイレ介助に関わる知識を網羅的に解説します。
「どれを選べばいいか分からない」「ご利用者様が嫌がって使ってくれない」などのお悩みを持つ介助者の皆様にとって、きっと役立つ内容です。ぜひ最後までお読みください。
ポータブルトイレとは?〜基本を知ろう〜
ポータブルトイレとは、ベッドのそばや寝室など、移動が困難な方の近くに設置して使える移動式の簡易トイレです。水洗トイレまで行くのが困難な場合に、ご自宅でも排泄をスムーズに行えるように設計されています。
主な用途
- 夜間のトイレ移動の負担を軽減
- トイレまでの移動が不安定な方の転倒防止
- ベッド上での排泄による羞恥心・不快感の軽減
- 排泄自立の一歩としてのステップアップ
誰に向いている?
- 歩行が不安定な方
- トイレまでの距離が遠い・段差がある家に住んでいる方
- 体力や筋力が低下している方
- 膝や腰の痛みで頻回の移動が難しい方
- 夜間トイレで目が覚めても、間に合わないことが多い方 など
メリットと注意点
メリット
- トイレまでの移動距離を短縮できる
- 失禁リスクを減らせる
- 排泄の自立支援につながる
- 介助者の腰痛予防になる
注意点
- 匂いや衛生管理に配慮が必要
- 定期的な清掃が不可欠
- 設置場所のスペース確保が必要
ポータブルトイレは便利な反面、使用後の処理や衛生面での注意が必要になります。

種類別ポータブルトイレの特徴
タイプ | 特徴 | 向いている方 |
---|---|---|
樹脂製タイプ | 軽量・安価・掃除しやすい | 初めて使う方、短期間利用 |
木製タイプ | 家具調でおしゃれ、安定感あり | リビングや来客がある部屋に設置したい方 |
脱臭機能付き | におい対策がしっかり | 長時間使う方、臭いに敏感な方 |
キャスター付き | 移動が簡単、掃除もしやすい | 省スペースで使いたい方、移動させたい方 |
水洗式タイプ | 臭いが少なく衛生的 | 長期使用・介護度が高い方 |
ラップ式(自動ラップ処理) | 使用後を自動密封・臭い対策◎ | 処理が難しい方、介助者の負担軽減重視 |
選び方のポイント
選ぶ際は以下のポイントをチェックしておくと安心です。
- ご利用者様の身体状況(起き上がり・立ち上がりのしやすさ)
- 設置場所の広さ・床の素材
- 使用頻度(毎日?夜間だけ?)
- 処理や掃除のしやすさ
- 脱臭・防臭機能の有無
- 高さ調整やアームレストの有無
- デザイン性(リビングなどに設置する場合)
ポータブルトイレの選び方
選ぶ際には、見た目や価格だけでなく、ご利用者様の身体状況・生活環境・介助力をふまえることが重要です。
(1)座面の高さ
座面が低すぎると立ち上がりにくく、筋力の負担や介助の負担が増えます。
目安は太ももが床と水平か、やや斜め下になる程度(座面高40cm前後)。
※高さ調整ができる製品が理想です。
(2)ひじ掛けの有無・可動性
- 立ち座り時に手をつくことで体を安定させやすくなります。
- 介助時には片側のひじ掛けを跳ね上げられるタイプが便利。
(3)消臭・防臭機能
長時間使用する場合、臭いの管理は非常に重要。
防臭蓋や吸臭剤、バイオ消臭機能付きのタイプを選ぶと衛生面でも安心です。
(4)掃除のしやすさ
- バケツの形状がシンプルで洗いやすいか
- 凹凸が少なく、汚れがたまりにくいか
介助者の負担軽減につながる重要ポイントです。
設置場所と設置時の注意点
ポータブルトイレの設置は、「安全・プライバシー・臭い対策」がキーワードです。
✅ ベッドからの動線を最短に
- 夜間の利用が多いため、ベッドのすぐ横が基本です。
- マットやカーペットを敷いておくと滑り防止になります。
✅ カーテンやパーテーションで目隠しを
ご利用者様の羞恥心を軽減し、落ち着いて排泄してもらうために、カーテンや簡易のついたてで目隠しをしましょう。
✅ 消臭対策を徹底
- 窓の換気 or 空気清浄機
- 吸臭マットや処理袋の活用
- 使用後はできるだけ早めに処理する
- 消臭対策機能のついたポータブルトイレを選択する
使用時・介助時の注意点
ご利用者様に安心感を与える声かけを
ポータブルトイレを嫌がる方も多いです。「恥ずかしい」「ニオイが気になる」といった不安には、丁寧な声かけと配慮が効果的です。
例:「ここでできたら安全ですよ」「ニオイは〇〇で対策できているから気にしなく大丈夫ですよ」
あるいは、状況によっては「夜だけ、ここでしてくれたら助かる」ってお願いすることも効果です。
立ち上がりや移乗時はボディメカニクスを意識
介助者が無理に抱え上げるのではなく、重心移動を促すような立ち上がり介助を心がけましょう。
→詳しくは「立ち上がりから学ぶ【ボディメカニクス】移乗が楽に!」記事も参照に
https://kaigoskills.com/body-mechanics/
【比較表】人気ポータブルトイレおすすめ5選
商品名 | メーカー | 主な特徴 | 臭い対策 | おすすめ対象者 |
---|---|---|---|---|
アロン化成 安寿 家具調トイレ コンパクト 標準便座 | アロン化成 | シンプル構造で掃除しやすい。省スペース設計。 | 消臭剤対応 | 基本機能を重視する方 |
リッチェル 木製きらく 軽〜いトイレ やわらか便座 | リッチェル | 軽量&ソフト便座で座り心地良好。移動も簡単。 | 消臭ポット設置可 | 初めて導入する方・女性に人気 |
パナソニックエイジフリー 座楽 コンパクト | パナソニック | 安定性・使いやすさ◎。清潔設計&手すり付き。 | 抗菌・防汚加工 | 介助しやすい設計を求める方 |
ウチヱ さわやかチェアPT 肘掛け跳ね上げ | ウチヱ | 高さ・幅調整可能、肘掛け跳ね上げで移乗しやすい | 蓋付きバケツで臭い軽減 | 自立・移乗しやすい工夫を重視する方 |
ラップポン・ブリオ(S) | 日本セイフティー | 排泄物を自動ラップで密封処理、においゼロ。 | 密封式で臭いなし | 災害対策も兼ねて使いたい方 |
アロン化成 安寿 家具調トイレ コンパクト 標準便座
「アロン化成 安寿 家具調トイレ コンパクト 標準便座」は、在宅介護に適したコンパクトサイズのポータブルトイレです。名前の通り、木製家具のようなデザインで、居室にも自然になじむ外観が特徴です。
主な特長:
- 省スペース設計:全体がコンパクトなので、ベッド横など限られたスペースにも設置しやすい。
- 家具調デザイン:木目調の落ち着いた外観で、見た目の抵抗感が少なく、生活空間に溶け込みます。
- 使いやすい標準便座:安定した座り心地で、ご利用者様の座位保持にも配慮されています。
- 掃除がしやすい:便座周りやバケツが取り外しやすく、清潔を保ちやすい構造。
こんな方におすすめ:
- お部屋のスペースが限られている方
- インテリアになじむデザインを重視したい方
- 初めてポータブルトイレを導入するご家庭
リッチェル(Richell) 木製きらく 軽~いトイレ やわらか便座
「リッチェル 木製きらく 軽~いトイレ やわらか便座」は、木製の家具調デザインと軽量構造を両立させた、使い勝手の良いポータブルトイレです。特に、ご利用者様の快適性と安全性に配慮された設計が特徴です。
主な特長:
- 軽量で移動が簡単:名前の通り軽く作られており、掃除や配置換えが楽に行えます。
- やわらか便座で座り心地◎:長時間座ってもお尻が痛くなりにくい、クッション性のある便座。
- お手入れしやすい:バケツの出し入れや便座の掃除がしやすい構造で、衛生的に使えます。
- 落ち着いた木製デザイン:和洋どちらの居室にも合う、ナチュラルな木目調の外観。
こんな方におすすめ:
- 軽くて扱いやすいトイレを探しているご家庭
- ご利用者様の皮膚トラブル(お尻の痛み・褥瘡など)を予防したい方
- お部屋のインテリアになじむ製品を重視したい方
パナソニックエイジフリー 家具調トイレ<座楽>コンパクト
「座楽(ざらく)コンパクト」は、パナソニックの介護ブランド「エイジフリー」が開発した、機能性と快適性を兼ね備えた家具調ポータブルトイレです。コンパクトながらも使いやすさに配慮された設計が特徴です。
主な特長:
- 省スペース設計:設置面積が小さく、狭い部屋やベッドサイドにもすっきり収まります。
- しっかりとした座り心地:適度な高さと奥行きで、安定して座れる設計。
- お手入れしやすい便座とバケツ:掃除がしやすい構造で、衛生管理が簡単。
- インテリアになじむ家具調デザイン:落ち着いた木目調で、生活空間に自然に溶け込みます。
- 防臭対策も安心:脱臭効果のある仕様やオプションもあり、ニオイが気になる方にも対応。
こんな方におすすめ:
- 部屋が狭くて一般的なポータブルトイレは置けないという方
- 安心して座れるしっかりした作りを求めている方
- デザイン性と機能性のバランスを重視したい方
ウチヱ さわやかチェアPT 肘掛け跳ね上げ
「ウチヱ(ウチエ)」が手がける「さわやかチェアPT 肘掛け跳ね上げ」は、快適性と使いやすさを重視したポータブルトイレです。特に「肘掛けの跳ね上げ機能」によって、ご利用者様の移乗動作がスムーズに行えるのが大きな特長です。
主な特長:
- 肘掛け跳ね上げ機能:ベッドや車椅子からの横移乗がしやすく、介助のしやすさも向上。
- 安定感のある設計:しっかりとしたフレーム構造で、座位の安定性が高く安心して使用できます。
- キャスター付きで移動も楽:ロック機能付きのキャスターにより、使いたい場所への移動や掃除の際も便利。
- プラスチック製でお手入れ簡単:水洗いしやすく、清潔を保ちやすい設計。
- 背もたれ付きで座りやすい:長時間座っても疲れにくく、安心感のある背もたれ付き。
こんな方におすすめ:
- ベッドや車椅子からの移乗が難しくなってきた方
- 介助時の負担を減らしたい介助者
- 衛生的で扱いやすいトイレを探している方
日本セイフティー ラップポン・ブリオ(S)
「日本セイフティー」が開発した電動簡易トイレで、使用後の処理を自動でラップ(密封)してくれる、清潔・衛生的な次世代ポータブルトイレです。においや衛生面が気になる方に特に人気があります。
主な特長:
- 排泄物を自動ラップで個別密封
使用ごとに排泄物を熱圧着して密封。においが漏れず、感染症対策としても有効です。 - 後処理が簡単で清潔
袋をまとめてゴミとして捨てるだけ。バケツの洗浄が不要なので、介助者の負担が大幅に軽減されます。 - 電動式で操作も簡単
本体前面のボタンを押すだけで密封処理が完了。機械が苦手な方にも扱いやすい仕様です。 - コンパクトで設置しやすい
ブリオSは特に省スペース設計で、狭い居室にも置きやすいのが魅力です。
こんな方におすすめ:
- においや衛生面が気になるご利用者様・介助者
- バケツの処理が大変と感じているご家庭
※注意点
- ネット通販での購入は、指定事業者でないと補助対象外になることがあります。
- 購入前にケアマネジャーと相談し、手続きに必要な書類や流れを確認しておくことが大切です。
介護保険で購入補助については後述していますので、そちらもご確認ください。
実際に使う際のアドバイス
ポータブルトイレは、ご利用者様の排泄の自立を支援するうえで非常に有用ですが、使いやすさや安全性を高めるためには、設置場所や周囲の環境づくりも大切なポイントです。以下のポイントを参考に、安心・快適な使用環境を整えましょう。
設置場所のポイント
- ベッドのすぐ横や、移動距離が最小限で済む位置に設置することで、ご利用者様の負担を軽減できます。
- ベッドとポータブルトイレの高さをできるだけ合わせることで、移動や立ち座りの動作もスムーズになります。
- 介助が必要な場合は、介助者が動きやすいスペースを確保しておくことも重要です。
夜間使用時の安全対策
- 足元灯やセンサーライトを設置しておくと、夜間でも視認性が高まり、転倒予防につながります。
- 明るすぎず、でも足元をしっかり照らせるライトが理想です。
ご利用者様の使いやすさを考慮した工夫
- ティッシュ、手すり、ナースコール、ペーパー、消臭スプレーなどは、ご利用者様の手が届く範囲に配置するようにしましょう。
- 可能であれば、手すりや補助具を設置することで立ち上がりやすくなります。
衛生・安全対策
- 床に防水マットや吸水マットを敷くことで、汚れや濡れによる滑りを防げます。
- 消臭・抗菌スプレーを活用することで、ニオイ対策にもなり、より快適な環境を維持できます。
- 使用後の清掃がしやすいように、周囲に掃除用具(ペーパー・スプレーなど)を常備しておくのもおすすめです。
ポータブルトイレは介護保険で購入補助が受けられます(特定福祉用具購入)
ポータブルトイレは、介護保険制度の「特定福祉用具購入費の支給対象」に含まれており、要介護(要支援)認定を受けている方であれば、一定の条件のもと補助を受けて購入することが可能です。
● 補助の概要
- 対象者: 要支援1〜2、要介護1〜5の認定を受けている方
- 対象品目: ポータブルトイレ(バケツ式・据え置き型など。介護用に設計されたものに限る)
- 年間支給限度額: 上限10万円(税込)まで
⇒ 実際の自己負担は 1割(または2〜3割)程度
例:30,000円のポータブルトイレを購入した場合
自己負担1割なら 3,000円の支払いでOK
※同じ福祉用具の購入は原則1年に1回が限度になります。
● 購入の流れ(事前に確認が必要です!)
- ケアマネジャーへ相談
購入前に必ず、担当のケアマネジャーに相談してください。介護保険での適用対象かどうかを確認してもらいましょう。 - 指定事業者で購入すること
介護保険を使って購入するには、都道府県の指定を受けた事業者から購入する必要があります。 - 領収書・証明書を提出して申請
購入後、自治体へ「特定福祉用具購入費支給申請書」や「領収書」などを提出し、還付を受けます。
⇒ 多くの地域では償還払い方式(あとから戻ってくる)ですが、地域によっては受領委任払い方式(自己負担分だけ支払い)も可能です。
● 注意点
- ネット通販での購入は、指定事業者でないと補助対象外になることがあります。
- 購入前にケアマネジャーと相談し、手続きに必要な書類や流れを確認しておくことが大切です。
よくある質問(Q&A)
Q. 介護保険でレンタルできますか?
A. ポータブルトイレは「購入」のみが対象です。ただし、特定福祉用具購入として補助が出る場合があります。
Q. 賃貸で使用しても問題ないですか?
A. キャスタータイプや非水洗タイプなら床を傷つける心配も少なく、賃貸でも設置可能です。
Q. ポータブルトイレの掃除が大変です…。どうしたらいいですか?
A.バケツの中に凝固剤入り処理袋を使うと、掃除の手間が大幅に減ります。最近は消臭タイプの処理袋も増えており、衛生面の不安も軽減できます。
→例えば、こんなやつです。
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Q. ご利用者様が嫌がって使ってくれません…
A.「介助が楽になる」「トイレまで行く必要がなくて安心」など、本人にとってのメリットを伝え、少しずつ慣れてもらうことが大切です。デザイン性の高いモデルや木製のタイプも、抵抗感を減らすポイントです。
まとめ
ポータブルトイレは「自立支援」と「介助負担軽減」の強い味方です。
ポータブルトイレは、ただの「簡易トイレ」ではありません。
それは、ご利用者様の排泄の自立を支えるリハビリの第一歩であり、介助者の身体的・心理的な負担を軽減してくれる介護の心強いパートナーです。
特に、トイレまでの移動が難しくなってきた方にとって、「ポータブルトイレを使うことで自分で排泄できる」という事実は、自信や尊厳を取り戻す大きなきっかけとなります。
一方で介助者にとっても、夜間のトイレ介助や移乗の負担が軽減され、安心して介護が継続できる環境づくりにつながります。
しかし、どのポータブルトイレでもよいというわけではありません。選び方を間違えると、
- 使用しにくくて結局使わなくなる
- お手入れが面倒でストレスになる
- ご利用者様が転倒したり、不安を感じる
といったトラブルにつながる可能性もあります。
だからこそ、ご利用者様の身体状況や環境、介助者の使いやすさに合ったポータブルトイレを選ぶことが非常に重要なのです。
さらに、介護保険を活用すれば経済的な負担も軽減できます。制度を正しく理解し、ケアマネジャーと連携して導入することで、よりスムーズに安心して使い始めることができます。
最後にもう一度お伝えしたいのは、「ポータブルトイレは介護が必要になったときの“妥協の産物”ではない」ということ。
むしろ、トイレに行きたいというご本人の意思を尊重し、自分らしく生きるための前向きな選択肢です。
ぜひこの記事を参考に、ご家庭や介護の現場でご利用者様の生活を豊かにする一歩として、ポータブルトイレの導入を検討してみてください。
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