介護の現場において、ご利用者様がベッドや布団から安全に起き上がることができるように介助することは非常に重要です。私たちは普段何気なくベッドや布団から起き上がっていると思いますが、起き上がりには様々な能力が必要であり、特にご高齢の方や身体に障がいのある方にとっては負担が大きく、介助なしでは困難な場合も多くあります。本記事では、起き上がり動作の基本的な介助方法について詳しく解説します。
起き上がり動作の重要性
起き上がり動作は、1日の生活の中で必ずと言っていいほど必要な動作です。障害がない方にとって、1日は「起き上がること」から始まります。私たちは朝目が覚めたら、自然と身体を起こしてベッドや布団から出て、トイレに行ったり、顔を洗ったり、朝食を食べたりするのが当たり前になっているかと思います。しかし、もし自力で起き上がることができなければ、これらの日常生活の動作をスムーズに行うことができず、1日のスタートを切ることさえ難しくなります。
そのため、起き上がり動作は日常生活の中でも特に重要な基本動作のひとつといえます。そして、1人で起き上がることができない方に対して、適切な方法で介助を行うことは大切で、以下のようなメリットにも繋がります。
- 身体への負担を軽減できる
無理な力を入れずにスムーズに動くことで、ご利用者様の身体にかかる負担を減らすことができます。また、介助者側の負担も軽減できるため、長期的な介護の負担を軽くすることにもつながります。 - 自立を促し、生活の質(QOL)が向上する
適切な介助を行うことで、ご利用者様が少しずつ自分で動作を行えるようになり、自立度が向上する可能性があります。自分でできることが増えることで、生活の充実感や意欲が高まり、QOLの向上につながります。 - 身体機能面の維持・向上
1人で動くことができず、起き上がりにも全介助が必要であっても、ベッド上や車椅子に座って生活することで体幹の筋力や心肺機能のトレーニングになります。無理は禁物ですが、座る時間を作ることは大切なことです。
このように、起き上がり動作の介助は単なる「手助け」ではなく、ご利用者様の身体的・精神的な負担を減らし、自立を促す大切な支援の一つで、QOLを向上させる重要な介護のひとつと言えます。

基本的な起き上がり動作の確認
安全にうまく起き上がり介助を行うには、まず基本的な動きを理解することが大切です。私たちも含め、1人で起き上がりができる人は、無意識のうちに効率的な動作を行っています。しかし、介助が必要な方の場合、その動作の一部がうまくできなかったり、そもそも全く1人では起き上がることができなかったりします。そのため、基本的な動作の流れを正しく理解し、それに沿った介助を行うことで、ご利用者様にとっても負担が少なく、安全かつスムーズな起き上がりをサポートできるようになります。
起き上がり動作の基本
起き上がり動作は、次の3つのステップで行います。
①横向きになる
仰向けの状態から直接起き上がるのは、腹筋や背筋への負担が大きく、腰に負担をかけてしまいます。そのため、まずは横向きになることが重要です。
手順:
- 両膝を軽く曲げ、両手はお腹の上に置いておく
- 体をねじらないように注意し、ゆっくり横向きになる
- 下側の腕は軽く前に出し、上側の腕は体の前に置く
②肘をついて上体を持ち上げる(on elbow:オンエルボー)
横向きになったら、次に肘をついて上体を持ち上げます。
手順:
- 上側の手でベッドを押す
- 下側の肘を立てて、上体を支える
- ゆっくりと上半身を持ち上げる
この際、首や肩に余計な力が入らないように意識することが大切です。
③ 手をついて座る(on hand:オンハンド)
最後に、安定した姿勢で座るために、手を使いながら体を起こします。
手順:
- 下側の手でベッドを押しながら、さらに上側の手を使い体を起こす
- 同時に足をベッドの端から出して、足の重みも利用して上体を起こす
- 両手で支えながら、ゆっくりと座る
起き上がる際のポイント
安全に起き上がるために、以下の点に注意しましょう。
- 勢いをつけない:ゆっくりと動作を行うことで、ふらつきや転落を防ぎます。
- 呼吸を意識する:息を止めずに、リラックスして動くことが重要です。
- 体を横向きになりながら行う:まっすぐ起き上がろうとすると腰などに負担が大きくなるため、横向きになってから起き上がる方法を取り入れましょう。
- 足の重みを利用する:てこの原理を活用し、少ない力で起き上がりましょう。
起き上がり動作を楽にするための工夫
起き上がるのが難しい方は、以下の方法を試してみると良いでしょう。
ベッドの高さを調整する
ベッドが低すぎると介助者の腰が深く曲がってしまうため、腰痛の原因になります。また、低すぎると起き上がり動作中にご利用者様の足が床に当たってしまうため、うまく起き上がることができなくなります。適度な高さに調整しましょう。
逆に高すぎると転落のリスクも高まります。適切な高さはご利用者様の足の裏が軽く床につく高さです。介護用のベッドなどで高さ調整ができる場合は、調整してください。
手すりやグリップを活用する
ベッドに手すりがついていると、腕の力を使って起き上がることができます。力が使えるご利用者様には手すりなどを持っていただき、ご自身の力も使ってもらうようにしてください。
てこの原理を活用する
介護技術の基本で、ボディメカニクスにもありますが、支店・力点・作用点を意識することで、小さな力で起き上がり介助が可能になります。

ボディメカニクスについてはこちらの記事で詳しく解説していますので、併せて読んでみてください。
▶︎介護技術を極める!ボディメカニクスの基本と実践
https://kaigoskills.com/body-machanics/
起き上がり介助の基本ステップ
①体の向きを整える
- 声掛けをする:急に動かすのではなく、「これから起き上がりの介助をしますね」と声を掛け、ご利用者様の準備を促します。コミュニケーションが取れない方にも同様に声かけをすることは重要です。
- 仰向けの姿勢から横向きにする:
- 両手をお腹の上に置いていただき、ご利用者様の膝を軽く曲げてもらいます。
- 介助者は膝と肩を支えて、ゆっくりと横向きにします。
②手をついて上半身を起こす
- ご利用者様の手をベッドにつかせる:ご利用者様が自力で体を起こしやすくするために、手をついてもらいます。
- 肘をつかって上半身を支える:
- 横向きになった状態で、ご利用者様が自分の肘をついて上半身を起こすよう促します。
- 介助者は肩や背中を軽く支えながら、必要に応じて介助します。
③下半身をベッドの外に出す
- ②とほぼ同時に足をゆっくりベッドの外に降ろす:
- 両足をゆっくりとベッドの外に出し、足の重みを利用します。
- 肩甲骨あたりの背中を支えて座位を安定させる:
- ご利用者様の足(膝あたり)を手で押しながら、上半身を起こし、背中を軽く支えて姿勢を安定させます。
この一連の動作をスムーズに行うことで、ご利用者様が無理なく起き上がることができます。
介助のポイントと注意点
ご利用者様の能力を活かす
- できるだけ自力で動いてもらう:完全に介助するのではなく、ご利用者様が自分でできる動作を尊重し、サポートする形で介助を行います。
- 力の入れやすい位置に手を置く:介助者の手の位置が適切であれば、ご利用者様も楽に動けます。
介助者の姿勢に注意
- 腰を曲げずに股関節や膝関節を使う:介助者が腰を痛めないよう、股関節と膝関節を曲げながら下半身を使って介助します。
- 無理な力を加えない:急に引っ張ると転落やケガの原因になります。ゆっくりとご利用者様の動きに合わせて介助しましょう。
環境を整える
- 介護用ベッドを利用する:介助が必要な方は、特殊寝台(介護用ベッド)を導入し、介護の負担を軽減させましょう。特殊寝台(介護用ベッド)は、介護保険でレンタルが可能です。
- ベッドの高さを調整する:介助者の負担を減らすために、ベッドの高さを適切に設定することが大切です。
- 周囲に障害物がないか確認する:転倒や転落、またご利用者様の体を傷つけないために、周囲の環境を整えておきましょう。
起き上がりを補助する福祉用具
起き上がり動作をサポートするために、以下の福祉用具を活用することも効果的です。
特殊寝台(介護用ベッド)
背上げ機能のある特殊寝台を導入することで、起き上がりの補助になります。2モーターもしくは3モーターの特殊寝台を導入するようにしましょう。

介助バーや手すり
移乗時や起き上がる際の補助として、設置型の介助バーも有効です。また起き上がり動作を補助できる手すりもありますので、そういった福祉用具も検討してみてください。
まとめ
起き上がり動作の介助は、適切な手順と技術を身につけることで、ご利用者様の負担を減らし、介護者の負担も軽減することができます。ポイントは以下の通りです。
- 障害のない方の動きを理解し、その動きを基本に考える
- ご利用者様の能力を尊重し、できる限り自力で動いてもらう
- 無理のない姿勢で介助し、腰を痛めないようにする
- 環境を整え、安全に介助を行う
- 必要に応じて福祉用具を活用する
適切な介助方法を実践することで、ご利用者様の自立を促し、安全かつ快適な生活を支援することができます。介護を行う際は、ご利用者様の状態に合わせて柔軟に対応しながら、最適な介助を提供していきましょう。
こちらの記事の内容は、YouTubeでも解説しています。併せてご試聴してみてください。
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