移乗介助が簡単！ワンアクション意識するだけで全介助でも腰の負担が軽減‼︎

はじめに

介護の中でも特に腰を痛めやすい介助といえば、「移乗介助」。
ご利用者様をベッドから車いすへ、車いすからトイレへ。
何気なくやっている毎日の動作介助ですが、実は腰に大きな負担がかかる場面が多いです。

「もっと楽に移乗介助できる方法が知りたい」
「ご利用者様にも負担なく、安全に移ってもらいたい」

そんな悩みを抱える介助者はとても多いです。

実は、移乗のしやすさを大きく左右するポイントは
“たった1つのワンアクション”。

それが、

「お尻を前に出す」こと

どれだけ筋力がある介助者でも、このワンアクションが抜けるだけで、全ての動作が重たくなり、ご利用者様の負担も増えてしまいます。これは全介助のご利用者様にも言えることです。

この記事では、移乗介助を劇的にラクにする「お尻を前に出す」技術を中心に、現場視点でわかりやすく解説します。

お尻を前に出すことで得られる大きな利点

移乗介助や立ち上がりの際に
「まずお尻を前に出す」 というワンアクションには、介助者・ご利用者様双方にとって大きなメリットがあります。

ポイントは次の2つです。

① 膝が曲げやすくなり、支持基底面と重心が近づく

お尻が後ろに残ったままでは、

• 膝が曲げにくい
• ベッドの高さにもよるが、足底が接地しにくい
• ベッドと足の間にスペースがなくなり、怪我をさせやすい（後述）

という状態になり、どうしても支持基底面に重心をうまく乗せることが難しくなります。

このまま立ち上がろうとすると、

• 上体を前方に運ぶことに必要以上に介助が必要
• 足に力が入りづらい
• 介助者が“引き上げる形”になりやすい

という悪循環が起きてしまいます。

しかし、

お尻を前に出すと、自然と膝が曲がりやすくなります。

膝が曲がる＝支持基底面（足の位置）と重心が近づくということ。

この状態は立ち上がり・移乗の“最もスムーズな姿勢”です。

ご利用者様自身の下肢筋力が使いやすくなるため、介助者が無理に持ち上げなくても動作が軽くなります。
仮にご利用者様自身の下肢筋力の発揮が難しく、全介助のご利用者様であっても、支持基底面（足）に体重を乗せることで、介助量は大幅に軽減します。

② ベッドフレームと足の間にスペースが生まれ、フットサポートでのケガが防げる

もう一つの大きな利点は、
安全面が大きく向上するということです。

お尻が後ろに残ったままだと、

• 足がベッドフレームに引っかかる
• 車いすのフットサポートにぶつかる
• つま先を巻き込みやすい

といったリスクが非常に高くなり、
皮膚の挟み込みや爪の損傷など、思わぬケガにつながります。

しかし、

お尻を前に出す＝体全体が前方へ移動する

そのため、足元に自然と“ゆとりのスペース”が生まれます。

これにより、

• ベッドから車いすへの移乗でつま先が巻き込まれにくい
• フットサポートと足が接触しづらい
• 介助者が足元を気にして余計な姿勢を取らずに済む

という大きな安全メリットがあります。

足元にゆとりのスペースがあることで、ご利用者様の怪我のリスクを抑えられるだけでなく、介助者が動けるスペースも確保できます。その結果、介助者は無理な姿勢にならずに“最も介助しやすい姿勢”を取ることができ、双方の怪我のリスクを軽減できます。また、正しい姿勢で介助できるため、必要な介助量も少なく済みます。

お尻を前に出すための3ステップ

移乗介助や立ち上がり動作をスムーズに行うためには、「お尻を前に出す」ことがとても重要です。ここでは、安全に確実に前方へお尻を引き出すための3つのステップを紹介します。

① 利用者様が倒れないようにしっかり支える

まずはご利用者様の上半身が後方へ倒れたり、横へ崩れたりしないように、介助者が体幹をしっかりと支えます。
肩や背中に軽く手を添える、または体を近づけて支えるなど、ご利用者様の状態に合わせて安定を確保します。
この “最初の安定”があるだけで、前方へのスライドが安全に行えます。

② 両膝の裏に介助者の手を通して前方に引き出す

ご利用者様が安定したら、介助者は両膝の裏へ自分の手を通します。
そのまま「前へスッ」と引くように、お尻を前方にスライドさせます。

③ 膝を90度程度に曲げて、足裏をしっかり床につけて座位を安定させる

お尻を前へ移動できたら、ご利用者様の膝を 約90度くらいに曲げられる位置まで調整し、足裏が地面へしっかり接地するよう整えます。

この姿勢ができると下記のメリットがあります：

• 足底が地面に地面にしっかり接地することで、座位が安定する
• 立ち上がり・移乗で膝が曲げやすくなり、重心が支持基底面に近づいて介助が軽くなる
• ベッドフレームと足の間にスペースができ、フットサポートなどで足をぶつけるリスクが減る

つまり、この正しい位置取りができていれば、次の立ち上がり・移乗動作を安全かつスムーズに行えるようになります。

よくある失敗例と注意点

「お尻を前に出す」ワンアクションができるだけで移乗介助は楽になりますが、実際の現場では次のような“よくある失敗”が起きやすく、それが介助の重さ・危険につながっています。

ここでは具体的な失敗例と、なぜそうなるのか・どう防ぐかを解説します。

① お尻を前に出さずに、そのまま立ち上がらせてしまう

【よくあるシーン】

・急いでいる
・「このくらいならいけるだろう」と油断している

その結果、

• 膝が曲がらず重心が後ろに残ったまま
• 上体が持ち上げづらく介助が重くなる
• 介助者が前屈みになり腰へ強い負担

という流れで、介助が“しんどい動作”になります。

② 膝が伸び切ったまま足裏が床に接地していない

【よくあるシーン】

・ベッドが高すぎる
・ご利用者様が後方にずれて座っている
・お尻を前に出している“つもり”になっている
・仙骨座りになっている

この状態で立ち上がろうとすると、

• 足底で踏ん張れず、介助者がほぼ全てを持ち上げる形になる
• ご利用者様も不安定になり、ふらついたり後ろに倒れたりしやすい

③ 足元のスペースを確保せず、つま先や足の甲を巻き込んでしまう

【よくあるシーン】

・車いすのフットサポートを上げ忘れる（取り外せるものは取り外す）
・ベッドフレームすれすれの位置に足がある
・お尻が後ろに残ったまま移乗しようとしている

この状態は非常に危険で、

• つま先が巻き込まれるように怪我をさせてしまう
• 足が車椅子の一部に当たった状態で移乗すると怪我をさせてしまう
• 挟み込みによる皮膚トラブル

が起こりやすくなります。

④ 介助者が“引っ張って持ち上げる形”になってしまう

【よくあるシーン】

・ご利用者様の力が弱い
・早く移乗を終わらせたい
・重心が後ろに残っているのに動かそうとしている

そのまま動作に入ると、

• 腰・肩に強い負担
• ご利用者様は不意に身体を引っ張られて不安定に
• 最悪、ご利用者様の体も痛めるリスク

があります。

⑤ ご利用者様に動作の説明をしないまま介助に入る

【よくあるシーン】

・慣れているご利用者様だと思い込み、何も言わずに動かす
・急いでいて声かけを省略してしまう
・ご利用者様が“何をされるのか”わからず身体が固くなる
・認知症の方に声かけをせずに動かしてしまう

説明なしで動かすと、

• ご利用者様が突然体を固める
• 無意識に後ろへ倒れ込む
• ご利用者様の恐怖心が強く、協力が得られない
• 拒否反応で非常に危ない

という問題が起こります。

失敗のほとんどは“準備不足”で起こる

よくある失敗の多くは、

• お尻を前に出していない
• 足が接地していない
• 足元のスペースがない
• 声かけがない

など、準備をしないまま動作に入ってしまうことで起きます。

しかし裏を返せば、

この準備さえ整えていれば移乗介助は驚くほど軽く、安全になります。

上記のほとんどをクリアにできるたった一つのワンアクションこそが、

「お尻を前に出す」こと

なのです。

これは全介助のご利用者様にも同じことが言えますので、覚えておいてください。

まとめ

「お尻を前に出す」というワンアクションは、移乗介助のなかで見落とされやすい動作でありながら、実は“動作効率”と“安全性”の両方を劇的に高める最重要ポイントです。

このワンアクションが適切にできるだけで、

① 膝が曲げやすくなり、重心と支持基底面が近づく
② 足元に十分なスペースが生まれ、巻き込み事故や接触トラブルを防げる
③ 介助者・ご利用者様双方が“正しい動作の流れ”に乗りやすくなる

結果、移乗がスムーズになり、事故リスクが低下し、介助全体の質が大きく向上します。

移乗介助の“9割”は準備で決まる

移乗介助では、「力」よりも「準備」が圧倒的に重要です。

その準備の中でも、
“お尻を前に出す”というわずか数秒のワンアクションが、全体の介助効率を左右する鍵になります。

• 動作が軽くなる
• 安全性が上がる
• 介助者の腰痛予防になる
• ご利用者様の負担が減る

という、現場でこそ実感できる大きな効果がありますので、ぜひ実践でも取り入れてみてください。
「お尻を前に出す」――
それは、少し大袈裟かもしれませんが、移乗動作を変える魔法の一歩といえるかもしれません。

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