はじめに
介護やリハビリの現場でよく耳にする「虫様筋握り」という言葉をご存じでしょうか? 虫様筋(ちゅうようきん)は、手の中にある小さな筋肉で、指の動きに重要な役割を果たします。 この筋肉を意識した「虫様筋握り(ちゅうようきんにぎり)」は、手指を過剰に使わず、負担を減らしながら適切な力で物を握る方法として、特に介護の場面で推奨されています。うまく虫様筋握りを活用することで、ご利用者様との信頼関係が築けたり、介助が上手になったりと介護をしていく中で自分のレベルアップにつながりますので、ぜひとも最後まで読んでみてください。
本記事では、虫様筋握りの基本的なメカニズムから、介護現場における活用方法、効果、そして練習方法まで詳しく解説していきます。
虫様筋とは?
虫様筋は、手のひらの深部にある4つの筋肉で、それぞれ人差し指・中指・薬指・小指に付着しています。 この筋肉の主な役割は、指のMP関節(指の付け根の関節)を曲げ、PIP関節(指の中間の関節)とDIP関節(指先の関節)を伸ばすことです。 この動作は、ペンを持つときや、紙をつまむときなど、日常生活で頻繁に使われています。
虫様筋の働き
- MP関節を曲げる(拳を作るような動作)
- PIP関節とDIP関節を伸ばす(指をまっすぐにする動作)
- 繊細な指の動きをサポートする
この特性を活かした握り方が「虫様筋握り」です。

虫様筋握りとは?
虫様筋握りとは、指全体を強く握るのではなく、MP関節を軽く曲げつつ、PIP関節とDIP関節を伸ばしたまま物を持つ方法です。
通常の握り方(パワーグリップ)では、指全体に力を入れて握り込みますが、虫様筋握りでは指先には力を入れずに手のひら全体で包み込むように握ります。
虫様筋握りの特徴
- 指の付け根(MP関節)を曲げた状態で物を持つ
- 指先(PIP・DIP関節)は伸びたまま
- 手首や前腕に余計な力が入らない
- 繊細な力加減ができる
この握り方は指先に力が入らないため、ご利用者様に痛みなどの不快な思いをさせにくく、指先にかかる圧も分散されるため皮下出血も起こしにくい。さらには介助の場面での安全なサポートにも役立ちます。

介護現場での虫様筋握りの活用
介護現場では、手の使い方が非常に重要です。 虫様筋握りに限らず、ご利用者様の手を握る際やお体に触れる際は手から気持ちなどが伝わります。緊張していると震えていたり、余計に力が入っていたりします。また、急いでいるときや、イライラしているとににも無駄な力が入ってしまい、それも相手に伝わってしまいますので手の使い方には気をつけないといけません。そこで、虫様筋握りを使うことで、指先に過度な力が入らず、適度なサポートができます。
また、触れるときのみならず、
- ベッドから車椅子への移乗
- 起き上がりの介助
- 立ち上がりのサポート
などなど、これらの動作を介助する際にも有効で、ご利用者様に不快な思いをさせずに安定した介助が可能になります。
虫様筋握りのメリット
虫様筋を使った握り方の最大の利点は、相手に不快感を与えずに介助ができることです。指先だけに力を入れると、どうしても点で圧がかかり、痛みや不快感を引き起こしてしまいます。しかし、虫様筋を使うことで、力が分散され、痛みを感じにくくなります。
① 介助者の負担軽減
- 指先の力を使うのではなく、手のひら全体を適切に使うことで、手首への負担を減らせる
- 手のひら全体で支えるため、余分な力が抜け、腰痛予防になる
- 過度な力を入れずに安定した介助が可能
② ご利用者様への負担軽減
- 強く握られる不快感を軽減できる
- ご利用者様に触れる面積が広くなることで、圧が分散され、皮下出血が起こりにくくなる
- 繊細な力加減で安心感のある介助が可能
③ 筋肉・関節への負担が少ない
- 指関節の過度な屈曲を防ぎ、関節の負担を軽減
- 長時間の介助でも疲れにくくなる
虫様筋握りの練習方法
① タオルを使った練習
- 小さめのタオルを軽く握る
- MP関節を曲げた状態で、PIP・DIP関節を伸ばす
- 力を抜いてリラックスしながら行う
② ゴムボールを使った練習
- 柔らかいゴムボールを軽く握る
- 指全体ではなく、MP関節を意識して持つ
- 5秒保持し、ゆっくり離す
③介助者同士、友達同士、家族間で練習
- 実際にご利用者様にやってみるのではなく、身近にいる人で練習する
- やる人もやられる人も経験し、やられる側に感想も聞いてみる
- 相手にフィードバックし、再度やってみる
④実際の介護場面での意識
- 利用者様の手を握る際に、MP関節を意識
- 指先を強く握り込まないように注意
大きな関節を意識した介護の重要性
さらに虫様筋握りの考え方を応用していきます。
介護技術を向上させ、ご利用者様の負担を軽減するためには、小さな関節ではなく大きな関節を意識的に使うことが重要です。
- 指先ではなく手のひらを使う(虫様筋握り)
- 手のひらではなく手首を使う
- 手首ではなく肘関節を使う
- 肘関節ではなく肩関節を使う
- 肩関節ではなく体幹を使う
- 力ではなく体重を使う(ボディメカニクス)→※別の記事で詳しく解説
このように、より大きな関節を活用することで、介助者の負担を減らしつつ、より安定した介護が可能になります。
例えば、移乗介助の際に指先だけで支えようとすると、負担が集中して疲労しやすくなります。しかし、肘や肩の動きを意識することで、全身を使ったスムーズな介助が可能になります。
また、体幹に近づけば近づくほどご利用者様との接地面積は広くなり、不快感を与えにくくなりますし、余分な力が不要になり安心感も与えることにつながります。
しかし、必要以上に体幹に近い関節を使っていくと、かえって不快感を与えてしまうだけでなく、セクハラの問題に発展しかねないので、適度な距離感は大切にしてください。
※力ではなく体重を使う(ボディメカニクス)ことに関しては、詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
▶︎介護技術の基本をしっかり学ぼう!〜まず覚えることは2つだけ〜
https://kaigoskills.com/kaigo-gijutsu-kihon/
まとめ
虫様筋握りは、介護現場で非常に有効な握り方であり、介助者・ご利用者様双方にメリットがあります。
- 指のMP関節を曲げつつ、PIP・DIP関節を伸ばすのがポイント
- 適度な力加減で介助でき、負担が減る
- 介護技術の向上につながる
- 大きな関節を活用することで、よりスムーズな介護が可能になる
- ご利用者様にも負担をかけず不快な思いをさせない
- 信頼関係が生まれる
- 虫様筋握りの応用も大切
普段の介護業務の中で意識し、ぜひ取り入れてみてください。
今後も、介護技術を向上させる情報を発信していきますので、ぜひ実践してみてください!
この記事に関連するYouTube動画はこちらです。動画も見ていただきより理解を深めてもらえると嬉しいです。
コメント