はじめに
介護業界の求人情報を見ていると、ひときわ目を引くのが「未経験歓迎」というフレーズです。
「資格がなくても働けるなら挑戦してみようかな」「人と関わる仕事がしたい」と興味を持つ方も多いのではないでしょうか。
確かに、介護の現場では専門的な知識や技術以上に、「人に寄り添う気持ち」や「思いやりの心」が重視される傾向があります。そのため、経験がない方でも積極的に採用し、現場で丁寧に指導していく体制を整えている施設もたくさんあります。
しかしその一方で、「未経験OKだから大丈夫だと思っていたのに、現場に入ったら想像以上に大変だった…」「教育体制が整っていると思ったら、初日から現場に放り込まれて戸惑った」という声も少なくありません。運営しているYouTubeへのコメントにもそういった声はよく寄せられています。
「未経験歓迎」の言葉には、施設側の本音と現場の事情が隠されていることもあるわけです。
この記事では、求人票だけでは見えにくい介護現場のリアルと、「未経験歓迎」が意味する本当の内容について、現場を知る立場から分かりやすく解説したいと思います。
「未経験歓迎」は本当に安心していいのか?
介護の求人票でよく見かける言葉に「未経験歓迎」があります。私が運営している訪問看護ステーションの求人でも、よく使うワードのひとつです。一見すると、「初心者でも安心して働ける」「丁寧な研修がある」といった前向きな印象を与え、応募へのハードルを下げてくれる言葉でもありますよね。
しかし実際には、その言葉の裏側に別の事情が隠れているケースも少なくありません。
そもそも「未経験歓迎」の理由とは?
介護業界は現在、深刻な人手不足に直面しています。特に特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの24時間体制の現場では、夜勤や早出・遅出といった不規則な勤務体制、身体的・精神的な負担の大きさなどから、スタッフの離職率が高く、常に求人が出ている状態というのが現実です。
そのため、求人票に「未経験歓迎」と書かれていても、それが必ずしも“教育制度が整っている”“フォロー体制が手厚い”ことを意味しているわけではありません。むしろ「経験の有無よりも今すぐ来てほしい」「とにかく人手が足りない」という切迫感から、その言葉が使われている可能性もあります。
「未経験者歓迎」と書くことで、応募のハードルが下がり、求人の母数が増えることは確かです。特に、介護業界のように人手不足が常態化している分野では、経験者だけに絞っていては応募が集まらず、採用活動が長期化するリスクもあります。
そのため、間口を広げる意味で「未経験歓迎」と記載すること自体は、決して悪いことではありません。ただし、それに見合った教育体制や現場の受け入れ準備が整っていなければ、入職後のミスマッチが起こりやすくなります。
実際に、「未経験OKとあったのに、初日から現場で一人にされた」「マニュアルがなく、聞ける先輩もいなかった」といった声も少なくなく、私が運営しているYouTubeへのコメントにもそういった声はよく寄せられており、現場とのギャップに戸惑う新人スタッフも多くいるようです。
もちろん、すべての施設や事業所がそうというわけではありません。中には未経験者にしっかりと寄り添い、丁寧なOJTや研修プログラムを整えているところもあります。

よくあるギャップ① 教育・研修がほとんどない
求人票やホームページには「未経験でも安心」「丁寧に教えます」といった言葉が並んでいても、実際に働き始めてみると、その実態はまったく異なるというケースがあります。
例えば――ー
- マニュアルが整備されていない
基本的な業務手順やルールが文書化されておらず、「誰に聞けばいいのか分からない」「人によって言うことが違う」といった混乱が生じやすくなります。 - 先輩職員も忙しく、時間をかけて教えられない
現場では常に時間との戦い。ご利用者様対応に追われる中で、新人職員にじっくり時間をかけて教える余裕がないという職場も多いのが現実です。 - 「見て覚えて」の文化が根強く残っている
かつての介護現場で当たり前だった「背中を見て学べ」的な風土が、いまだに一部の施設では残っています。その結果、何をどうすればいいのか分からないまま、業務を任されてしまうこともあり、いきなり「1人で対応して」なんてことも。
こうした状況は、特に即戦力を求める現場で顕著です。未経験者歓迎であっても、要は「猫の手も借りたい状況」といった背景があります。慢性的な人手不足のため、研修期間を十分に設けることができず、未経験者であってもいきなり責任ある仕事を任されるというケースも珍しくありません。
例えば、「入職した初日に1人で入浴介助を任された」「先輩と同行の予定が、急きょキャンセルになり1人で訪問に行かされた」などの体験談も実際にあります。
このようなギャップは、働く側にとって大きな不安やストレスとなり、「思っていたのと違う」「もう続けられない」と早期離職につながる原因にもなります。
だからこそ、「未経験歓迎」の言葉に安心せず、事前に実際の研修体制や指導方法について具体的に確認することが重要です。可能であれば、見学や体験を通じて現場の雰囲気を知ることも、有効な手段だと思います。
よくあるギャップ② 精神的・身体的負担が想像以上
介護の仕事は、現場に入って初めてわかる“想像以上のハードさ”がある仕事です。求人票には「やりがいのある仕事」「ありがとうと言ってもらえる」といった前向きな言葉が並びますが、その裏側には、決して軽視できない精神的・身体的な負担が潜んでいます。
身体的な負担について
介護現場では、ご利用者様の移乗介助・入浴介助・排泄介助など、身体を使う場面が日常的にあります。特に、体格差のあるご利用者様を支えたり、狭いスペースでの対応を求められることも多く、腰や肩、膝に負担がかかりやすいのが現実です。実際、介護職員の多くが腰痛に悩まされており、離職理由のひとつにもなっています。
精神的な負担について
次に、精神的な負担も見逃せません。
ご利用者様とのコミュニケーションはもちろん、認知症による対応の難しさ、感情のコントロールが必要な場面、時には理不尽な言葉を受けることもあります。さらに、ご家族との信頼関係の構築や、他職種との連携の中での葛藤など、“人と深く関わる仕事”ならではのストレスも伴い、慣れない環境下では大きなストレスになることも事実です。
未経験の方にとっては、これらすべてが初めての体験になります。
「体力には自信があるから大丈夫」「人と関わるのが好きだから大丈夫」と思っていても、想定していた以上の重圧や気疲れに戸惑う方も多くいらっしゃるのが現実です。
特に、求人票に記載された“やりがい”や“感謝される仕事”という言葉だけで仕事をイメージしてしまうと、そのギャップに苦しむ可能性があります。もちろん、介護の仕事には確かなやりがいや、人との深い信頼関係による充実感があるのも事実です。ただし、それは乗り越えるべきハードルの先にあるものであり、最初から心地よく感じられるとは限りません。
だからこそ、「大変なこともある」と理解したうえで、自分に合う職場や働き方を見つけることが、長く続けるためにはとても大切なことです。事前に見学や体験を通じて、自分の想像とのズレを確認しておくことを強くおすすめします。
良くも悪くも、介護業界はどこも人手不足です。だからこそ、焦らずに、複数の職場をしっかり比較・吟味してみてください。
よくあるギャップ③ 人間関係が大きなストレスに
介護業界に限らず、職場における人間関係の悩みは、常に離職理由の上位に挙げられています。どれだけ仕事内容にやりがいを感じていても、職場の人間関係がうまくいかないと、それだけで「もう続けられない」と感じてしまうものです。
特に介護現場では、チームワークが求められる場面が非常に多く、スタッフ同士の連携がスムーズでないと、ご利用者様へのケアにも影響が出てしまいます。
そして、教育体制が整っていない職場ほど、人間関係のトラブルが表面化しやすい傾向があります。
例えばーーー
- 新人が孤立しやすい
忙しい現場では、新人に対して計画的なOJTや面談の機会が持たれず、「いつの間にか放置されていた」「話しかけづらくて聞けなかった」といった孤独感を抱えることがあります。 - ミスをしてもフォローされない
業務中のミスや分からないことがあっても、「そんなの当たり前でしょ」と流されたり、陰で責められるような空気があると、次第に自信を失い、仕事への意欲も低下してしまいます。 - 「誰に相談すればいいか分からない」状態が続く
役割や責任の所在が不明確な職場では、困ったときに助けを求める先が見つからず、不安やストレスを抱え込んでしまうケースも多いです。
このような環境では、入職後わずか数週間で「もう限界」と感じてしまう人も少なくありません。
介護の現場は、決してひとりで完結できる仕事ではありません。だからこそ、スタッフ同士の信頼関係やコミュニケーションの風通しの良さは非常に重要です。
後悔しないために!求人票の「裏側」を見抜くコツ
「未経験歓迎」という言葉だけを信じて応募してしまうと、実際の現場とのギャップに苦しむこともあります。
そうならないためにも、求人票や採用サイトに書かれている情報から、“見えない部分”を読み解く力が大切です。
最後に、求人票の裏側を見抜く3つのコツをご紹介します。

✔ 教育制度について具体的に書かれているか?
「丁寧に教えます」「未経験OK」だけでは不十分。
本当に未経験者に優しい職場であれば、教育制度の内容が具体的に記載されているはずです。
例えばーーー
- 「入職後3ヶ月間は先輩スタッフが同行します」
- 「段階的なOJT(現場研修)を実施」
- 「資格取得支援制度あり(実務者研修、介護福祉士など)」
- 「マニュアルや動画教材が整備されています」
といった記述があるかどうかで、本気で人材を育てようとしているかどうかが分かります。
逆に、「未経験OK」「研修あり」といった曖昧な表現だけだと、実際には現場任せになっている可能性が高いので注意が必要です。面接の段階で聞くこともお勧めします。
✔ 現場の声が載っているか?
実際に働くスタッフの声が掲載されているかどうかも、大きな判断材料です。
- スタッフのインタビュー
- 「1日の業務の流れ」や「働き方の例」
- 入職したばかりの職員の体験談 など
これらが丁寧に紹介されている求人は、職場の透明性を重視しており、「中の様子を知ってもらいたい」という思いがある証拠です。
反対に、写真や文章がほとんどなく、情報が少ない求人は、現場の実態をあまり見せたくないと思っている可能性もあります。
✔ 離職率や定着率に触れているか?
求人票に「離職率が○%」「定着率○年」などの情報が書かれている場合、かなりオープンな運営をしている職場といえます。
なぜなら、離職率が高い職場はこの情報を載せることは絶対にしません。
数字を明示している=それだけ自信がある、または改善の努力をしているという姿勢の表れでもあります。
また、離職率に関するデータがなかったとしても、「勤続10年以上のスタッフ多数」「平均勤続年数○年」といった文言があるかどうかも要チェックです。
働き続けられる職場かどうかを見極める、大きなヒントになります。
実際に働く前にできること
- 施設見学や職場体験を申し込む
- 面接時に職場の雰囲気をじっくり観察する
- 面接時に聞きたいことは全部聞く
- SNSや口コミサイトで情報収集する
介護業界では求職者を求める事業所が数多くあります。これは求職者にとって大きな強みです。面接では遠慮せず、気になることはすべて確認し、納得いくまで見極めましょう。「ここが合わなくても次がある」という前向きな気持ちで臨むことが大切です。ただし、その強気な姿勢はあくまでも心の中に。表には出さずに。
まとめ
「未経験歓迎」の言葉に惑わされないでください。
介護の仕事は、人の人生に深く関われる、やりがいのある尊い仕事です。ご利用者様からの「ありがとう」に救われる場面も多く、未経験からでもやりがいを感じられる瞬間はたくさんあります。
ただその一方で、身体的・精神的に負担がかかるのも事実です。職場の教育体制やサポートの有無によって、働きやすさは大きく変わります。
求人票にある「未経験歓迎」という言葉は、確かに安心感を与えてくれますが、必ずしも教育が丁寧とは限りません。 中には「ただ人手がほしいだけ」といったケースもあるため、言葉だけを鵜呑みにするのは危険です。
だからこそ、未経験者ほど事前の情報収集がカギになります。求人票の文面だけでなく、SNSや口コミ、施設見学などを通して、リアルな職場の雰囲気を感じてみてください。
介護業界は全国的に人材を求めています。選ばれる側であると同時に、皆様も職場を選ぶ立場です。
焦らず、自分に合った場所を見つけること。
それが、後悔のないキャリアの第一歩です。
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