介護従事者全般に対して「月1万円の賃上げを半年分」|本当に高市政権で介護の給料は上がるのか

もくじ

はじめに

2025年11月21日、政府は物価高対策を柱とする大規模な経済刺激策を決定しました。 (nippon.com)
この対策の一環として、介護従事者全般に対して「月1万円の賃上げを半年分」という措置が盛り込まれました。 (ハートページ)
同時に医療従事者にはプラス3%の賃上げも打ち出されており、医療・介護人材の待遇改善が政府として明確に表明されたのです。 (m3.com)

この記事では、この新たな政策が「現場の給料・待遇」にどのような変化をもたらすのかを、可能な限り客観的かつ現実的な視点で解説します。
単に“賃上げが発表された”という事実だけでなく、

  • 実際に手取りが増えるのか
  • いつから反映されるのか
  • 事業所ごとの差は出るのか

といった、現場で働く介護職・医療職の方が気になるポイントを丁寧に掘り下げます。

「本当に給料は上がるのか?」「どれくらい収入が変わるのか?」「今回の政策は一時的なのか、それとも今後の処遇改善につながるのか?」
そんな疑問に対して、制度の仕組み、財源、対象範囲、現場の実態を踏まえながら、できるだけわかりやすくお答えしていきます。

本記事を読むことで、今回の政策によってご自身の働く環境にどんなメリットや注意点があるのか、より具体的にイメージできるように解説しますので、ぜひ最後まで読み進めてください。

背景:なぜ今、賃上げなのか

現下の物価高は家計に深刻な影響を与えており、その波は介護の現場にも大きく押し寄せています。食品・光熱費・ガソリンなど日常的な支出が増えているだけでなく、事業所としても消耗品費や福祉用具の仕入れ、社用車の維持費など、あらゆるコストが上昇し続けています。

すでにギリギリの運営を強いられている事業所も多く、「このままでは人を雇い続けられない」「新たに雇用したくても採用コストが高く求人がかけられない」という声すら珍しくありません。

さらに、介護業界は長年にわたり人材不足と高い離職率が問題視されてきました。体力的・精神的な負担が大きいにもかかわらず、待遇が十分とは言えない状況が続いており、このギャップが慢性的な人手不足をさらに深刻化させています。

そのため、処遇改善や賃金の底上げは、まさに“待ったなし”の最重要課題となっていました。

こうした背景を受け、新政権は「賃金の底上げ」と「介護報酬の見直し」をセットで進める方針を明確にしました。これは単なる一時的な支援ではなく、介護・医療分野に根強く存在する構造的な課題を解消していくための、大きな方向転換と言えます。

今回の賃上げ措置は、こうした政策方針のもと、本来であれば次回の報酬改定を待つはずの処遇改善を、前倒しで実行する“緊急対応”として位置づけられています。
物価高によって現場がこれ以上疲弊することを避けるための“つなぎ策”としての意味合いも極めて大きいものです。

このような流れを背景として、今回の賃上げ支援策が実施されることになったのです。

今回の賃上げ支援の内容

今回の補正予算では、介護・医療分野の人材確保を目的とした大規模な支援策が盛り込まれています。特に注目すべき点は、介護従事者に対する「月1万円の賃上げ」を半年分、国の予算で手当てするという明確な措置が取られたことです。

この支援は、これまでの処遇改善加算とは異なる位置づけで、対象の幅が非常に広い点が特徴です。施設で働く介護職はもちろん、訪問介護、訪問看護、ケアマネジャーといった、従来の加算制度では十分な恩恵を受けられなかった職種も含まれています。

つまり、「介護に関わるあらゆる職種の底上げをする」という、従来よりも一歩踏み込んだ対応が行われる形です。

加えて、医療機関で働く従事者に対しても、基本給のプラス3%に相当する賃上げを半年分実施する方針が示されています。これは医療と介護の連携を重視し、両分野を包括的に支えるための施策と言えます。医療側だけ、介護側だけという偏った支援ではなく、両者を同時に底上げすることで、地域全体のケア体制を強化する狙いがあります。

これらの賃上げ施策に加え、補正予算では医療機関・介護事業所に対する運営支援や、物価高騰への対応費用も盛り込まれています。消耗品の高騰や燃料費の上昇など、事業所を圧迫している具体的なコストに対する支援が含まれているため、現場の経営を安定させ、ご利用者様へのサービス品質を維持しやすくなる効果も期待できます。

こうした支援が実際の現場へ適切に反映されれば、

  • 待遇改善
  • 離職防止
  • 人材の定着・確保
  • サービスの質の安定

といった、介護業界が長年抱えてきた課題の解消につながる可能性があり、賃金が上がるだけでなく、働き続けやすい環境づくりが進むことで、現場全体にプラスの循環が生まれることが期待されています。

現場で期待されること ― 何がどう変わるか

給与ベースの底上げが進む

今回の「月1万円」の賃上げは一見小さく感じられますが、年間で換算すると12万円の収入増になります。
たかが月1万円は、されど1万円です。少なく感じる方も多いとは思いますが、毎月1万円の収入増は大きなきっかけと言えます。

これまで「働いても生活が苦しい」という声が多かった介護現場において、固定的なベースアップは大きな安心材料です。
特に家計を支える世代にとっては、日用品や光熱費の値上がりに対する“底支え”としての役割も大きく、生活の見通しが立てやすくなるでしょう。

処遇改善加算や報酬改定を待たずに反映される“即効性”

今回の支援は、通常の報酬改定とは異なり、補正予算を使った「前倒し支援」である点が大きな特徴です。
そのため、制度の変更を待つ必要がなく、現場に反映されるスピードが比較的早いと言えます。

さらに、従来は処遇改善加算の対象外だった訪問看護や訪問リハビリ、ケアマネジャーなどにも対象が広がる見込みで、恩恵を受ける職種の幅が大きく広がります。
「同じチームで働いているのに、対象職種が限られて不公平感があった」という現場の声が軽減される可能性もあります。

離職防止・人材確保につながる期待

待遇改善は、離職率の高い介護業界において最も効果的な改善策のひとつです。
特に、

  • 給与が低く続けにくいと感じていた若い世代
  • 家庭との両立で不安を抱える中堅層
  • 今後のキャリアが見えづらいと感じていた人

こうした層にとって、今回の賃上げは「続けよう」と思える材料になります。

人材が定着しやすくなることで現場の負担が分散し、結果としてサービスの質の向上にもつながるという好循環が期待できます。

施設・事業所の経営安定化を支える包括支援パッケージ

今回の補正予算は、単なる賃上げにとどまりません。物価高により上昇した事業所のコストへの補助も含まれており、経営が圧迫されている事業所にとっては大きな支えとなります。

例えば、

  • 介護用品の仕入れ価格の上昇
  • 電気代やガソリン代の増加
  • 車両維持費や消耗品費の負担増

こうした“避けられない固定費”の増加に対しても、一定のサポートが行われるため、事業所が安定してサービスを提供し続けられる環境が整います。

結果的に、ご利用者様の生活を支えるサービスが途切れないという点でも、大きな意味を持つ支援策です。

ただし、注意すべき“限界”と“課題”

一方で、今回の措置だけでは根本的な待遇改善や将来の安心には不十分、という声もあります。

一時的な「半年分」措置であること

今回の賃上げは、あくまで“半年分”としての時限的な対応です。
一時的な手当のような位置づけであり、翌年度以降も同じ水準が続くかは不透明
現場職員からは、

「結局また元に戻るのでは?」
「将来設計が立てにくい」

という不安の声も多く聞かれます。

継続的な待遇改善を実現するには、次回以降の介護報酬改定や制度設計の根本見直しが欠かせません。

人手不足解消や労働環境の改善には不十分

賃金アップは確かに歓迎すべき一歩ですが、

  • 休みが取れない
  • 残業が常態化している
  • 身体的負担が大きい(腰痛・疲労)
  • メンタル負荷が高い

といった現場の根本課題までは解決しません。

介護の仕事を「続けられる」環境にするには、
休暇制度の整備、人員配置の見直し、介護ロボットの導入支援、研修体制の強化など、
より包括的な職場環境の改善が不可欠です。

事業所運営の厳しさは依然として続く

物価高騰、エネルギーコスト、社用車の燃料代、介護材料費など、事業所側の負担は増え続けています。
加えて、最低賃金の上昇や採用難による人件費の増加も重くのしかかります。

今回の賃上げ分を従業員に還元しつつ、
その他の運営コストもまかなうのは難しいという事業所も多いのが現実。
結果として、採用・教育・設備投資の余力が減少し、
「働く人もご利用者様も安心できる事業運営」が難しくなる懸念があります。

将来的な報酬改定や制度維持の見通しは不透明

介護報酬は3年ごとに全面改定されますが(次回の改訂は2027年)、
社会保障費の増大や財源確保の問題から、今後の報酬水準がどうなるかは読みづらい状況です。

もし今回の賃上げが“一過性のもの”で終われば、

  • また給与が下がる
  • 若い人材がもっと集まらなくなる
  • 離職率がさらに上がる

といった悪循環に陥る可能性もあります。

現場としては、「継続性がある賃上げ」なのか、「単発で終わる施策」なのかを慎重に見極める必要があります。

賃上げしても“税金が上がって意味がない?”

今回の賃上げに対して、現場からよく聞かれるのが

「どうせ税金や社会保険料が上がるから、手取りは増えないのでは?」

という不安の声です。

この気持ちは非常によくわかります。
せっかく給与が増えても、手元に残る金額が思ったより少なければ、 “がっかり感” を抱いてしまうのは当然です。

しかし、この問題はもう少し丁寧に見る必要があります。

税金や社会保険料が上がっても、手取りは必ずプラスになる

まず知っておくべきポイントは、
今回の賃上げは、税負担を差し引いても「手取りは純増」する仕組みであることです。

確かに、給与アップに伴い社会保険料や所得税がわずかに上がるケースはあります。
ですが、それ以上に「給与ベースそのものが増える」メリットが大きく、
手取りがマイナスになることはありません。

さらに、

  • 賞与計算の基礎
  • 処遇改善加算の算定
  • 今後の昇給テーブル

にもプラス影響が出ます。

税金が上がるのは「収入が増えている証拠」

税金や社会保険料が増えることは、一見マイナスのように感じますが、
制度の仕組み上、これは “収入が確実に増えている” という証拠でもあります。

特に厚生年金の場合、
収入が増える → 標準報酬月額の等級が上がる → 将来の年金受給額が増える
という流れになるため、長期的にはメリットも大きいのです。

短期の手取りだけでなく、
ライフスパン全体で見た「将来の収入アップ」につながる側面も忘れてはいけません。

そんなことはわかっているけど、今の時点で収入アップが必要なんです

って声も聞こえてきそうですが…。

それでも“実感しにくい”のは正しい感覚 → 継続的な制度改善が必要

ただし、「手取りが大きく増えた」と実感しにくいのは事実です。
この感覚は決して間違っていません。

これは、

  • 賃上げ幅がまだまだ十分とは言えない
  • 税・社保が増えることで差額を体感しづらい
  • 物価高により生活費が圧迫されている

という複合的な理由があるためです。

つまり、「意味がない」という声は、
“もっと本質的な改善を求めているサイン”
でもあります。

だからこそ重要なのは、今回の時限的な措置だけで終わらせず、
次回の報酬改定や恒久的な賃金制度の見直しへつなげる議論です。
一時的な支援や加算での賃上げではなく、基本報酬の引き上げがマストだと感じます。

短期的な不満より、長期的な改善への一歩として捉えることが大切

今回の賃上げは、税負担を考えても「物足りない」と感じる人が多いのも当然です。
しかし、

  • 手取りは必ず増える
  • 収入としてのベースアップにつながる
  • 将来の年金額にも影響する
  • 今後の制度見直しの土台となる

という確かなメリットも存在します。

つまり、

「意味がない」のではなく、「第一歩としては大きい」というのが個人的な感想です。

これをきっかけに、現場で働く人が安心して働き続けられる制度づくりが、今後ますます求められます。
そして、スピード感を大切にしていただきたいですね。

これから現場で注目すべきポイント

① 補正予算成立後、賃上げが「実際にいつ手取りに反映されるか」

補正予算が成立した後、現場に反映されるまでには事業所ごとの手続き・給与計算のタイミングが関わります。

  • いつから増額分が入るのか
  • いつの給与で初めて反映されるのか(翌月?翌々月?)
  • 遡及して支給されるのか

といった点は、従業員にとって最も気になる部分です。

事業所によっては、
「国の正式な通知待ち」
「加算申請後の処理が必要」
といった理由で反映が遅れるケースもあり、タイムラグが出る可能性があります。
現場は今後、各事業所のアナウンスに注目しておく必要があります。

② 処遇改善加算の対象外サービスにも賃上げが反映されるのか

今回の措置が、訪問看護・居宅介護支援(ケアマネ)・福祉用具・訪問リハなどにも適用されるのかどうかは、現場の大きな関心事です。

これらの職種は、

  • 重度のご利用者様を支える専門職
  • 地域包括ケアの要

 であるにもかかわらず、従来は処遇改善加算の「対象外」になっていました。

今回の賃上げで、

  • 対象外だった職種にも恩恵があるのか
  • もし対象外なら、今後どう扱われるのか
  • 対象外職種との賃金差が広がり現場分断につながらないか

といった点に注目する必要があります。

③ 施設・事業所の経営状態とコスト管理はどう変わるか

物価高・燃料費・人件費高騰が続く中、
「賃上げ分を支給しつつ、事業所が運営を継続できるのか」
は非常に重要なポイントです。

特に影響が大きいのは、

  • 送迎車・社用車の燃料代(デイサービス・福祉用具)
  • 訪問車両の維持費(訪問系)
  • 水道光熱費(入所系)
  • 紙パンツ・消耗品の値上がり(全サービス)

賃上げを実行すると、会社負担分の社会保険料は増える可能性があるため、
他の経費を圧縮しないと回らない」という声が増える可能性があります。

場合によっては、

  • サービス提供体制の見直し
  • 人員配置の最適化
  • 加算取得の再整理

が求められ、現場の働き方や業務量にも影響が出るかもしれません。

④ 恒久的な報酬改定・賃金制度の見直しは進むのか

半年分の時限的措置ではなく、「恒久的な賃金改善」へつながるかどうかが最大の注目ポイントです。

現場職員の多くは、

「一時的じゃ意味がない」
「将来の給与が読めないと生活設計ができない」

と感じています。

今後の焦点は、

  • 次の介護報酬改定でどう位置づけられるか
  • 基本報酬は引き上げられるのか
  • 処遇改善加算の一体化の影響
  • 職種間の格差是正が進むか
  • 財源確保をどうするのか

といった、政策レベルの議論になります。

“一過性で終わらせない仕組み”になるかどうかが、現場の将来を大きく左右することは言うまでもありません。

⑤ 給料だけではなく「働きやすさ」の改善につながるか

介護職が求めているのは、賃金アップだけでなく働き方そのものの改善です。

特に重要なのは、

  • 有休取得しやすい環境
  • 夜勤負担の軽減
  • 移乗や入浴介助の身体負担を減らす仕組み
  • 人員不足の改善
  • ICT・介護ロボットの導入

といった、総合的な労働環境の整備。

賃上げだけでは離職は防げません。
給与 × 働きやすさ × 将来性
の3つが揃って初めて、現場職員が長く働ける環境が整います。

これらが今後どのように議論され、実行されていくかは、現場にとって非常に重要な視点になります。

まとめ

今回の賃上げは「ゴール」ではなく、ここから始まるスタートライン。

今回の政府による賃上げ措置は、介護現場にとって間違いなく大きな「希望の一歩」です。
月1万円・半年分という数字だけを見れば物足りなく感じる方もいるかもしれません。しかし、重要なのは金額そのものではなく、“介護人材の処遇改善を継続的に進める”という政府の方向性が明確に示されたことです。これは制度面から見ても、大きな意味を持つ前進といえます。

一方で、もちろんこれだけで現場の課題がすべて解決するわけではありません。
賃金改善と並行して、

  • 業務量の最適化
  • 休みやすさ・働きやすさの確保
  • 人員配置基準の見直し
  • 教育・研修の仕組み
  • キャリアパスの整備
  • 介助者の身体を守る技術の普及
  • 福祉用具の活用やICT化

など、多方面の取り組みがなければ、真の意味で「介護の仕事を続けたいと思える環境」にはつながりません。

これからの報酬改定や制度設計、そして事業所ごとの方針づくり――
まさに“これから”が本番です。
現場の声をどう制度に反映させるのか、事業所がどう生かすのか、国がどこまで継続的な支援を示せるのか。すべてが問われるフェーズに入っています。

しかし、それでも今回の賃上げによって、

「介護の待遇は変わらない」
「もう改善は望めない」

という空気は、少しずつではありますが確実に変わりつつあります。

これまで閉ざされていた扉が、ようやく開き始めた。
改善をあきらめず、声を上げ、行動すれば、未来は変えられる。

今回の措置は、そのための確かな“スタートライン”です。
現場に立つ私たち一人ひとりの働きかけが、介護の明日をつくっていくと感じています。

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参考にしたリンク

・ハートページ
・nippon.com
・m3.com
・介護ニュースJoint

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この記事を書いた人

訪問看護ステーション2事業所、福祉用具貸与事業所1事業所を運営している理学療法士です。
YouTube「やしのきチャンネル」では介護技術を発信し、現在チャンネル登録者数は15万人を超えています。また、「からだをいたわる介護術」を出版し、介護現場で役立つ知識を広めています。

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