【移乗介助のダメな例】現場でよく見かける7つのパターン|改善策も解説

もくじ

はじめに

介護・看護の現場で毎日のように行われる「移乗介助」。
車椅子からベッド、ベッドからポータブルトイレ、あるいは椅子への移乗など、場面はさまざまですが、どれも日常的に繰り返される非常に重要な介助動作の一つです。

しかし、日々の忙しさや慣れから、知らず知らずのうちに“自己流”の方法になってしまっている方も多いのではないでしょうか?
そしてその“なんとなく”の介助が、実はご利用者様の転倒や痛みの原因となったり、介助する人自身の腰痛・肩こりといった不調の引き金になっていることも少なくありません。

例えば……

  • ご利用者様を上に持ち上げようとして腰を痛めた
  • 車椅子のフットレストを外さずに移乗して足が引っかかった
  • ズボンをつかんで移乗させようとして衣類が破れた

……そんな経験、思い当たる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事では、現役の理学療法士として現場で多くの介助場面に関わってきた筆者が、「現場で本当によく見かける移乗介助のダメな例」を7つ厳選してご紹介します。
それぞれのNGパターンに対し、ご利用者様の動きを引き出すコツや、介助者の体への負担を軽減する方法など、具体的な改善ポイントも丁寧に解説しています。

「最近なんとなく移乗介助がうまくいかない」「腰痛がひどくなってきた」「新人職員に教えるポイントがわからない」
そんな方にこそ役立つ内容です。ぜひ最後までご覧ください。

なぜ移乗介助は注意が必要なのか?

移乗介助は、介護・看護の現場で最も事故が起きやすい動作のひとつです。
たとえば、ベッドから車椅子への移乗や、トイレへの移動時など、ご利用者様の体の動きは介助者に任され、いわば“無防備”な状態になる場面であり、その一瞬の判断ミスや動作のズレが、転倒・転落などの重大事故につながるリスクがあります。

実際、厚生労働省や多くの自治体の事故報告書を見ても、施設・訪問ともに「移乗介助中の事故」が最も多いとされています。私が運営しているYouTubeチャンネル “【プロが教える介護技術】やしのきチャンネル” でも、移乗介助の動画は再生回数も比較的多く、コメントにも移乗に関する質問が多く寄せられる傾向にあります。

高齢者や障がいを抱える方の場合、ちょっとした転倒でも骨折や頭部外傷などの大きなケガにつながり、そのまま寝たきり状態になってしまうこともあるため、特に注意が必要です。

さらに忘れてはならないのが、介助者側のリスクです。
無理な姿勢でご利用者様を持ち上げたり、腰をかがめた状態で力任せに動かしたりすることで、痛やぎっくり腰、肩の腱板損傷など、身体へのダメージを蓄積してしまい、場合によっては職場復帰できないケースもあります。

現場でよくあるケースとしては…

  • 毎日の移乗介助で少しずつ腰を痛めていたが、ある日突然ぎっくり腰に…
  • 肩を使いすぎて腱板断裂になり、仕事を長期で離脱することに…
  • 疲れから集中力が落ち、ご利用者様を転倒させてしまった…
  • 日々の仕事のストレスから腰痛が悪化することも…

このようなことを防ぐには、「やり方を知っている」だけでなく、ご利用者様の残存能力を活かしながら、安全かつ効率的に動いてもらうという視点が不可欠です。
つまり、「介助する側が頑張る介助」ではなく、「ご利用者様と一緒に行う介助」に変えていくことが、リスク軽減にもつながります。

だからこそ、正しい知識と動作のコツを押さえた移乗介助の習得は、すべての介護職・看護職にとって最優先の課題なのです。

【移乗介助のダメな例】現場でよく見かける7つのパターン

①ご利用者様を「上に」持ち上げている

介助中に腕で上へ引き上げるように移乗させる場面をよく見かけます。
しかし、これは重心が安定せず、ご利用者様が不安定になりやすい典型的なNG例。

改善ポイント:

  • 「お辞儀してください」と声をかけ、前傾姿勢で重心を前に移す
  • ご利用者様の足を軸に、お尻を“回転”させるように移乗する

上ではなく、前に移動していただくことが大切!

②足の間に自分の足を入れている

介助者が安定感を得ようと、ご利用者様の足の間に自分の足を入れるケースも多く見られます。
この行為自体が悪いのではなく、実はこれ、ご利用者様の前傾動作を妨げてしまう原因です。

改善ポイント:

  • 正面に立つのではなく、やや斜め前からサポート
  • ご利用者様が自然に体を前に倒せるスペースを確保

ご利用者様の前傾動作を妨げてしまわないのであれば、ご利用者様の足の間に自分の足を入れても問題ありません。

③ズボンやお尻を持ってしまう

これも少し前までは非常に多くみられていた介助方法のひとつで、確かにズボンやオムツを掴むと介助が楽にできることがあります。しかし、ズボンやオムツを掴んでの介助は、服が破れて転倒につながったり、鼠蹊部(そけいぶ)等の皮膚を傷つけたりするリスクが高く、トラブルの原因になります。

改善ポイント:

  • 正しい移乗介助技術を無につける
  • どうしても掴まないとできない場合は、専用の移乗サポートベルトやスライディングシートを活用
  • 体幹や骨盤周囲をしっかり支えられる道具を使うと安心

おすすめアイテム:
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④手引きが不適切

歩行介助や移乗介助の際に、「手引き介助」をよく見かけますが、ご利用者様の「手」だけを握って引っ張るような介助は、転倒・腕の捻挫・肩の脱臼などのリスクがあります。特に膝折れに対しての対応が難しく、転倒のリスクは非常に高くなります。

改善ポイント:

  • 手ではなく、前腕や肘を支えるようにサポート
  • 介助者自身もご利用者様に近づいて体ごと支える意識を持つ

比較表(安全な手引き vs 危険な手引き)

手引き方法安全性解説
前腕・肘を支える安定感があり、転倒リスクも低い
手首・手だけを持つ×支えになっていない

⑤足の位置がズレている

立ち上がる際、ご利用者様の足が前に出すぎていたり、揃っていなかったりすることをよく見かけます。
これは重心移動がうまくいかず、立ち上がれない・ふらつく原因になります。

「介助者主体で介助する」という意識よりも、ご利用者様が立ち上がる・移乗する動きを「サポートする」意識で取り組むことが大切です。ご利用者様が動きやすい足の位置がどこなのかを考えましょう。

改善ポイント:

  • お尻を軽く前に出す
  • 膝が90度よりも少しに曲がる位置で、床にしっかり足がついていることを確認

これだけでも、重心が支持基底面に乗り、立ち上がり・移乗がしやすくなります。ご自身でも体感してみてください。

⑥ベッドの高さが合っていない

「ちょっとくらい大丈夫」と思って調整をサボると、ご利用者様の移乗動作が難しくなったり、介助者に大きな負担がかかったりします。

ベッドの高さが高い…滑り落ちて転落のリスクが高い。
ベッドの高さが低い…立ち上がりに、大きな力が必要。介助量も多くなり負担が大きくなる。

改善ポイント:

  • 太ももが床とやや上向きになる高さがベスト
  • 立ち上がりやすさと腰への負担軽減のバランスが大切

ご自身で体感してみるとわかりやすい。

⑦フットサポート・アームサポートの操作ミス

車椅子のフットサポートを外していないアームサポートを上げていないなど、準備が不十分なまま移乗するのもよくあるミスです。「面倒臭い」「これくらい大丈夫」ではなく、外せるものは外してください。

フットサポートは、ご利用者様の足を傷つけるリスクがあり、アームサポートが邪魔でうまく移譲できないことがあります。

改善ポイント:

  • フットサポートは必ず跳ね上げor取り外し
  • アームサポートが上がるなら上げて、ベッドに横付けする

※車椅子の種類によっては、上記ができないこともあります。そんな場合は基本通りに、ベッドに対して30度ほど車椅子を斜めに当てると移乗しやすくなります。また、フットサポートにご利用者様の足が当たらないように細心お注意を払ってください。

まとめ|よくある「ダメな例」を見直せば、介助はもっと楽になる!

移乗介助は、ご利用者様の生活の質(QOL)を大きく左右するだけでなく、介助者自身の身体の負担や安全にも直結する重要な介護技術です。
今回ご紹介した7つの「ダメな例」は、どれも現場で“よくある光景”ですが、見方を変えれば、誰もがすぐに改善できるポイントでもあります

改めて振り返っておきましょう。

ダメな例改善ポイント
上に持ち上げる前傾姿勢+回転を意識
足の間に足を入れる斜め前からのサポート
ズボンを持つ正しい介助を身につける+ベルトや補助具を使う
手引きのミス肘や前腕を支える
足の位置がズレる膝90度より少し曲げる+足底を床に接地
ベッドの高さ不一致床に対して太ももがやや上向きになるよう調整
フット・アームレスト未調整移乗前に必ずセット確認

これらのポイントを意識するだけでも、移乗の成功率、安全性、そして介助者の身体的負担は格段に変わります
また、毎日の業務の中で無意識に行っている動作こそ、見直す価値があるかと思います。
「これまでのやり方」が必ずしも「正しいやり方」ではないことを、この記事を通じて感じていただけたら幸いです。

ご利用者様の安心・安全、そして介助者自身の健康を守るために、ぜひ明日からの実践に役立ててください。

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ぜひ現場研修や新人指導にもご活用ください。

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この記事を書いた人

訪問看護ステーション2事業所、福祉用具貸与事業所1事業所を運営している理学療法士です。
YouTube「やしのきチャンネル」では介護技術を発信し、現在チャンネル登録者数は15万人を超えています。また、「からだをいたわる介護術」を出版し、介護現場で役立つ知識を広めています。

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