【事故が起きる本当の原因】「できているつもり介助」が一番危険な理由

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もくじ

はじめに|事故は「できていない介助」より「できているつもり介助」で起きる

介助事故というと、

「明らかに無理な移乗をした」
「声かけもなく急に立たせた」

といった、誰が見ても危険な介助を思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし、実際の現場で起きている事故やヒヤリハットを振り返ると、
最初から“危ない”と分かっていた介助は意外と少ないのが現実です。

むしろ多いのは、

  • いつも通りやっていた
  • 今まで問題なかった
  • 自分では正しく介助しているつもりだった

――そんな「問題ないと思っていた介助」の積み重ねです。

特に怖いのは、
その介助が「できていない」と自覚されないまま、
毎日の業務の中で繰り返されてしまうこと

ヒヤリハットや事故の報告を見ていると、
そこにはある共通点が見えてきます。

それは、

介助者自身が“危険だと思っていなかった”
むしろ「慣れていて安心な介助」だと感じていた

という点です。

実際、現場で多いヒヤリハットや事故の背景には、
明らかな技術不足ではなく、
「できているつもり介助」が潜んでいることが少なくありません。

ヒヤリハットや介助事故の具体的な事例については、
こちらの記事でも詳しく解説しています。
▶︎ 【保存版】ヒヤリハットから学ぶ介護事故の防ぎ方|現場で使えるリスクマネジメント

この記事では、
なぜ「できているつもり介助」が一番危険なのか、
そして、どうすればその落とし穴に気づけるのかを、
現場目線で整理していきます。

「自分は大丈夫」と思った方ほど、
ぜひ一度、立ち止まって読み進めてみてください。

「できているつもり介助」とは何か?

「できているつもり介助」とは、
介助者本人は正しいと思って行っているにもかかわらず、
実際にはリスクを含んでいる介助
のことを指します。

大きな特徴は、

  • 乱暴でもない
  • 明らかに危険そうでもない
  • 一見、問題なく見える

それなのに、
ヒヤリハットや事故につながる可能性を含んでいる点です。

自分では正しいと思っている介助

できているつもり介助の一つ目の特徴は、
介助者自身が「正しくできている」と信じていることです。

  • 研修で習ったつもり
  • 先輩のやり方を見て覚えた
  • これまで何度も問題なくできていた

こうした経験が積み重なることで、
介助の一つひとつを確認する意識が薄れていきます。

その結果、

「なぜこの立ち位置なのか」
「なぜこのタイミングで動くのか」

を説明できないまま、
“感覚的な介助”になってしまうことがあります。

周囲からも注意されない介助

できているつもり介助は、
周囲からも指摘されにくいという特徴があります。

  • 見た目に大きな問題がない
  • スムーズに終わっているように見える
  • ご利用者様も特に不満を言わない

そのため、
「誰にも注意されていない=安全」
と誤解されやすいのです。

しかし実際には、
たまたま事故が起きていないだけ
というケースも少なくありません。

周囲の目をすり抜けてしまうからこそ、
この介助は修正されないまま積み重なっていきます。

マニュアルから少しズレている介助

多くのできているつもり介助は、
マニュアルを大きく外れているわけではありません。

  • 足の位置が数センチ違う
  • 声かけの順番が省略されている
  • 待つ時間が短い

こうした「少しのズレ」が、
日常の介助の中に紛れ込んでいます。

忙しさや慣れの中で、
「このくらいなら大丈夫」
と判断されやすいポイントでもあります。

しかし、この小さなズレこそが、
ご利用者様のバランス崩れや不安につながり、
事故の引き金になることがあるのです。

本人に自覚がないのが最大の特徴

できているつもり介助が一番厄介なのは、
介助者本人に“ズレている”という自覚がないことです。

だからこそ、

  • 振り返られない
  • 修正されない
  • 同じ介助が繰り返される

その結果、
ある日突然、ヒヤリハットや事故として表に出てきます。

なぜ「できているつもり介助」が一番危険なのか

できているつもり介助が危険なのは、
介助技術そのものが未熟だからではありません。

むしろ、
「問題ない」「安全だ」と思われたまま続いてしまうことに、
本当の怖さがあります。

修正されないまま繰り返される

できているつもり介助は、
毎日の業務の中で、何度も何度も繰り返されます。

  • 毎日やっているから大丈夫
  • 今まで事故がなかったから大丈夫

こうした思考は、
決して特別なものではなく、
忙しい現場では誰もが抱きやすい感覚です。

しかし、
「毎日やっている」という事実は、
正しさの証明にはなりません。

むしろ、
少しズレた介助が修正されないまま積み重なることで、
リスクは静かに蓄積されていきます。

気づいたときには、
それが「自分のやり方」として固定され、
見直すきっかけすら失われていることも少なくありません。

ヒヤリハットとして表に出にくい

できているつもり介助は、
ヒヤリハットとして報告されにくいという特徴があります。

  • 転倒までは至らなかった
  • 何となく危なかった気はする
  • でも結果的には何も起きなかった

こうした場面は、
「気のせいだったかもしれない」
と流されてしまいがちです。

その結果、
危険の芽が共有されず、現場に残り続けることになります。

本来、ヒヤリハットは
事故を防ぐための大切なサインですが、
できているつもり介助の場合、
そのサイン自体が見逃されてしまうのです。

事故が起きたときのダメージが大きい

そして何より怖いのは、
事故が起きたときのダメージが大きいことです。

「いつも通りやっていた」
「特別なことはしていない」

そう思っていた介助で事故が起きると、
原因が分かりにくく、
再発防止策も立てにくくなります。

さらに、
「自分は大丈夫だと思っていた」という認識がある分、
介助者自身の精神的ショックも大きくなりがちです。

事故後に

「もっと確認しておけばよかった」
「なぜあの時、違和感に気づけなかったのか」

と自分を責めてしまうケースも少なくありません。


できているつもり介助は、
派手さも分かりやすさもありません。

だからこそ、
見直されないまま続き、
ある日突然、大きな事故として表に出てしまう
のです。

現場でよくある「できているつもり介助」具体例

ここからは、
現場で特によく見られる
「できているつもり介助」の具体例を見ていきます。

どれも、
悪気があって行われているものではありません。

むしろ、
「効率よく」「スムーズに」やろうとした結果
無意識に身についてしまった動きです。

移乗介助で“一瞬浮かせる”癖

移乗介助の場面で、
ご利用者様の体を浮かせるように持ち上げてしまう
現場ではよく見かける動きです。

  • ベッドと車いすの距離が少しある
  • 早く終わらせたい
  • いつも問題なくできている

こうした理由から、
「少しだけなら」と無意識に行われがちです。

しかし、この“一瞬”こそが、
バランス崩れや膝折れを引き起こしやすいポイントになります。

本来、移乗は
「持ち上げる」のではなく、
ご利用者様自身の動きを引き出し、支える介助です。

このズレが積み重なると、

「今日は力が入らなかった」
「たまたまタイミングが合わなかった」

といった形で、事故につながることがあります。

移乗介助のNG例と正しい考え方については、
こちらの記事で詳しく解説しています。
▶︎ 【移乗介助のダメな例】現場でよく見かける7つのパターン|改善策も解説

声かけを省略した立ち上がり介助

立ち上がり介助の際、
つい声かけを簡略化したり、
タイミングを合わせずに動いてしまうことはないでしょうか。

  • 「じゃあ立ちますね」と言いながらすぐ動く
  • ご利用者様の準備を待たずに体を支える
  • 反応を見る前に引き上げてしまう

こうした介助は、
慣れている人ほどやりがちです。

ご利用者様が
「言われたから動いた」だけの状態では、
足に力が入りにくく、
ふらつきや前方への崩れが起こりやすくなります。

声かけは“儀式”ではなく、
動きを引き出すための重要な介助技術です。

歩行介助で位置がズレている

歩行介助では、
介助者の立ち位置や手の位置のズレが、
そのまま転倒リスクにつながります。

  • 少し離れてに立ちすぎている
  • 横に出すぎて支えが遅れる
  • 弱いほうの足側を意識できていない

これらは一見、
大きな問題がないように見えます。

しかし、
歩行中のバランス崩れは一瞬です。

介助者の位置がズレていると、
支えが間に合わず、ヒヤッとする場面が起こりやすくなります。

歩行介助の基本については、
こちらの記事も参考になります。
▶︎ 【​介護職必見】理学療法士が教える!基本的な歩行介助

ご利用者様の「大丈夫」に頼りすぎる介助

「大丈夫です」
「自分でできます」

ご利用者様のこうした言葉は、
私たちにとってありがたいものです。

しかし、
その言葉をそのまま鵜呑みにしてしまうことが、
できているつもり介助につながることがあります。

  • 表情がこわばっている
  • 足運びが不安定
  • いつもより反応が遅い

こうしたサインを見逃したまま、
「大丈夫って言ってたから」と介助を進めてしまうと、
想定外の動きに対応できません。

ご利用者様の言葉だけでなく、
動き・表情・反応を合わせて見ることが、
安全な介助につながります。


これらの例に共通しているのは、
「今まで大丈夫だったから」という安心感です。

なぜベテランほど陥りやすいのか

「できているつもり介助」は、
新人よりも、むしろ経験を積んだベテランの方が陥りやすい傾向があります。

これは決して、
技術が低いからでも、
意識が足りないからでもありません。

長く現場を支えてきたからこそ起こる現象です。

経験が「確認」を省略させる

経験を重ねることで、
介助は自然とスムーズになります。

  • 動きに迷いがなくなる
  • 状況判断が早くなる
  • 全体を見ながら介助できる

これは本来、
ベテランの大きな強みです。

しかし一方で、
この「慣れ」が
一つひとつの確認を省略させてしまうことがあります。

  • 今日は足に力が入っているか
  • 立ち位置は本当に合っているか
  • 声かけのタイミングは適切か

こうした確認を、
「いつも通りだから」と無意識に飛ばしてしまう。

その結果、
介助が点検されないまま続いてしまうのです。

成功体験がアップデートを止める

長年、事故なく介助をしてきた経験は、
何よりの自信になります。

  • 今まで大丈夫だった
  • このやり方で問題なかった
  • 現場でも通用してきた

こうした成功体験は、
現場を支える力である一方、
新しい視点を取り入れるブレーキにもなり得ます。

介助技術や考え方は、
少しずつアップデートされています。

それでも、
「今のやり方で困っていない」
という感覚が強いと、
見直すきっかけを失いやすくなります。

結果として、
気づかないうちにズレが固定化してしまうのです。

新人から指摘されにくい空気

もう一つ、
ベテランほど陥りやすい理由があります。

それは、
新人や後輩から指摘されにくい立場であることです。

「間違ってたら失礼かも」
「自分より経験があるし…」
「言いづらい雰囲気がある」

こうした空気の中では、
たとえ違和感があっても、
声に出されないことが多くなります。

その結果、
本来なら修正されるはずのズレが、
誰にも触れられないまま残ってしまうのです。

介助に慣れてくるほど、「安全」と「自立支援」のバランスが崩れてしまうことがあります。
介助の根本的な考え方については、こちらの記事も参考にしてみてください。
▶︎ 介助を行う上で本当に大切なこと|自立支援という考え方


ベテランの介助が危険なのではありません。
見直されなくなることが、一番のリスクです。

だからこそ大切なのは、
「自分はできているか」ではなく、
「今も確認できているか」という視点です。

「できているつもり介助」から抜け出すための視点

「できているつもり介助」に気づけた時点で、
それはもう改善のスタートラインに立っています。

特別な技術や、新しい資格が必要なわけではありません。
大切なのは、
介助の見方を少し変えることです。

介助を“感覚”ではなく“再現性”で考える

ベテランになるほど、
介助は「感覚」でできるようになります。

  • なんとなくこの位置
  • いつものタイミング
  • 感じ的にいけそう

この感覚は、
経験から生まれた大切なものです。

ただし、
感覚だけに頼った介助は、
他の人が真似できず、振り返りもしにくいという弱点があります。

一度、
「この介助を他の人に説明するとしたら?」
と考えてみてください。

  • 立ち位置
  • 足の位置
  • 声かけの順番

言葉にできる介助は、
誰がやっても同じ結果を目指せる介助です。

それが、
事故を防ぐための「再現性」です。

なぜその動きなのか説明できるか

自分の介助を振り返るとき、
とても有効な問いがあります。

「なぜ、その動きをしているのか?」

  • なぜその位置に立つのか
  • なぜそのタイミングで声をかけるのか
  • なぜその支え方なのか

これを説明できない動きは、
知らないうちに
「なんとなく続けている介助」
になっている可能性があります。

逆に、
理由を説明できる介助は、
状況が変わっても調整ができます。

理解している介助は、崩れにくい。
これが、できているつもり介助から抜け出す
大きなポイントです。

ご利用者様の動きを待てているか

もう一つ、
とても大切な視点があります。

それは、
ご利用者様の動きを待てているかどうかです。

  • 声かけのあと、少し待っているか
  • 体が前に出るのを確認しているか
  • 足に力が入ったのを感じ取れているか

忙しい現場では、
つい介助者主導で動いてしまいがちです。

しかし、
「待つ」ことで見えてくる情報は、
想像以上に多くあります。

ご利用者様の動きを引き出すことは、
安全性だけでなく、
自立支援にも直結する介助です。

介助の主役は、
あくまでご利用者様。
介助者は、その動きを支える存在です。


これらの視点を持つだけで、
介助は一気に
「慣れ」から「確認」へ変わっていきます。

明日からできるチェックポイント

「できているつもり介助」を防ぐために、
毎回すべてを完璧に意識する必要はありません。

まずは、
この3つだけをチェックするところから始めてみてください。

① 声かけを毎回同じ順番でしているか

声かけは、
気づかないうちに省略されやすいポイントです。

  • 今日も同じ順番で声をかけているか
  • ご利用者様が理解できるタイミングか
  • 動き出す前に、少し“間”を取れているか

順番が毎回バラバラだと、
ご利用者様は動きづらくなり、
結果的に介助者が無理に支える形になります。

声かけをルーティン化するだけで、
介助は驚くほど安定します。

声かけを毎回同じ順番で行うことは大切ですが、
もちろん、機械的に同じ言葉を繰り返すという意味ではありません。

その日のご利用者様の表情や体調に合わせて、
感情を込めた声かけを心がけることが前提です。

② 立ち位置・足位置を意識しているか

介助が崩れる原因の多くは、
実は介助者自身の立ち位置にあります。

  • ご利用者様の重心の動きに対応できる位置か
  • 強いほうの足側・麻痺側を意識できているか
  • 自分の足が踏ん張れる位置にあるか

立ち位置と足位置は、
「分かっている」だけでは不十分です。

毎回、意識して確認しているかどうかが、
安全性を大きく左右します。

③ 「急がせていないか」を振り返る

最後に、
一番見落とされやすいチェックポイントです。

それは、
ご利用者様を急がせていないかという視点。

  • 声かけから動き出しまでが早すぎないか
  • 待つ前に支えていないか
  • 自分の都合でペースを決めていないか

「急がせない介助」は、
安全なだけでなく、
ご利用者様の安心感にもつながります。

忙しい日ほど、
この点を一度だけでも振り返ってみてください。


この3つを意識するだけで、
介助は「慣れ」から「確認」へと変わります。

まとめ|介助の質は「慣れ」ではなく「気づき」で決まる

介助事故の原因は、
必ずしも下手な介助にあるわけではありません。

本当に危険なのは、
「できていない介助」よりも、
正しいと思われたまま、見直されなくなった介助です。

毎日、当たり前のように行っている介助ほど、
疑うきっかけを失いがちになります。

  • 今まで大丈夫だった
  • いつも通りやっている
  • 特に問題は起きていない

こうした安心感の中に、
事故の芽は静かに潜んでいます。

だからこそ大切なのは、
新しい技術を増やすことよりも、
今日の介助を一度立ち止まって振り返ることです。

  • 声かけは本当に合っていたか
  • 立ち位置は適切だったか
  • ご利用者様の動きを待てていたか

ほんの少し疑ってみるだけで、
介助は「慣れ」から「気づき」へと変わります。

その積み重ねこそが、
事故を防ぎ、
ご利用者様と介助者、
双方を守る介護につながります。

「できているつもり」から一歩抜け出すこと。
それが、明日の安全な介助への第一歩です。

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この記事を書いた人

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心あるケアは、技術にできる。
理学療法士が現場で培った“考え方と介護技術”を伝える実践ブログです。

合同会社やしのき 代表
理学療法士/訪問看護ステーション・福祉用具貸与事業所を運営。
現場での経験をもとに、
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