はじめに
介助の現場では、
「転倒しなくてよかった」
「今回はたまたま大丈夫だった」
そんな経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。
いわゆるヒヤリハットです。
大きな事故にはならなかったものの、
一歩間違えれば転倒や骨折につながっていたかもしれない――
そんな“ヒヤッ”とした瞬間は、決して珍しいものではありません。
重要なのは、
事故は突然起きるものではないということです。
その多くは、ヒヤリハットという「前兆」を経て起こります。
ヒヤリハットは、
「自分の介助が下手だった証拠」でも
「誰かを責めるための材料」でもありません。
しかし現場では、
- 忙しさ
- 慣れ
- 「まあ大丈夫だろう」という思い込み
によって、ヒヤリハットがそのまま流されてしまうことも少なくありません。
その結果、
同じような場面で、
同じような動きが繰り返され、
ある日「事故」という形で表に出てしまいます。
この記事では、
介助現場でよくあるヒヤリハットをもとに、
- ヒヤリハットと事故の違い
- なぜヒヤリが起きるのか
- 介助者としてどこを見るべきか
- チームでどう活かしていくか
を、現場で使える視点に絞って解説していきます。
「事故を起こさない介助」を目指すのではなく、
「事故が起きにくい介助・環境・チーム」をつくること。
その第一歩として、
ぜひヒヤリハットを“学び”として捉える視点を持ってもらえたらと思います。
ヒヤリハットとは何か(事故との違い)
ヒヤリハットとは、
大きな事故には至らなかったものの、一歩間違えれば事故になっていた出来事を指します。
- 転倒しそうになった
- 立ち上がりの途中でふらついた
- 移乗時に一瞬バランスを崩した
こうした場面で、
「ヒヤッとした」「ハッとした」経験は、多くの介助者が一度はあるはずです。
重要なのは、
ヒヤリハットと事故は別物ではないという点です。
ヒヤリ=偶然助かっただけ
- たまたまご利用者様が踏ん張れた
- たまたま手すりに手が届いた
- たまたま介助者が咄嗟に支えられた
つまり、
偶然の要素によって事故にならなかっただけというケースがほとんどです。
その場では
「大丈夫だったから良かった」
と感じてしまいがちですが、
介助の方法や環境が同じであれば、
次も同じようにヒヤリが起こる可能性があります。
そして次は、
偶然が味方してくれないかもしれません。
事故と本質は同じ
ヒヤリハットと事故の違いは、
結果としてケガが起きたかどうかだけです。
- 介助の立ち位置
- 声かけのタイミング
- ご利用者様の状態把握
- 環境(高さ・位置・物品配置)
これらの要因は、
ヒヤリハットでも事故でも本質的には同じです。
事故は、
突然起きたように見えて、
実は過去のヒヤリハットの積み重ねの延長線上にあります。
だからこそ、
ヒヤリハットの段階で気づき、振り返り、修正できれば、事故は防ぐことができます。
ヒヤリハットは
「失敗」ではなく、
事故を防ぐために与えられた“気づきの機会”。
そう捉えることが、
リスクマネジメントの第一歩になります。

介助現場で多いヒヤリハット事例
ヒヤリハットは、特別な場面で起こるものではありません。
多くは、毎日何気なく行っている介助の中で起こります。
ここでは、介助現場で特に多いヒヤリハット事例を、代表的な場面ごとに見ていきます。
立ち上がり時のヒヤリハット
立ち上がり介助は、
ヒヤリハットが最も起こりやすい場面のひとつです。
- 立ち上がった瞬間にふらつく
- 体が前に出ず、後ろへ倒れそうになる
- 介助者が引っ張る形になりバランスを崩す
原因として多いのは、
タイミングが合っていない介助です。
ご利用者様の体重移動ができていない段階で
「せーの」と引き上げてしまうと、
下肢や体幹が支えきれず、ふらつきにつながります。
「何度もやっている動作だから大丈夫」
という思い込みが、
ヒヤリハットを見逃す原因になることもあります。
移乗時のヒヤリハット
ベッドから車椅子、
車椅子からトイレなど、
移乗介助もヒヤリハットが起こりやすい場面です。
- 座り直しの途中でお尻がずれる
- 立位が安定しないまま方向転換してしまう
- 介助者の足元がご利用者様と絡む
- ご利用者様の足がしっかり地面についていない状態で介助する
- 車椅子のブレーキのかけ忘れ
特に多いのが、
「早く終わらせたい」という気持ちが先行した移乗です。
一つ一つの動作を飛ばしてしまうと、
ご利用者様のバランスが崩れやすくなります。
ヒヤリハットは、
「移乗そのもの」ではなく、
動作のつなぎ目で起こることが多いのが特徴です。
声かけ不足によるヒヤリハット
介助者にとっては当たり前の動きでも、
ご利用者様には何をされるのかわからないことがあります。
- 声かけなしで身体に触れた
- 動き出すタイミングが伝わっていない
- 理解できていないまま動作が進む
その結果、
ご利用者様が予想外の動きをしてしまい、
ヒヤリハットにつながるケースも少なくありません。
「今から立ちます」
「右に回ります」
といった一言の声かけがあるだけで、
事故のリスクは大きく下がります。
環境要因(高さ・位置・物品配置)
ヒヤリハットの原因は、
介助者やご利用者様だけにあるとは限りません。
- ベッドや椅子の高さが合っていない
- 車椅子の位置が遠い・近すぎる
- 足元に物が置かれている
環境が整っていない状態で介助を行うと、
どれだけ注意していてもヒヤリハットは起こりやすくなります。
特に忙しい現場では、
環境調整を省略したまま介助に入ってしまうことも多くなりがちです。
しかし、
環境を整えることは、
最も確実で、最も簡単な事故予防でもあります。
ヒヤリハットが起きる3つの共通原因
介助現場で起こるヒヤリハットは、
一見すると状況やご利用者様の状態が原因のように見えます。
しかし振り返ってみると、
多くのヒヤリハットには共通する原因があります。
ここでは、特に多い3つの原因について整理します。
焦り(時間・気持ち)
ヒヤリハットの背景として最も多いのが、
時間的・心理的な焦りです。
- 次の予定が詰まっている
- 人手が足りない
- 早く終わらせなければならない
こうした状況では、
無意識のうちに動作が早くなり、
確認や声かけが省略されがちになります。
焦っていると、ご利用者様の動きや表情の変化にも気づきにくくなります。
結果として、
「いつもより雑な介助」
「いつもならしない動き」
が生まれ、ヒヤリハットにつながります。
焦りそのものが悪いのではなく、
焦っている状態に気づかないことがリスクになります。
「焦ってしまっている、丁寧にしよう」
この心構えが大切です。
思い込み(できるはず・大丈夫)
経験を積むほど、
「この方はこれくらいできる」
「前は大丈夫だった」
という思い込みが生まれやすくなります。
しかし、
ご利用者様の状態は日々変化しています。
- 体調
- 疲労
- 痛み
- 集中力
昨日できたことが、
今日もできるとは限りません。
「できるはず」という思い込みは、確認を省く原因になります。
ヒヤリハットが起きたとき、
「まさか今日に限って…」
と感じることがあれば、
そこには思い込みが潜んでいる可能性があります。
環境未調整(整っていない前提)
ヒヤリハットは、
環境が整っていない状態を前提に介助を始めたときにも起こりやすくなります。
- 高さを合わせていない
- 位置関係を確認していない
- 物が置かれたままになっている
忙しい現場では、
「後で直そう」
「このままでも何とかなる」
と進めてしまうこともあります。
しかし、
環境が不安定なまま介助を行うと、
介助者がどれだけ注意していても限界があります。
環境調整は、
技術や経験に関係なく、
誰でもできる最優先の安全対策です。
ヒヤリで終わらせないための介助者の視点
ヒヤリハットは、
その場で終わらせてしまえば、
ただの「怖い思い出」で終わってしまいます。
しかし、
少し視点を変えて振り返ることで、
次の事故を防ぐための材料になります。
ここでは、
ヒヤリハットが起きたあとに、
介助者として意識したい視点を整理します。
どこが危なかったのかを振り返る
- バランスが崩れた瞬間
- 体重移動が止まった場面
- 予想外の動きが出たタイミング
事故にならなかったからといって、
全体をひとまとめにしてしまうと、
具体的な改善点が見えなくなります。ヒヤリハットは、
動作の中の一瞬のズレで起こります。
自分の動き・立ち位置・声かけ
次に、
介助者自身の動きを振り返ります。
- 立ち位置は適切だったか
- 身体を引っ張る形になっていなかったか
- 声かけのタイミングは合っていたか
ヒヤリハットが起きた場面では、
介助者の動きが
ご利用者様の動きを妨げていることもあります。
自分の動きを言語化できるようになると、
介助の再現性と安全性は高まります。
ご利用者様の反応・表情・動き
最後に、
ご利用者様の反応を振り返ります。
- 表情が強張っていなかったか
- 迷いや不安が見られなかったか
- 動きが止まっていなかったか
ヒヤリハットが起きる前には、
多くの場合、
何らかのサインが出ていることがよくあります。
それに気づけなかったのか、
気づいていたが流してしまったのか。
ご利用者様の反応を振り返ることは、
「次はどこを見るべきか」を明確にしてくれます。
ヒヤリハットは、介助者・ご利用者様・環境、
それぞれの視点を重ねて振り返ることで、初めて意味を持ちます。
チームで活かすヒヤリハット(報告の意味)
ヒヤリハットは、
個人で気をつけるだけでは限界があります。
同じ現場で、同じご利用者様に、
複数の介助者が関わるからこそ、チームで共有する意味があります。

責めるための報告ではない
ヒヤリハット報告と聞くと、
「怒られるのではないか」
「自分のミスだと思われるのではないか」
と感じる方も少なくありません。
しかし、ヒヤリハット報告の目的は、
誰かを責めることではありません。
むしろ、
「よく気づいてくれた」
「事故になる前に止められた」
という、価値のある気づきです。
報告しづらい雰囲気があると、
ヒヤリハットは表に出なくなり、
同じリスクが現場に残り続けます。
次に活かすための共有
ヒヤリハットを報告することで、
個人の経験はチーム全体の知識になります。
- 同じ場面で注意すべき点
- 環境調整の工夫
- 声かけや立ち位置のポイント
これらを共有することで、
「自分は経験していないヒヤリ」からも学ぶことができます。
また、
新人や異動してきた職員にとっては、
事故を未然に防ぐための貴重な教材になります。
ヒヤリハットを共有する文化は、
現場全体の安全意識を高め、
結果的に介助者自身を守ることにもつながります。
まとめ
ヒヤリハットは、
「たまたま事故にならなかった出来事」ではありません。
それは、
事故を防ぐための最大のヒントです。
立ち上がりや移乗、声かけ、環境調整。
どれも日常的な介助の中で起こるからこそ、
ヒヤリハットは誰にでも起こり得ます。
大切なのは、
ヒヤリをそのまま流さないことです。
- どこが危なかったのか
- 自分の動きや声かけはどうだったか
- ご利用者様はどんな反応をしていたか
こうした視点で振り返ることで、
ヒヤリハットは「次に活かせる経験」に変わります。
そして、
その気づきをチームで共有することが、
現場全体の安全につながります。
ヒヤリハットを
個人の反省で終わらせず、
チームの学びとして積み重ねていく。
その積み重ねが、
事故を起こしにくい現場をつくり、
介助者とご利用者様、
双方を守ることにつながります。
安全な介助は、
特別な技術ではなく、
日々の気づきと共有の積み重ねから生まれます。
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