はじめに
ご家族様のトイレ介助は、日常的に避けて通れないケアのひとつです。
しかし、「うまくできない」「怖い」「転びそうで不安」という声はとても多く、訪問看護やリハビリの現場でも、最も悩みを抱えやすい場面と言われています。
トイレ動作が難しいのは、複数の動作が連続して行われる複雑な動きだからです。
- トイレまでいく
- 方向転換をする
- 便座に腰を下ろす
- ズボンや下着を下ろす
- 排泄中の姿勢を保つ
- 終われば清拭する
- ズボン・下着を引き上げる
- 立ち上がる
- 手を洗う
- 居室やリビング等に戻る
これらすべてを 限られたスペースの中で行わなければならず、ご家族様が介助を行う場合は特に、
「狭い」「滑る」「段差がある」「手すりがない」 など、環境面の不安も重なります。
さらに、ご本人様が
- 立ち上がりが不安定
- 膝や腰が痛い
- 認知症で手順がわからない
- トイレを我慢してしまう・訴えがない
など、身体的・心理的な要因も介助の難しさに影響します。
ですが、正しい介助のポイントを押さえるだけで、驚くほど安全でスムーズにできるようになります。
本記事では「今日から家で実践できること」も解説しています。
できるだけわかりやすく解説していきますので、最後まで読んでみてください。
まずは環境設定が最優先
トイレ介助で最も大切なのは、転倒や怪我を防ぐことです。
いくらスムーズに動かそうとしても、ご本人様や介助者自身が怪我をしてしまっては本末転倒です。まずは次に書くことを優先して取り組んでみてください。
一度に全部をやろうと思わなくて大丈夫ですので、少しずつ取り組んでみてください。
1. 環境を整える
- 床の滑り止めマットを敷く
- 段差をなくす、もしくはスロープで調整する
- 夜間は十分な照明を確保する(センサーライトが便利)
- 障害物や家具はなるべく移動させて通路を確保する
さらに、安全確保の観点からは寝室位置を見直すことも有効です。
夜間に長い距離を移動するのは、転倒リスクが高まります。
可能であれば、トイレ近くの部屋を寝室にすることも選択肢の一つです。
- 寝室からトイレまでの距離を短くする
- 夜間は寝室にポータブルトイレを設置する
- 廊下に手すりを追加する
- 動線上は片付ける
上記のように生活動線の工夫を検討すると、介助の負担も大幅に軽減できます。
2. 手すり・補助具の活用
トイレ介助で最も大切なポイントのひとつが、手すりや福祉用具を上手に使うことです。
立ち座りや方向転換は、ご利用者様の体重がかかる動作であり、手すりや福祉用具があるだけで安定性が格段に上がります。
手すりの活用ポイント
便座の横にL字型の手すりを設置すると、立ち上がりや座るときにしっかり支えられます。
図にあるように、一般的にトイレでよく見かける手すりの形だと思いますが、効率よく動作の支えになります。
ご本人様が1人で動かれる場合もですが、介助にてトイレに移っていただく際にも、手すりを持っていただくことで介助量は大幅に減ります。

トイレの中だけでなく、トイレに行く動線にも必要に応じて手すりを配置することが大切です。
福祉用具の活用
- 歩行器や車椅子を使ってトイレまで移動する場合
動線の整理はもちろん、トイレの扉前やトイレ内には十分なスペースが必要です。
広さが確保できる場合は問題ありませんが、スペースの確保が難しい場合は、動作の工夫を行ったり、別途手すりを設置したりすることも検討する必要があります。可能であれば、理学療法士や作業療法士に相談することがベストです。 - ポータブルトイレを活用する場合
夜間や寝室近くにポータブルトイレを設置することで、転倒リスクを減らすことができます。
ただし、介助を受けながらでもトイレに行ける場合は、日中はできるだけトイレにいっていただき、夜間のみポータブルトイレを使用するなど、状況に応じて使い分けることが望ましく思います。
このように工夫することで、身体機能の低下(廃用)を防ぐ効果が期待できます。介護力やご本人様の状態を考慮し、無理のない範囲でご検討ください。
移乗の介助方法も適切に
介助を行ううえで、介助者が腰など身体を痛めないことはとても重要です。その時は大丈夫に思えても、トイレ介助は毎日の積み重ねです。無理な姿勢のまま続けていると、ある日突然、腰や肩を痛めてしまうこともあります。
トイレ介助では、ご本人様の安全と同じくらい介助者の身体を守ることが大切です。無理な姿勢を続けていると、腰痛・肩の痛み・膝のトラブルにつながる可能性もあります。しかし、いくつかのポイントを押さえておけば、介助負担を大きく減らすことができます。
以下に車椅子からトイレ、ベッドからポータブルトイレへの移乗介助を行う際の注意点を簡潔にまとめました。参考にしてみてください。
腰を曲げすぎない
→「背中まっすぐ+股関節・膝関節でクッション」を意識する
多くの介助で腰を痛める原因は、腰を丸めて前屈みになる姿勢です。
これは腰に負担が集中してしまいます。
- 背中はできるだけまっすぐ
- 腰を折るのではなく、股関節と膝関節を軽く曲げて“しゃがむ”
- 足を肩幅より少し広めに開き、安定した姿勢で
この姿勢をとるだけで、腰への負担は大きく減ります。
最初は慣れない姿勢かもしれませんが、続けて意識することで慣れてくるはずなので、毎日の介助の中で意識してみてください。
ご本人の近くで介助
→「腕を伸ばさない・体を近づける」が基本
腕を伸ばした状態で支えると、腕の力だけに頼ることになり腰の負担が増大し危険です。
理想は、
- ご本人様との距離を近づける
- しっかりお辞儀をしていただき、足に体重が乗るように誘導する
- 腕の力に頼らない
距離が近いほど、大きな筋肉を使うことができ、体全体で支えられるので安全です。
無理に引き上げない
→「テコの原理・体重移動」を活かす
移乗動作では、介助者が力任せに引き上げようとすると危険です。
特に、ズボンやおむつを持って持ち上げるのはNG。破れて転倒する原因にもなりますし、鼠蹊部が擦れて皮膚トラブルが起きたり、とにかく本人様が不快に思います。
代わりに、
- ご本人様の前傾姿勢(お辞儀) を促す
- 介助者は足を前後に置き、体重移動で立ち上がりを補助
- 手すりなど補助具を最大限活用

介護技術の基本をまとめた記事もありますので参考にしてみてください。
限られたスペースで最小限の介助を探る
トイレはどうしても狭く、介助者もご本人も動きにくい空間です。無理な体勢で無理に動かそうとすると、転倒や腰痛などのリスクが高まります。そんな状況では、「必要な介助だけを行う」ことが、安全で効率的な介助の基本です。
具体的には、手すりや歩行補助具を最大限に活用し、立ち上がりや座位のサポートは体に近い位置で最小限に行うことがポイントです。腕や腰に力を入れすぎず、体重移動や福祉用具の力を借りることで、狭い空間でも無理なくスムーズな介助が可能になります。
また、ご本人様が自分でできる動作は極力見守りつつサポートすることで、自立度の維持にもつながります。最小限の介助で、最大の安全と自立を引き出す――この考え方が、狭いトイレでの介助では非常に重要です。
声かけで心理的安全も
介護を行う上で全てのことに言えることですが、身体的なサポートと同じくらい「声かけによる安心感」は大切なことです。ご本人様は「転びたくない」「迷惑をかけたくない」という不安を抱えやすく、突然体を支えられたり動かされたりすると恐怖につながります。
そのため、まずは動作の前に必ず予告する声かけを行いましょう。
- 「これからトイレに行きますね」
- 「今から手を持ちますので、ゆっくりで大丈夫ですよ」
- 「立ち上がるときは、前に体を倒しますね」
このように、これから何をするのかを事前に伝えるだけで、ご本人は心の準備ができ、緊張が和らぎます。
また、動作の順番がわからず不安になってしまう方には、ステップごとに行動を示す声かけがとても有効です。
- 「まずは足を少し前に出しましょう」
- 「はい、次はゆっくり立ち上がります」
- 「座るときはお辞儀をしてゆっくりお尻を下ろしていきましょう」
このように、動作の見通しを持てるように誘導することで、安全性が高まるだけでなく、ご本人様の“できた感”や自信にもつながります。
声かけは介助の質を大きく左右する大切なスキルのひとつです。こちらの記事も参考にしてみてください。
トイレまでの誘導のポイント
トイレまでの移動は、一見シンプルに見えますが、転倒リスクが最も高い場面のひとつです。特にご高齢の方や認知症のある方、立ち上がりに不安のある方は、歩き始める前の姿勢・動線・声かけひとつで安全性が大きく変わります。
拒否の強い方には“無理に連れて行かない”
ご本人様が拒否されている状態で介助者が無理に誘導すると、
- 抵抗動作が強くなる
- 転倒に直結する
- 大きな怪我につながる
といった危険が高まります。
拒否がある場合は、力で動かすのではなく、
やさしく、わかりやすい声かけで安心してもらうことが最優先です。
- 「トイレに行きますね」
- 「トイレは大丈夫ですか?」
- 「寝る前にトイレに行っておきましょうね」
- 「ゆっくりで大丈夫ですよ」
- 「一緒に行きましょうね」
- 「足元だけ気をつけてもらえたら大丈夫ですよ」
など、丁寧な説明と安心を促す声かけが効果的です。
焦りは禁物。急ぐのではなく“素早く丁寧に”
尿意が強いと介助者も焦りやすく、「早く連れて行かなきゃ」と急いでしまいがちですが、
焦りはそのまま転倒リスクにつながります。
特に、
・車椅子移動
・歩行介助
のどちらでも同じで、“急いで雑になる”ことが最も危険です。
大切なのは、
焦らず・しかし素早く・丁寧に動作をサポートすること。
冷静な対応が、結果的に最も早く・安全な誘導になります。

歩行時はご本人様に合わせたペースで
トイレまでの移動中は、次のポイントを意識すると安全性が高まります。
- 歩幅やスピードはご本人様に合わせる
- 足元をしっかり見てもらえるよう声をかける
- 無理に早歩きにさせない
- 必要であれば“一歩ずつ”付き添って介助する
「急がせる」よりも「確実に歩ける環境づくり」が最優先です。
トイレまでの誘導が安全にできるかどうかで、
その後の便座への移乗・排泄・立ち上がりのすべてがスムーズになるかが決まります。
安全な誘導は、トイレ介助全体を成功させる“土台”とも言える大切なステップです。
最後に大切なこと|“本当にトイレに行けるか”を見極めること
ここまで、ご家族様でも実践できる「安全なトイレ介助のコツ」をお伝えしてきました。しかし、実はそれ以上に大切なことがあります。
それは――
「そもそも今の状態で、トイレに行くことが安全かどうかを見極めること」です。
ご本人様の身体状況や住環境、そして介助者の介護力によっては、
「実はトイレに行くのは難しいのでは…?」
「無理に連れていくのは危険では…?」
というケースも少なくありません。
トイレに行くことは、とても大切。でも“無理は禁物”
トイレへ行くことは、
- 身体機能の低下を防ぐ(廃用予防)
- 自尊心を守る
- QOLを高める
とても重要な行為です。
しかし、無理に行こうとして転倒してしまえば本末転倒。
安全に行けることが前提であり、その判断が何よりも大切なのです。
見極めのポイント
次のような点を、冷静に判断してみてください。
- 歩いてトイレまで行ける状態か?
- 手すりを設置すれば安全に行けるか?
- 歩行器やシルバーカーでの移動なら可能か?
- 車椅子で移動して、安全に移乗できるか?
- 夜間だけはポータブルトイレの方が良いのか?
- 日中もポータブルトイレを使った方が安全なのか?
- オムツ対応が最も安全で安心できるのか?
この見極めこそが、
トイレ介助で最も重要な“判断力”です。
無理をしない選択も“正しい介護”
「トイレに連れて行かないのはかわいそう…」と考えるご家族は多いのですが、
安全のためにポータブルトイレやオムツを選ぶことは決して間違いではありません。
それは、ご本人様の安全を守るための“正しい介護の選択”です。
そして、状況が変われば、またトイレへ行ける方法を一緒に探していけばいいのです。
トイレ介助で最も大切なのは、
ご本人様と介助者の安全を守ること。
そのうえで、無理のない方法を選び、できる範囲で自立を支えていくことです。
あなたの介護は、必ずご本人様の安心につながっています。
どうか無理のない介助で、毎日のケアを続けてください。

まとめ
トイレ介助は、日常生活の中でもご家族様が最も負担を感じやすいケアの一つです。
狭い空間での動作、転倒の不安、ご本人様の不安定……さまざまな要素が重なり、難しさを感じるのは当然のことです。
しかし、
- 環境整備
- 手すり・福祉用具の活用
- 適切な介助方法
- うまく誘導する
- 声かけによる安心感
この5つのポイントを押さえるだけで、安全性は大きく高まります。
さらに最も大切なのは、
「今の状態で本当にトイレに行くことが適切かを見極めること」 です。
トイレに行くことで得られるメリットは大きいですが、無理をして転倒してしまうと元も子もありません。ご本人様の身体状況、住環境、介助する方の負担を総合的に考え、最も安全で続けやすい方法を選ぶことが何より重要です。
ご本人様にとっても、ご家族様にとっても、少しでも負担が減り、安全で安心できる排泄ケアが続けられることを願っています。どんな小さな不安でも、ぜひ相談しながら進めていきましょう。
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